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 すくーるでいず    -THE BOY MEETS THE GIRL- 

act16.ハチマキの行方2

 

 放課後のグラウンドの端に、男子野球に出るラファーガと遠投でキャッチボールをするランティスの姿があった。覚はバスケ、

優はバレー、翔はバドミントンに出場するということなので野球はせずに済むかと考えていたが、ランティスのいう≪一身上の

都合≫が光を巡る獅堂三兄弟との対決だと知らないラファーガは、ワイルドカードとして野球にも出るものと決めつけていて、

こうしてキャッチボールに付き合わせていた。生来が生真面目な覚は自分から言い出したものの一対三で勝負する事態には

幾許かの後ろめたさを感じているようだったが、血気盛んな末弟は自身もワイルドカード辞さじとの勢いだったので、いつ

バドミントン以外にも参戦するか判らない。多少の練習をしておくのも悪くないと黙ってラファーガに従っていた。

 中・高等科外周フェンス寄りにいるランティスがラファーガに背後から近づく者に気づいたが、大きなジェスチャーで知らん顔を

するように強要され、逆らえば後が煩いことを十二分に思い知っていたのでポーカーフェイスで通した。

 後逸しないようコントロール重視で投げたランティスの球を難無く受けたラファーガが、間髪を入れずにランティスに投げ返す。

サウスポーのラファーガの左腕が綺麗に伸びきった時、褐色の肌にキャンディピンクのポニーテールのハイドシーカーが

長身のラファーガに飛びついた。

 「ウチのラファーガゆうたら、ホンマにいつ見てもカッコええわぁ           

惚れ直してまうやん!」

 ダイアモンドで練習中の野球のメンバーも、グラウンドの端々で軽いキャッチボールをする女子ソフトのメンバーもその派手な

アクションに一瞬呆気に取られていた。その容姿と山吹色で露出度の高いトップスとフライアウェイのプリーツスカートが翻る

チアリーディング部のコスチュームを見ると『あれが噂の公認カップルか…』と、みんなはすぐに納得していた。

 「カ、カルディナ…、よさないか」

 自他ともに認めるステディとは言え、衆人環視の中で親愛の情を表に出来ないラファーガはどぎまぎしていた。

 「クラスが別れてしもうてなかなかあわれへんし、球技大会では敵になるウチは邪魔になってしもうたんか!?」

 「そんなことは言ってない。ただ中等科生には刺激が過ぎるから、な」

 みながさっさと自分の練習に戻るなか、光だけが真っ赤な顔をして二人のほうにくぎづけになっていた。

 「何やの〜?そないに見てても、ウチのラファーガはあげへんで〜?」                                         

 「ほえっ?わぁ、し、しし、失礼しましたっ!」

 光は慌ててキャッチボールに戻るが、コントロールが乱れてとんでもないほうに転がっていった。

 「先輩、すみませーん!私が取りに行きますからーっ 。ついでにタイムお願いしまぁす」

 ボールを探しに行く光に苦笑しつつ、自分もしばらく手持ち無沙汰確定なランティスも勝手にタイムを取って光の後を追った。

 

 

 

