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 すくーるでいず    -THE BOY MEETS THE GIRL- 

act15.コート  

 

 「低い!もっと上に!!」

 腕を振り抜けなかったランティスがセッターに注文をつけた。男子バレーに参戦する優と対決する為に、いまランティスは

バレーの練習に参加していた。

 「…まったく、お前がワイルドカードなのはいいが、球技大会でこれ以上高いトスを要求されるのは初めてだ」

 中等科までバレー部にいたAquarius≪宝瓶宮≫αのクレフ・クロノスが苦笑いしていた。

 「基本的に他の連中より馬鹿でかいんでな…」

 外国人学生が多い聖レイア学院でも200センチ前後も身長があるのは数えるほどだ。その上天性のバネの強さがもたらす

ジャンプ力が加わるのだから始末におえない。もう一本トスを上げる前に古傷のある膝のテーピングを巻き替えたいとクレフが

休憩を要求した。ベンチでスポーツドリンクを飲むランティスのところに練習相手になっているバレー部の選手がやって来て、

もう何度だか判らない誘いをかける。

 「球技大会が済んだらバレー部に入んねぇか?お前なら、即レギュラーどころか、先輩のエースナンバー引っぺがせるよ。

あのバックアタックはいい武器になる。毎年予選敗退の俺たちを春高(春の高校バレー)に導いてくれっっ!」

 不穏当かつ情けない発言にランティスが苦笑した。

 「高二から部活に入るヤツがあるか?それに剣道で忙しくなるんだ」

 「それも部活じゃねぇかよ…」

 「いや、学院外の道場に通う」

 「もったいない…。その長身とバネを活かせる競技にしろよ。バスケ部のヤツにも誘われたろ?」

 「…」

 「剣道はなぁ、意外にチビでもいい線いけるんだよ。Libra≪天秤宮≫αの生徒会長の妹、150もないちんまりしたコだけど、

めっちゃくちゃ強ぇぞ〜」

 無謀なまでに度胸があるのは知っているが、光が剣道をしている姿はまだちゃんとみたことがなかった。

 「…それは…三兄弟以上の難敵だな…」

 ぼそりと呟いたランティスに、バレー部員が聞き返した。

 「あん?」

 「いや、何でもない…」

 OKサインを出したクレフに応じながら立ち上がったランティスがふっと小さく微笑った。

 

 

 

 

 バドミントン男子ダブルスに出るフェリオは相棒の欠席でサービスの練習に明け暮れていた。競技としてのバドミントンの

経験がなく、フォルトを取られてばかりいたからだ。

 女子ダブルスに出る風も体育館に顔を出したが、姉がまだ来ていないと見るとコートサイドでのんびり靴紐を結び直していた。

コンスタントにシャトルコックを叩く音が途切れ、暗くなった手元に風が顔を上げる。

 「お前の姉さんが来るまででいい。手合わせしてくれないか?」

 「…あなたのサービスはフォルトばかりで、ラリーが始められませんけど?」

 「うえっ!まだダメなのか…。ガキの羽根つきに堅いコト言うなっての」

 どこがどう悪いのか把握しきれてないフェリオはサービス練習にうんざりしていた。

 「そうは言っても競技ですから。サービスラインに立って、打ってみてください」

 風が教えてくれることに気をよくして、フェリオがサービスを打った。

 「こう、対角のレシーバーのコートへ落としゃいいんだろ?」

 エンドラインぎりぎりのいい場所に落ちたのに、風はフォルトのコールをした。

 「ちょい待てよ!ちゃんとダブルスのコートに落としたろ?」

 「…落ちどころじゃなくて、打ち方が問題なんです」

 「え?」

 風は自分のウエスト辺りに手を当ててから、水平に空間を触った。

 「サービスのインパクトの瞬間、シャトルコック全体がウエストライン…この場合、肋骨の一番下のことなんですけど、

それより下になくてはならないんです」

 「そりゃ聞いたけど」

 「フェリオさんのサーブはドライブ気味で動きが紛らわしいのと、シャフトの角度もきわどいからフォルトをコールされるんです。

あと、左足もときどき前に動いてしまってますから、それも原因ですね」

 「うーん…。身に染みついてんだよなぁ」

 「直そうともしないで、フォルトで点を与えるだけ与えて自滅ですか?ペアを組むかたがお気の毒ですわ」

 「やらないとは言ってない!」

 「でしたら、泣き言おっしゃる前に動いてくださいな」

 「へいへい。…顔は可愛いってのに、姉妹で鬼だよな…

 「なんですって?」

 「ご指導あーっしたーっ!!」

 クラブジプシーの間に身につけた雑な日本語で礼を言うフェリオに風は眉をひそめていた。

 

 「本当にもう、どなたも素直じゃないわね…」

 そんな二人を外廊下から眺めていた空が微苦笑して、体育館へと入っていった。

 

 

 

 野球場での女子ソフトの練習を終え、クラブハウスのシャワーに向かうみなと別れ、光はコートを踏み切るキュッという靴音と

ボールが叩きつけられるズバンという音が響く体育館を覗きにきた。

 一人居残っていたのはランティスだった。篭から白いボールを取り出し二、三度コートに叩きつけて弾み具合を確かめたあと、

トスアップしてジャンプサーブの練習をしていた。

 「すごい…。バレー部じゃないのにあんなの出来るんだ」

 ランティスが繰り出す重いサーブはラインぎりぎりに入るかと思えば、エンドラインを割ってしまったりと、精度がいまひとつ

だった。しかも二本左手でトスアップしたかと思えば、続く三本は右手でトスアップしたりと、何がしっくりこないのか試行錯誤を

繰り返しているようだった。手元の篭が空になったところで、散らばるボールを拾い集めるであろうランティスに光が声をかけた。

 「私も手伝う!」

 「ヒカル…。ソフトの練習は終わったのか?」

 「だってもう暗いし。ナイターでまでやらないって。先輩のジャンプサーブ、すごくカッコよかったよ!」

 「決まらないジャンプサーブなんてただの虚仮威しだ。もっと確実にしないと…」

 「そう言えば、どうしてボールを上げるときに右手だったり左手だったりするの?打つのはずっと右だよね?」

 そんなに長い間見ていたのかとランティスが小さく息を吐き出した。

 「普通は利き手でトスアップするらしいんだが、テニスをやっていたせいかな。左も悪くないかもしれないと思って試してる」

 「ふうん…」

 「それにしても、見てないでさっさと声をかければよかったのに。帰りが遅くなるぞ」

 「だって道場に来る先輩と一緒なんだもん!暗くなっちゃっても、母様も安心してる」

 そこまで安全だと思われるのは、男としてどうなんだろうかと微妙に気にしつつ、味方はいるに越したことはない。

 「すぐにシャワーを浴びるから…」

 「慌てなくていいよ。私もまだだから」

 「髪を乾かす時間が必要だろう。俺はネットを外してからいく」

 「一人で外せる?」

 「ああ」

 「じゃ、先に行ってるね」

 最後のボールを篭に放り込むと、光はクラブハウスに駆けていった。

 

 

  

 

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     一応念のために。 「ご指導あーっしたーっ!!」→「ご指導ありがとうございました!!」の意味っす(^.^; オホホホ

                 この壁紙はさまよりお借りしています