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 すくーるでいず    -THE BOY MEETS THE GIRL- 

act28.ROUND2

 

 ランティスVS獅堂三兄弟ROUND2も佳境に入っていた。「アンフェアだから」と覚に止められていたにも拘わらず、

ランティスにあいまみえることなく男子バドミントンダブルスで敗退した翔はワイルドカードとして野球にも参戦し、

ランティスを野球場に引きずり出していた。試合のスケジュール上、ランティスが野球にフル参戦出来ないことは

判りきっているので、同点のまま迎えた九回裏、リリーフでマウンドに上がった翔が敵方のピンチヒッターとして

ランティスを指名するという、マンガでも見かけないような無茶で馬鹿馬鹿しい展開になっていた。この頃になると、

どこからどう伝わったのか、ランティスと獅堂三兄弟が何やら対決していることは周知の事実となっていて、見た目も

良ければ運動神経も抜群の四人だけに、男子も女子もそれを楽しんでいる空気があった。かくして優とのバレー

ボールの試合の前に野球場でウォーミングアップをする羽目になったランティスは、翔の要望通りバッターボックスに

立ち、放っておけばボールになるような悪球を力づくでホームランにして翔の鼻っ柱をへし折っていた。これでサヨナラ

勝ちを収めたチーム・ランティスは男子バドミントンダブルスに続き、野球でも優勝を決めていた。

 

 

