PREV.                                                                                                                                    NEXT

 すくーるでいず    -THE BOY MEETS THE GIRL- 

      - you're my sunshine -    side A-1

 

      「ううーっ!!つまんない、つまんない、すっごくつまんな〜いっっ!やっぱり光や風とベイサイドマリーンランドに

     行けばよかった〜っっ!」

      龍咲海のご機嫌は、もはや斜めを通り越して垂直に近かった・・・。

 

 

            貿易商を営む海の父親・竜咲凌駕は超がつく愛妻家だ。一人娘の海が生まれるまでは、海外への商談にも妻・

     優雅子と出向くラブっぷりで、いまでも海が『この万年新婚夫婦が〜っ!』と呆れることもしばしばだ。さすがに本人の

     記憶にはないが、幼稚園に上がるまでは海も連れての商談旅行をしていたらしい。

      聖レイア学院は幼稚舎から大学まである一貫教育校のわりに、世にいう≪お受験≫とは一線を画しているらしく、

     海外生活も多く幼稚園受験の対策など全くしていなかった海もすんなり合格出来た。同じく幼稚舎から入った光や

     風も、『受験勉強なんてしなかった』と話していたので、そういう校風なのだろう。

      学期中はさすがに諦めたようだが、夏・冬・春の長期の休みとなると、商談旅行か海外の別荘滞在の二択が常

     だった。それはそれでいろんな国に行ったり、大人の社交界をかいま見たりして楽しいのだが、この夏休みに限れば、

     光や風といるほうが断然楽しそうだった。

      夏休みの真っ盛り、八月八日は光の誕生日だ。詳しい事情は知らないが、今年の誕生日は獅堂家にとって特別な

     ものらしく、本人のリクエストを聞き入れて、『今年限定のベイサイドマリーンランドで、泊まっていっぱい遊びたい!』を

     実現することになっていた。

      商人の娘としては、いくら期間限定のテーマパークとは言え、そんな一番バカ高い時期に泊まらなくてもと思わなくも

     ないが、誕生日絡みとあれば致し方ない。しかも豪気なことに、光と大の仲良しの海と風、風の姉で光の長兄の覚と

     級友である空も一緒にいかがですかとお声がかかった(マリンテイストあふれる園内ホテルでの二泊と3DAYパスポート

     込みのご招待で、だ!)

      いまどき珍しい四人兄妹の光の家族だけでも六人になるので、ちょっとした団体客だ。いわば獅堂家の家族旅行

     なので、遠慮するかと思っていた鳳凰寺姉妹は早々に参加表明をしていた。さすがにおんぶにだっこでは気が引ける

     からか、宿泊費の半額なりと出させて下さいという話にはなったらしい。夏休みであれば予約を取るだけでも大変な

     筈なのだ。TDRあたりは何度も行っているが、テーマパークで泊まりという経験のない海もかなりそそられていた。

      だが結局海は父親を口説き落とすことが出来ず泣く泣く断念したのだ。『せっかく誘ってくれたのに、ゴメン!』と

     謝り倒す海に、光は鷹揚に笑った。

      『来年の春までやってるんだし、また今度一緒に行こっ!日帰りでも行ける距離なんだしさ。帰ってきたら話を

     聞かせてよ。ねっ?』

      いまだハワイやグァムにすら渡航経験のない、というより遊園地以外のパスポートを持ったことがない光は、海の

     土産話や写真をいつも楽しみにしていた。

      その言葉になだめられるようにして旅に出たはいいが、今回の行き先は史上最悪だった。トランジットで延々と

     待たされ、鉄道も最低に乗り継ぎが悪く、乗ったら乗ったで半日近くで、真夜中に入国審査を受ける頃には、『もう

     帰りたい!』と口の中まで言葉が出かかっていた。

      その日は当然ホテル――これがまた民宿か!?とツッコミたくなるようなアットホームな雰囲気で、この年齢にして

     そこそこいいホテルに泊まり慣れた海はがっくり来ていた――にバタンキューだった。

 

 

 

      疲れ果ててぐっすり昼まで眠り込んだ一人娘を放置して、万年新婚夫婦はさっさと活動を開始していた。

      『英語と片言の日本語が通じるから、ルームサービスで好きな物を取りなさい。治安はいいからカフェに出ても

     構わないよ』

      少し寝過ぎで腫れぼったい目が一番最初に見た物が幾許かの現地通貨とそんな走り書きでは、機嫌が直ろう筈も

     ない。

      「うっそ…、いきなり置き去り…?どうせなら日本に置き去りにしてよ」

      目の腫れがひかないことには外にも出られやしないので、バスタブにお湯を張りゆっくりバスタイムで長旅の疲れを

     取ることにする。アメニティに用意された真紅の薔薇の花びらを見て、海は盛大にそれを散らした。

      「このぐらいはゴージャスにいかないとね」

      お湯が充たされるのを待つ間に、海はベッドルームの遮光カーテンを開け放つ。真夜中の入国のだったので、初めて

     見るこの国の景色が広がっていた。

      「丘の上のあれが王宮かな…。うーん、すんごくコンパクト…」

      いまだ国連加盟も果たしていない、内陸部の小国・セフィーロ王国にいま海はいた。博識な風や学年次席である

     その姉の空さえ、『聞いたことがございませんわ』と首を捻っていた。鳳凰寺家は海外の名家とも交流が深い。その

     姉妹が知らなければ、一介の商人の娘が知らずとも恥にはなるまい。

      光に至っては『そこって、何が美味しいの?』と、食い気onlyな発言しか返ってこなかった。(光のお土産は食べ物に決定)

     なんというか牧歌的な雰囲気の心洗われる良い景色ではあるが、期間限定のテーマパーク以上に小学二年生に

     訴求してくるようなものではなかった。

      薔薇の花びらのバスに浸かって、思いっ切り手足を伸ばす。

      「ま、これは合格かな」

      これだけ大きければ、長身の凌駕でもゆったり入れるだろう。(夫婦で入りたいなどとでも言わない限りは、だが!)