 「ウフフッ。後輩も同級生も気ィつこてくれてるやん!これ、出来たで!」

 飛びついてきたカルディナが右手に握りしめていたので気づいてはいたが、今年は貰えないものと思っていたハチマキだった。

 「今年は…お前は赤だろう。どうして…」

 「そら自分のんは赤やけどな。なんでウチがラファーガ以外の男のハチマキ作らなアカンの?ウチはそないに浮気な女やあらへん」

 浮気かどうかの問題でなく、そういう決まりの筈だといささか堅物なラファーガが難しい顔をした。どうやら毎年七夕よろしく意中の

相手と離れ離れになった女子生徒が、必死にハチマキ・トレードをしていることなど知らないようだった。

 「好きな人がちゃう(=違う)チームになってしもうたんは、なぁんもウチだけやないし。恋する乙女はみぃんな一生懸命殿方の気づかん

とこで努力してるんやで」

 内緒の筈の話をサラっと相手に言ってしまえるあたりが、キャリアを積んだ公認カップルならではだろうか。

 「すまん。ありがたく使わせてもらう」

 ラファーガはきちんとハチマキを畳むと、トレパンのポケットに入れた。

 「キャッチボール中だからここらにいると危ないぞ」

 ラファーガの言葉にカルディナがケラケラと笑い出す。

 「誰とやる気やのん?意外に気の利く同級生はさっさとずらかってしもたでってゆうたやん?」

 ラファーガが振り返るとフェンス沿いにいたはずのランティスの姿が消えていた。

 「自分からワイルドカードに立つと言っておいて、やる気が有るのか?あいつは…」

 「んふふっ、去年の舞踏会で乙女の決死の誘いを蹴飛ばし倒してたどうにもならん朴念仁やと思うてたら、今年はなかなか楽しい話題を

振り撒いてくれてるなぁ、サラブレッドの兄ちゃんは」

 「競走馬みたいに言ってやるな、カルディナ」

 確かに学院創立者の曾孫ではあるが、それを鼻にかけるでもない、ありきたりの高校生なのだ。

 「『西館カフェテリアでイーグルと手ぇ握って見つめおうてた』とか、『茶道準備室にしけこんでた』ゆう噂も出てたかなぁ」

 「しけ…!?あいつが?誰と」

 あからさまにみなまで言えずラファーガが言葉を濁す。

 「これまたイーグルと!一部の下級生がえらい盛り上がってるわ。ウチにはちょお(=ちょっと)理解出来んけど…」

 確かに比較的よく一緒にいる取り合わせだが、そういう関係とも思えない。

 「あとは『生徒会長とギクシャクしてる』っちゅー話もチラホラ。生徒会長の弟二人まで噛んでるなんちゅう説もあったりするし…。ここんとこ

なにかと噂の的やで」

 覚といえばそれこそ幼稚舎からの仲だというのに、いったい何を揉めたのだろうとラファーガが眉根を寄せた。

 「ま、生徒会長のほうは≪ミス聖レイア≫が手綱握ってるよってに、こじれるまでほっとけへんやろけど」

 こちらも馬扱いだなとラファーガが苦笑したとき、遠くでカルディナを呼ぶ者がいた。

 「おーい、カルディナ〜っ!応援合戦のフォーメーション、これから決めるんやろ〜?!そこでサボんなぁ!!」

 カルディナと同じチゼータ出身のタータ・ヴィヴィオが手をメガホンがわりにして怒鳴っている。

 「いま行くよってに、堪忍やぁ。ほなな、ラファーガ

 飛び上がってほっぺたにチュッ♪っと軽いキスを残して、カルディナは体育館へと駆けていった。

 ヒュー、ヒューと吹き鳴らされる指笛に取り残されたラファーガが照れて八つ当たり気味にぼやいていた。

 「ランティスの馬鹿はどこに行ったんだ…ったく…!」

 

 

 

 

