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 すくーるでいず    -THE BOY MEETS THE GIRL- 

act25.For You

 

 「ただいま帰りましたぁ!」

 獅堂流剣道場の一人娘(他に息子は三人いるが、娘は一人)が元気に帰宅の挨拶をするのを、すぐ上の兄二人が道場の窓から

覗いていた。

 「よくもまぁ、毎日毎日現れるよな、副会長…」

 翔がぼやくのも無理からぬことで、ロールスロイス・ツーリングリムジンが獅堂家に現れた翌日から、聖レイア学院高等科

生徒会副会長は学校がない土日を除いて獅堂流剣道場へ皆勤を続けていた。しかも彼らの可愛い妹・光と学校帰りに申し

合わせて一緒にやってくるのだ。

 学院でも指折りのモテ男が何ゆえ四つも年下の彼らの妹に目をつけたのか解せないが、彼と幼馴染である長兄・覚に

光と付き合いたいと匂わせたらしい。これには日頃冷静な覚もよほど慌てたのか、いつもなら弟二人をたしなめにかかって

いた筈が、『僕たち三兄弟を倒した上で、交換日記から――!』と宣言したらしい。至極当然のことだと、優も翔もその話に

乗った。

 少し日を置くと一対三ではフェアとは言えないと覚は若干の後悔を覚えたようだが、下二人にしてみればとんでもない話

だった。世間知らずで純真な妹を護る為に、兄が立ち塞がって何がいけないというのが彼らの持論だった。世間知らずに

したのは少なからず彼らの過保護に責任があるのははた目に見れば明白だったりするのだが、そんな外野の声は完全

無視だった。

 その約束を守り、ランティスも告白まではしていないのだろう。毎日のように一緒にはやってくるが、恋人(なんて言葉は中学生に

認めん!!by優&翔)同士というには、ラブラブ感は皆無に近かった。それでもランティスが光のそば近くにいることには間違い

ないので、得心しかねる優が長兄に尋ねた。

 「兄さん・・・。あれってデートとは言わないのか?」

 道場の中央で静かに瞑想していた覚が答えた。

 「――あれは、番犬・・・いや、光専属のSP!」

 ・・・・・悟っているようでもまだ高校生、兄心はなかなかに複雑だった・・・・・。

 

 

 

 「出来たっっ!」

 目を皿のようにして最後の確認をする。作った二本のうちどっちの出来栄えがよりマシか、光は真剣に吟味していた。

 「うーーーんんんんん・・・・・・。こっち!!」

 手が慣れたせいか、渡す人が確実に決まっていたせいか、二本目のほうがこころなしか作りが丁寧だった気がするので、

それを可愛い紙袋に入れてFor Youと書かれた金色のリボン型のシールを貼る。

 そわそわと道場の練習終了の時間を待つ。ここ数日、帰宅してからはハチマキ作りの作業にかかりっきりだったので、

自分自身の練習は優たちとの朝練で済ませていた。(それがランティスと一緒にさせまいとする優翔連合の策略とは露知らず…)

 それを手にして道場のある中庭に出て閃光と遊びながら、光はランティスの帰りを待ちわびていた。

 「――ありがとうございました」

 声を張る訳でもないのによく通る低い声にハッとして、閃光をわさわさっと数回撫でて光は立ち上がった。

 「ランティス先輩っ、練習お疲れさまでした!」

 「ヒカル…」

 家まで送りはするが、そのあとは母屋の所用でほとんど顔を合わせない光を見て、ランティスが優しい笑みを浮かべた。

 「あのっ、ハチマキ、一応出来たんだ。でも、ホントに、ホンっトに下手だから、笑わないでね?」

 「ヒカルが一生懸命作ってくれたものを何故笑うんだ…?開けてもいいか?」

 「そっ、それはダメだ!おうちに帰ってからにしてっ!」

 困ったような慌てたような愛らしい仕種にランティスが逆らえる筈もない。学生鞄の中にそれをしまい込むと、ランティスは

同じような大きさの紙袋を取り出していた。

 「それじゃあハチマキのお礼に、ヒカルにはこれを…」

 目をぱちくりさせた光がそれを手にしてランティスを見上げた。

 「開けてもいい?」

 「駄目だ。自分の部屋に入ってから、な…」

 くすりと微笑ったランティスの意趣返しに、光は思わずランティスの胸に右ストレートをお見舞いしていた。

 「ずるいっ!」

 「ずるくない。お返しだ。じゃあまた明日」

 決まったはずの右ストレートなどまったく意に介さず、光の髪をくしゃりと撫でてランティスは獅堂家をあとにした。

 