      稀に国内旅行で家族露天風呂がついた部屋に泊まったりすると、『家族で入ろう!』とか言い出すが、海は幼稚園で

     『パパとお風呂』を卒業していた。母親とは入るし、両親が夫婦で入るのも勝手だが、三人は勘弁してほしいとしみじみ思う。

      万年新婚夫婦に振り回されたお陰で、一人っ子とは思えないほど海は独立心が強い娘になっていた。

 

      存分に薔薇のお風呂を楽しんで、湯上がりに髪を乾かすと、ほのかに薔薇の香りが漂う。

      「ふむ、香水要らずね…」

      商人の血筋の娘は、誰に言われずとも値踏みをするのが身にしみついた癖になっていた。

 

 

 

       身支度が整ったところで、テーブルにあったお金をポシェットにしまい、ななめ掛けして部屋を出る。治安はいいということ

     だが、海外に居るときの海に染み付いた習慣だった。

      フロントクラーク(というより民宿の主と言うべきか?)に声を掛け、海は外へ出た。日本は真夏でうだるような暑さだったが、春の

     盛りを思わせる穏やかな暖かさだった。

      「涼しい…とまではいかないけど、ま、避暑には違いないか…」

      ふらりと通りを歩きながら店先の看板を見るが、この国の文字は見覚えのない物だった。下に英語表記があるので、

     とりあえず困らないというところだろうか。

      「ほんとに英語が通じるんでしょうね…」

      語学堪能とまではいかないが、休みのたびに海外で長逗留なので、食いっぱぐれない程度にはしゃべれるつもりだった。

      小綺麗なカフェに入ると中庭の見える席に案内された。手入れの行き届いた庭に咲くのは、日本では見かけない可憐な

     花ばかりだった。

      「うわぁ、あれなんか日本の女の子が好きそうなんだけどなぁ。植物は検疫にかかるんだったかしら…。プリザーブドや

     押し花もダメなのかしら…」

      相変わらず小学二年生というより、いっぱしのバイヤーの如き観察眼で見知らぬ国を見回している。フレッシュオレンジ

     ジュースとサンドウィッチを軽くつまみ、一息ついたとき女主人が話し掛けてきた。

      「お嬢さんは観光で?」

      「はい。父の仕事のおまけなんです。真夜中に着いたんですけど、寝坊したら両親に置いてきぼりにされちゃって…」

      「あらあら」

      女主人は苦笑すると新たな客のオーダーを捌き始めた。

      「あの、中庭見せていただいていいですか?」

      「どうぞ」

      テラス窓を開けて中庭に踏み入れるとふわっと甘い香りが漂う。

      「ちょっとしたパラダイスね。原っぱに咲いていたら壮観だろうなぁ」

      目についた花の香りをひとつひとつ確かめてみて気が済んだところで席に戻ると、小さなガラスの器に盛られた果物らしき

     物が出された。

      「あの、私、頼んでませんけど…」

      「置いてきぼりのお嬢さんにウェルカムサービスよ。ブイテックっていうセフィーロ特産の果物なんだけど、もう完熟だから

     置いておけないの。味見にどうぞ」

      「ありがとう!遠慮なくいただきまーす」

      フォークを刺すだけで、みずみずしい香りが鼻孔をくすぐる。かじるとすっきりした甘さの果汁が口いっぱいに広がった。

      「甘いけどくどくない!美味し〜い!」

      「お口に合ってよかったわ。旅で食べ物が合わないのは最悪だものね」

      「ですよね。どうしても合わなくて日本製のインスタント食品ばかり食べてたことありますもん。サンドウィッチとオレンジ

     ジュースも美味しかったです」

      「ありがと。プラグもあれば出してあげたかったけど、売れちゃったからね」

      「そんなつもりじゃ…!市場で見かけたら買ってみます。プラグ、ですね」

      ブイテックを綺麗に平らげて、一息ついてから海は立ち上がった。

      「ごちそうさまでした。お勘定お願いします。これで合ってます?」

      女主人の前のカウンターにいくつかのコインを並べる。

      「はい、確かに。これから何処に?」

      「右も左も判らないし特に決めてません。何処かお勧めあります?」

      「ご覧の通りの田舎だからねぇ。王宮の見学は大人同伴じゃなきゃ無理だし」

      「じゃあ一通り散策して宿に戻ります。夕飯まで置いてきぼりじゃないと思うし」

      苦笑いの海に女主人は釘を刺した。

      「森の奥迄は行っちゃダメだよ。野生動物がいるからね」

      「気をつけます。それじゃ」

 

 

                                                                     NEXT

                  SDindexへ

             SSindexへ

           ☆.。.:*・°☆.。.:*・°☆.。.:*・°☆.。.:*・°☆.。.:*・°☆.。.:*・°☆.。.:*・°☆.。.:*・°☆.。.:*・°☆.。.:*・°☆.。.:*・°☆

        龍咲凌駕(りょうが)…貿易商を営む海の父。光岡自動車のリョーガ(凌駕)より

                  龍咲優雅子(ゆかこ)…海の母。光岡自動車のユーガ(優雅)より 

                           最初はТDRでミラ⊃スタ泊ぐらいを考えていたのですが、管理人未経験のため断念し、架空のテーマパークということに致しました(^.^;

                 この壁紙はさまよりお借りしています