 体育館では主砲不在のチーム・ランティスが波に乗れないまま第一セットを落としていた。翔の「泣きの一打席」に

応じて、それを蹴散らしてきたランティスがコートに戻ると、打点が高く破壊力抜群なスパイクと、バレー部レギュラー

顔負けのバックアタックで二セットを連取した。第四セットに入り、チーム・ランティスがやや優位を保ったままサーバーの

ランティスがエンドラインでボールの弾み具合を確かめていた。

 コートサイドではパステルピンクの短ラン姿の光が、ざわめきに負けない大きな声でエールを送っていた。

 「フレーッ!フレーッ!ラ・ン・ティ・ス!!」

 初等科の光シンパの後輩たちまでがそれに合わせて声援を送っている。

 「ランティス先輩っ!ジャンプサーブ行っちゃえーっっ!!」

 「へぇ…。そんなものまで打てるんですか。器用な人だなぁ…」

 背後で聞こえた楽しげな声に光が振り返ると、いつの間にかやってきたイーグルと光と変わらないぐらいの小柄な

少年が立っていた。体操服のワッペンから見ると、中等科三年らしい。

 「…イーグル先輩、身体のほうはもう大丈夫なんですか?」

 「おや、僕のことも心配してくれるんですか。優しいなぁ」

 男子バドミントンでイーグルとダブルスを組んでいた翔が先輩相手とも思えない貶しっぷりで酷評し覚に叱られて

いたのでよく覚えているだけだが、そんなことを当人にいう訳にもいかない。よくよく見るとその小柄な少年はイーグルの

代わりに翔と即席ダブルスを組んでいた生徒のようだった。

 「あ…、翔兄様とバドミントンに出てた…」

 「覚えててくれたの!?感激だなぁ…って負け試合だったからてんで締まらないけど。俺、Saggitarius≪人馬宮≫βの

ザズ・トルクっていうんだ。ヨロシクな」

 「獅堂光です。やったーーっ!!ランティス先輩っ!もう一本!!」

 ランティスの重いジャンプサーブを受けきれずに吹っ飛ばされたのは優なのだが、勝負とあっては兄妹もへったくれもない

光が大きな歓声を上げた。よく通る高い声はコートの二人にもちゃんと届いていて、ランティスは微かに不敵な笑みを

浮かべ、優はこころなしかがっくりきているようだった。

 背後ではザズがまだ話したそうにしているが、試合に夢中の光の頭からはもうその存在も消えていた。そんな光を

にこにこしながら見ていたイーグルがザズに耳打ちした。

 「あなたのストライクゾーンに入っているとは思いますが、ヒカルは無理ですよ。ランティスと張り合う気があるなら

別ですが…」    

 「げっ…。それはちょっと・・・。ちぇっ、可愛いコみっけと思ったのに、相手が悪いや」

 「ランティスがいなくたって強力なガードがいますからねぇ、シドウ三兄弟っていう。あの三人と勝負してまで

ガールフレンドがほしいですか、ザズ」

 「……じゃこの球技大会でランティスが張り合ってるのって、あのコの為?」

 「そういう情報も掴んでいますよ(どこからだよ、イーグル…)

 「それはちょっと、いや、かなり面倒くさそう…」

 「昼寝三昧の面倒くさがり屋さんなんですけどねぇ」

 くすくす笑いながらそういうイーグルに、いつの間に来たのかタトラが楽しげに後を続けた。

 「あら、あなたにそんな風に言われたなんて知ったら、睨まれますわよ。うふふふ」

 「やぁタトラ。いいところに来ましたね。面白いのはこれからですよ」

 イーグルはほえほえーっとしたほほえみで、タトラのつっこみをのらりとかわす。

 「ご友人の恋路を面白がったりして、ひどい方…」

 「学院内に乗馬クラブがなくて助かりました。もしあったらランティスが乗る馬に蹴っとばされたかもしれません。

英国仕込みでポロまで出来るんですよ、あの人…」

 「とても面白そうなのですけどそろそろ参りますわ。私のほうも試合ですから。今大会女子バドミントンダブルス

優勝候補のホウオウジ姉妹と対戦ですもの」

 「それは強敵ですね。ではバドミントンのコートへ…」

 タトラの手を取って立ち上がったイーグルを、小首を傾げたタトラが見上げる。

 「あら、ミスター朴念仁を応援して差し上げなくてよろしいの?」

 「大丈夫。本当に欲しいもののためなら、あの人は負けやしませんから。僕にはあなたのほうが大切なんですよ。

知ってます?」

 「まぁ、本当かしら…?」

 「僕の故国の古い民話では『黄金色の瞳持つものは勝利をもたらす』と言われてるんです。もし僕がそういう存在で

あるのなら、その力は貴女の上に・・・」

 試合のなりゆきも気になるが、学院でも一、二を争う人気を誇る彼の言動が気になる女子生徒等の注目を

浴びているにも拘わらず、照れもせずさらりとそんなことを言ってのけたイーグルはタトラをエスコートしてその場を後にした。

 

 