  ある意味いちゃいちゃモードなのを兄たちが見ていたのを気にも留めず、光はぱたぱたと自分の部屋に戻ってその紙袋の

中身を確かめた。

 「あ――、これ……」

 この間ランティスの買い物に付き合ったときは売り切れになっていた貝パール風の鍔だった。壊れた鍔は覚が別のものに

取り替えたし、またいつか入ったときに買えばいいと思って、とくに注文もしなかったのだ。

 しかもちゃんと中学生規格の竹刀用のものだった。ふっと光は思い出していた。一旦店を出たランティスが、携帯番号を

教えるだけにしてはやけに時間がかかっていたことを。

 百円もしないような安価な鍔もあるが、正直言ってこれはそんなにあっさり貰っていい金額でもないことは、使っていた光が

一番よく知っている。それでもこれを返されたところで、高校生の彼では規格違いで使えないのも確かだった。

 「お礼、言わなくちゃ…」

 初めて携帯電話でランティスの番号を呼び出す。きっと駅へと歩いてる途中だから、電話は鞄の中だろう。呼び出しの音が

五回、六回、七回・・・・。

 『どうしたんだ?ヒカル』

 発信者表示で名前を確認していたのだろう。歩いているらしいランティスが穏やかに尋ねた。

 「あの、いま開けてみたんだ。…竹刀の鍔、ありがとう」

 『俺のせいで壊したようなものだからな』

 「そんなっ!あれは私の不注意なのに…!!」

 『学校表彰はイヤだと言うから、その代わりも兼ねてな。優勝おめでとう』

 「あ…ありがとうございます」

 改まってしまった光に、ランティスは思い出したように付け加えていた。

 『竹刀はこの間サトルが直したばかりだろう?またそのうち使えばいい』

 気がかりを見透かしたようなランティスの言葉に、光はTV通話じゃないのが勿体無いぐらいの満面の笑顔で答えていた。

 「ありがとう!そう言って貰えて、すごく嬉しい…」

 『じゃ、また明日な』

 「はい。帰り道、気をつけて――」

 『ああ』

 通話を切ると、光はまた貝パールの鍔を灯りにかざして、きらきらとした反射を楽しんでいた。

 

 

 

 帰宅したランティスは真っ先に光のくれた紙袋を学生鞄から取り出した。明らかに手縫いだと判る白地に青いLのハチマキに、

小さなメッセージカードが添えられていた。

 ≪優勝めざして、FIGHT☆彡

 隅っこに貼られたプリクラには、相変わらずVサインつきの光がにこにこと笑っていた。

 たまにはこちらもVサインで返してみようかと自分撮りに挑戦してみたが、どうにも顔が強張ってしまいとても光に送れる

ような物は撮れなかった。

 しばらく考え込んでいたランティスが、ウォークインクローゼットの奥のほうでがさがさとなにやら探し物をしていた。美形では

あるがコワモテの男子高校生に似つかわしくない青い物体にハチマキを巻きベッドの上に置くと、数ショット撮ってその中の

ベストを選んでいた。

 ずいぶん前に『テーマパークを見に来た記念だから』と母親に押し付けられたシロモノだが、光のような女の子ならこういう

ものも好きかもしれない。

 『ハチマキありがとう。やるからには優勝だ』という短いメッセージに写真を添えて送信すると、ランティスは遅い晩御飯を

食べに部屋を出て行った。

 

 

 

 翌日の予習をしている光の机でメールの着信音が鳴った。

 「あ、ランティス先輩から…」

 うちに着いてハチマキとカードを見てくれたのだろうなと添付ファイル付きメールを開いた途端、光は目を丸くしていた。

 「うわぁ、ぺんたろうのぬいぐるみがハチマキしちゃってるし…。ふぅん、先輩も行ってたんだ、ベイサイドマリーンランド…」

 彼女のベッドの枕元にいまもあるそれより遥かに大きいぺんたろうのぬいぐるみをランティスが持っていることには疑問も

持たず、光はくすくすと楽しそうに笑っていた。

 

 

 

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