すくーるでいず -THE BOY MEETS THE GIRL-
act26.Let's fight!
チーム・ランティスの応援団はいまグラウンド脇にいた。チーム・ジェオと対戦する女子ソフトボールの応援をする為だ。
光はピッチャーとして出場するので、むさ苦し……くはないが、壁の如くに馬鹿でかい男子三人のみだ。
カルディナに貰った白ハチマキをびしりと結びながら黒い学ラン姿のラファーガは、投球練習をする光の仕上がりを
真剣な眼差しで見分していた。
「球の伸びがいいな。女子ソフト部から勧誘がきそうなぐらいだ」
光のなにげない一言に口説き落とされたものの、淡い藤色の学ランにどうにも馴染めないランティスはそれに答えもせず
白手袋をはめていた。ランティスの学ランの胸ポケットでは光に貰ったハチマキが出番を待っている。
投球練習と守備練習を終え、チーム・ジェオの投手にピッチャーズサークルを譲った光がランティスたちのほうに駆けてきた。
今日の光は学校指定の紺のプリーツ・スコートでも赤のトレパンでもなく、女子ソフト部員からユニフォームのショートパンツを
借りて着用していた。比較的薄着なたちの光は真冬でもなければトレパンを着用することはないし、ぐるっと回した腕が
体側ギリギリを通るソフトボールのピッチングの為には、ひらひらしたスコートでは引っ掛けそうというのが理由だった。
チーム・ジェオのピッチャーもやはり借り物の、こちらはビジター用のユニフォームを着用していた。
「わぁ、ここから来てくれたんだ。いきなり応援団抜けてごめんなさい」
「調子良さそうじゃないか。この試合は貰ったな。まあ、同時進行であれこれ競技があるから、誰か抜けるのは仕方がない」
ラファーガは先発ピッチャーの好調ぶりに早くも勝利を確信しているらしかった。
「…ずっとはいられないが…」
『ヒカルのところから始めたい』とも言えず、『グラウンドのソフトに発破をかけてから、そのあと体育館の競技をまとめて回ろう』
という方針を打ち出して、返事も待たずにランティスはグラウンドに出て来たのだった。
「うん。こっちは大丈夫だから、他の競技も応援してきて」
胸ポケットから取り出したハチマキを結ぼうとしているランティスを、光が照れ臭そうに見つめている。光の作らしくど真ん中に
縫いつけられたイニシャルの位置を確認してから額に当てたランティスだが、結ぶ時にズレてしまっていた。
「ズレちゃってる…。先輩、少しかがんで」
言われるままランティスは片膝をついて光に委ねた。
「髪が乱れるから一旦解くね。えっと、ここかな……先輩、額のところでハチマキ押さえて貰っていい?」
「ああ」
力を入れてギュッと結びつつ、「痛くない?」と尋ねる光にランティスがこくりと頷くと、光はそのままリボン結びを作り、
ハチマキで押さえつけられた黒髪を細い小指を通して掬い出して髪を整えた。
「出来た!」
「すまん」
そんな二人をチーム・ジェオの応援席から見ていた優が、ふるふると拳を震わせ唸っていた。
「う〜っ、…光から離れろよ、副会長…っ」
イーグルを通して知り合った仲のジェオが、一応ランティスの肩を持っていた。
「いやぁ、ありゃちっこいお嬢ちゃんのほうが寄ってったんだから、それでランティス責めちゃイカンだろ」
「運動部長…。俺達の可愛い妹をたぶらかした男をかばいだてするんですか?!」
微妙に涙目で食ってかかる優にジェオが苦笑いで答えた。
「そう言うなって。…青春ドラマぐらいさせてやれよ。あいつが女の子にあんな優しい顔出来るなんて思わなかったぜ。
去年の舞踏会で女子からの誘いをことごとく蹴っ飛ばしたのはなんだったんだ…」
「今年も遠慮なく蹴飛ばしていただきたい!」
「で、お嬢ちゃんは兄と踊れってのか?お前ら、重症過ぎるよ…」
獅堂三兄弟の一番上はLibra≪天秤宮≫(中一)からずっとパートナーが決まっているが、下二人はエスコートまではせず、
求められれば一人あたり一曲か二曲はお相手する、という感じだった。
「別に俺達と踊れなんて言いません。美味しいソフトドリンクとスナックを楽しめばいいんです」
「日本じゃ小姑は鬼千匹って言うんだって?小舅二人、いや三人いたら三千匹?!うっへーっ!クワバラクワバラ…。
ったく…んなこと言ってると可愛い妹が嫁(い)き遅れちまうぞ」
「中一からその心配は不要でしょう!余計なお世話です」
「やれやれ。ランティスも面倒な相手を選んじまったなぁ…」
呆れ果てて肩を竦めたジェオに優が言い募った。
「『面倒だったらいつでも手を引いてくれて構わない』と、運動部長からも宜しくお伝え下さい」
「ヘイヘイ」
おざなりな返事をしつつ、それで『はい』というほど素直なヤツじゃないけどなとは言わずにおいたジェオだった。
バドミントン初戦の勝利を目前にして、翔は自分の判断の正しさに鼻たかだかどころかピノキオばりに伸びきっていた。
対戦相手はランティスが生徒会副会長に指名されたあとに副部長から繰り上がった現硬式テニス部長なのだが、
同じようにラケットを使う二つの競技の差異に最後まで順応出来ないようだった。
ひとくくりにラケットと呼んでも大きさも違えば扱いも違う。サービスにしても、高くボールをトスして体重をのせるが如きに
腕を振り切るテニスはエースも狙えるが、シャトルコックもラケットもインパクトの瞬間ウエストより下になければならない、
その上シャフトの角度も下向きでなければならないバドミントンではエースなどとても狙えない。
聖レイア高等科のテニス部員なら入りたての球拾いでもない限りはビシバシとスマッシュをキメられる筈だが、サービス
同様ラケットを振り切るテニスと違い、バドミントンは手首のスナップを効かせないことにはスマッシュが決まらないのだ。
スマッシュさえこなければ、どんなにランティスが壁のように見下ろしてこようが、ネット越しのラリーをしくじらなければ
勝機は充分にあった。覚や優に比べればまだまだ小柄(学年平均は余裕で越えているが、兄二人がデカすぎるのだ)な
翔では、バレーボールやバスケットボールで2メートル近いランティスに敵うはずがない。翔はサージャントジャンプで
学年一を誇るが、馬鹿でかい上にランティスも同じだけ飛べるのだ。結局のところ接近戦は身長差がモノをいうことになる。
踏み切る足の違いにも気をとられている対戦相手を見ながら、翔はランティスをたたきのめす瞬間が近いことを確信していた。
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