 五連続でサーブポイントを決めたものの六本目に大はずししたランティスだったが、もうマッチポイントも目前だった。

元バレー部でセッターをやっていたクレフの巧みなトス回しで、チーム・ジェオの前衛は振り回されっぱなしだった。ネット

越しにランティスを睨みつつ、優が小さく唸っていた。

 「翔が負けたってのに、簡単に引きさがれるもんか…」

 野球のグラウンドからバレーボールのコートに帰ってきた時のランティスの顔と、コートチェンジの時に観客席から優を

拝み倒した弟の面目なさげな顔を見れば、それは話を聞くより明らかだった。

 長兄の覚が控えてはいるが種目がバスケットボールとあっては、10センチ以上の身長差はかなりキツいものが

あるだろう。実際、ミニゲームでもランティス側の圧勝だったと聞いている。

 とはいえ前衛に上がればジャンプしなくても断崖絶壁のようなブロックとして立ちはだかり、チーム・ジェオの三枚

ブロックの指先を掠りもしない高い打点からの抉るようなスパイクを決めてしまうランティスを止める手だてもなかった。

 チーム・ランティスがマッチポイントを迎え、コートに立つ者より応援席のほうがヒートアップしていた。

 「「「あと1点っ!あと1点っっ!」」」

 「ランティス先輩っ!もう1本行っちゃえーっ!」

 まだ前衛に上がっていないランティスに光がそう声援を送るのは、バックアタックを打てるからだ。当然チーム・ジェオの

ほうでも前衛のメンバー以上にランティスを警戒していたが、打点が高すぎてブロックに跳んでも届かないので始末が

悪い。クレフの自在なトス回しと相まって、球技大会のレベルを越えたプレーで優たちを翻弄していた。

 「簡単に、渡すもんか…」

 男子バドミントンダブルスを実力で制し、野球では翔の「泣きの一打席」をホームランで打ち砕き、今またバレーボールでも

勝利を収めようとしているランティスは、普通に考えればこれ以上望むべくもない相手と言えた。学業優秀、眉目秀麗なのは

言うまでもないのだから。おまけに彼らの大切な妹の為にこんな七面倒くさい三兄弟との勝負に応じても構わないだなんて、

自分だったらそこまで出来るだろうかとさえ思ってしまう。思いはするが、「はい、そうですか」ともあっさり言えない辺り、

兄心は複雑なのだ。

 ラリーが続く歓声の中、ボールを眼で追いながらそんなことを考えていた優の耳に、妹がそいつにエールを送る声が

聞こえた。

 「ランティス先輩っ!ファイトでーすっ!」

 ダイビングして追いついたチーム・ランティスのリベロがやっとの思いでボールを拾う。ネットぎりぎりに返された

ボールをクレフがワンハンドではじく。前衛がフェイントをかけようもない高いトスにアタックラインの後ろで踏み切った

ランティスが飛び込んできた。

 高すぎたトスに体勢を崩しながら強引にクロスに打ち切ったスパイクは、エンドラインを割るかどうかの際どい球筋に

なっていた。コートに落ちればあとがないチーム・ジェオのリベロがエンドライン上で掬い上げたものの、弾かれた

ボールはコートサイド方向へ飛んでしまった。カバーに入った優がダダダっとベンチも踏み越えたが、あと5センチが

届かなかった。

 試合終了のホイッスルが歓声に掻き消される。

 「やったーっ!ランティス先輩、三種目め制覇しちゃったっ!!」

 ガックリときた優の目の前で歓声を上げていたのは、他でもない光だった。

 「嬉しそうだね、光…」

 「そりゃあ完全優勝に一歩近づいたんだもの!優兄様もナイスファイト!ほら兄様、整列して礼しなきゃ」

 光が示したコートを見ると、両チームの選手が整列し始めていた。

 礼をしたあとネット越しの握手で、潰さんばかりの勢いでランティスの手を思いっ切り握った優だったが、

当のランティスは少しも堪えてはいないようだった。

 観客席から駆けてきた光がランティスにタオルを差し出した。

 「ランティス先輩、おめでとうございますっ!スッゴく格好よかったぁ!はい、タオルどうぞ!」

 差し出されたタオルで汗を拭くランティスを見上げながら、光は高揚感を押さえきれないようだった。

 「男子バドも野球も男子バレーも勝っちゃった。ホントに完全優勝狙えそう…。女子も頑張らなくちゃ…」

 ワイルドカードを宣言したランティスに、「完全優勝でも狙ってるのか…?」という見方が当初こそあったものの、

今では光以外のたいていの者は獅堂三兄弟VSランティスの勝負だと知っている。

 「男子バスケで勝てば総合優勝だ。怪我でもしたら剣道に差し支えるぞ。大会が控えてるんだろう…?」

 「だけどやるからにはやっぱり勝ちたいし…」

 色気もそっけもないものの、なんとはなしに二人だけの世界を醸し出しているランティスと光に、お構いなしな

ラファーガが怒鳴った。

 「おーい、次、女子バスケの応援に行くぞ!」

 「ハイっ!いま行きますっ!じゃ、先に行ってるね!」

 ランティスににこりと笑うと、光はラファーガとアスコットの待つほうへと駆けていった

 

 

 

  

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