 ボールを拾ったあと、光は見つけないラブシーンでのぼせた顔を体育館外の水道でクールダウンしていた。バシャバシャと

顔を洗いながらも、さっき見たシーンが頭の中で勝手にリプレイされてしまう。

 『私がランティス先輩にあれやったら、絶対セミだよね、セミ…』

 だいたい光がランティスにそんなことをする理由もないし、そもそもそんな想像をしてしまうこと自体が普段なら有り得ないのに、

それにはまだ気づいていないようだった。

 頬のほてりを冷やすだけ冷やした光がふわふわのタオルで顔を拭いていると、すぐそばでその人の声が聞こえた。

 「学院一の熱烈カップルの毒気にあてられたか?」

 「え?うそっ!?先ぱ…。うきゃあっ!」

 聞き違えようのないその低い声に、さっきまでの妄想が重なって焦った光が後ずさり、足元に置いていたソフトボールを踏み

付けた。思いっ切りのけ反った光をランティスが慌てて抱き留める。

 「意外にそそっかしいな」

 「ごっ、ごめんなさい」

 長身のわりには極端なごつさを感じさせない身体つきなのに、光を支えている腕の逞しさが制服で縦抱きされたときよりも

柔らかな生地のポロシャツ越しにはっきりと伝わってくる。その腕に抱かれたまま斜め下からランティスの整った顔を見上げつつ、

暑気あたり(笑)の光の心はまた空想の海に泳いでいた。

 『あのときも右腕だけで抱き上げてくれてたっけ…。こんな風にしてると、王子様に起こされた眠り姫みたいだ』

 ふとそんなことを思いついてしまい、≪王子による眠り姫の起こし方≫を頭に描いた光の頬はクールダウンした甲斐もなく

また真っ赤に染まってしまっていた。

 『ななな、何考えてんだっっ。せ、先輩が私にキスなんて…

 面白いほど一人百面相を見せる光をまじまじと見つめていたランティスが、赤みの差した頬を気遣い額に左手を伸ばした。

 「頬が赤い…。熱中症じゃないだろうな。ちゃんと水分補給していたか?」

 顔が半分がた隠れそうな大きな手が額に触れると、光はさらに頬が熱くなるのを感じ、ランティスの左手を押しやるようにして

慌てて身体をしゃんと起こした。

 「だ、だだ、大丈夫!顔洗ったときにお水も飲んだからっ」

 押しやられてしまった左手の人さし指で、ランティスは光にでこピンを食らわせた。

 「水では駄目だ。運動部にいるのにそんな基本も知らないのか?」

 ランティスはポケットから取り出したパウチケースから白いタブレットを一粒出してきた。

 「ほら、口を開けろ」

 「うにゃっ!?」

 思わずネコミミを飛び出させた光にランティスが小さく笑って言った。

 「耳を出せとは言ってない。口を開けろと言ったんだ」

 突然飛び出したネコミミを物ともしないランティスに、諾々と光が従った。

 「あーん」

 子供みたいなことを言いながら光が口を開くと、ランティスはそのタブレットを放り込んだ。

 「噛んで飲み込め」

 「しょっぱいっっ!すっぱいっっ!何これ、お菓子?」

 甘い物が好きじゃないにしてもずいぶん変わった菓子だと目を白黒させている光にランティスが答えた。

 「学校で菓子を食うのは茶道部だけじゃないのか?それは電解質補給用のサプリメントだ」

 「あ、なるほど。そんなのがあるんだ…」

 納得した光はカリカリポリポリ口の中で噛み砕いてごっくんと飲み下した。

 「もう一回お水飲もうっと」

 50センチ足らずの距離でランティスの視線に曝されていては、いつまでたっても頬の熱が引きそうにない光が立ち上がって

水道のハンドルを捻る。手を洗いなおして掬った水を口に運ぶ光の隣に立ち、蛇口を斜め上に向けたランティスはそのまま口で

水を迎えにいっていた。

 『やることがワイルドだなぁ…』

 翔はともかく、覚や優がこんな風にするところは想像がつかないやと思いつつ、光はその横顔を見つめた。ごくりごくりと水を

飲むたびに動くのどぼとけがひどく色っぽく感じられて、光は思わず視線を伏せた。

 『おっ、男の人に色っぽいって…何考えてんだ、私』

 「…悪い。タオルを貸してくれ」

 水を飲んでから顔まで洗ったランティスが目を閉じたまま伸ばした手が光の胸に触れたが、あまりの起伏の少なさに(超失礼)

そんなところにタッチしたことにこれっぽっちも気づかない。驚きと恥ずかしさのあまり、一度は引っ込んでいたネコミミに

ネコしっぽまで生やした光が、真っ赤になってランティスの手にタオルを掴ませる。

 「こ、こ、こ、こっち側はあんまり濡れてないからっっ!!」

 顔を拭いたランティスが光のほうを見遣ると、真っ赤な顔をして少し涙目にさえなっていた。

 「風邪でも引いてるんじゃないか?今日は早めに引き上げよう。お前はシャワーはやめておけ」

 「べ、別に風邪なんてひいてないよっ!それに先輩だけさっぱりするのなんてずるい!」

 ずるいずるくないの問題でもないような気がするものの、少し拗ねている風情の光が可愛くてランティスが髪をくしゃりと撫でた。

 「判った判った。俺もこのまま着替える。だからおとなしく帰る支度をしろ」

 「…はぁい」

 光の背を押してクラブハウスのほうに向かわせると、ランティスは一旦ラファーガたちに先に帰る旨を伝えに走っていった。

 

 

  

 

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     どさくさ紛れになにやってるかな、ランちゃん…(覚にいちゃんに殴られるぞww) 

                 この壁紙はさまよりお借りしています