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 すくーるでいず    -THE BOY MEETS THE GIRL- 

act11.試着室

 

 応援団の衣装合わせに出かけることになった金曜日の放課後、聖レイア学院中・高等科正門前で四人の学生が佇んでいた。

顔繋ぎの為に一緒に出向く母親が『正門前に迎えに行くから』と言ったのを、微かに嫌な予感とともに聞いていたランティス

だったがそれは見事に的中した。視力のいい光が真っ先に見つけて声をあげた。

 「あ、この間のリムジンだ!」

 「あれを使うなと何度言えば解るんだ…」

 「うわぁ、おっきいなぁ」

 「≪鍵盤に住まう妖精≫殿は愛車も華麗だな」

 ラファーガの口からそのキャッチコピーを聞くとは思わなかったランティスが眉間を押さえ込んでいた。

 四人の前に停まったロールスロイスから運転手が降り立ち、「お待たせいたしました」と一礼してドアを開けた。

 「遅くなってごめんなさいね。さあ、乗ってちょうだい。ヒカルちゃんは私の隣ね」

 「こんにちは。お邪魔します」

 「…あの、失礼します…

 「お手数をおかけします。ミセス・アンフィニ」

 「…だから普通の車を出せといつも言ってるだろう」

 キャロルたちの対面のシートにアスコットとラファーガが並び、光の隣に腰を下ろすなりランティスが母親に苦情を言った。

 「いやぁよ。ヒカルちゃんだけならともかく、あなたたちみたいななりの大きいのが三人も居たら、レクサスだって狭いわ。

第一、私はあんな大きな車運転できないし…」

 「…次に車を買い替える時は、ぜひワンボックスカーを候補にあげてください」

 どういう訳かランティスはこのリムジンで出かけるのが相当に嫌らしい。

 「ウチも兄様たちや父様が大柄で六人家族だからエスティマハイブリッドだよ。閃光も一緒に乗れちゃうしね」

 「あなたが免許を取れたら考えるわ。今日はヒカルちゃんが一緒だって聞いていたから、お紅茶とケーキ用意したのよ。

みなさん甘い物がお嫌いじゃなきゃいいのだけど…。背もたれの間にミニテーブルが収納されてるから引き出してね」

 「うわぁ、フルーツタルトだ♪美味しそう」

 「切り分けるのが大変かなって思ったからおひとりさまサイズにしてみたの」

 「ミセス・アンフィニのお手製ですか…」

 「そう。だから飾り付けが雑なのは許してね」

 「そ、そんなことありませんよ。ね?ヒカル」

 「うん、すごく綺麗だからどこかのお店のかと…」

 同級生の気安さからか馴れ馴れしく光に同意を求めたアスコットをちらりと一瞥したものの、ランティスは顔を背けて僅かに

窓を開けた。

 「…こんな閉鎖空間で甘い物を出すな…」

 「なんだランティス、お前甘い物が苦手なのか?甘さを控えた上品なタルトなのに」

 早速一口食したラファーガが気の毒そうに言った。そんなラファーガを奇怪なモノでも発見したような表情で見返したランティスが

呻いた。

 「お前がそういう物を食うとは意外だったな」

 「俺も以前は食わなかったさ。ただそういう店にも引っ張ってかれるんで、少し慣れた」

 肩を竦めたラファーガにキャロルが微笑みかけた。

 「ガールフレンド?」

 「そのようなものです」

 「そんな言い方したのをカルディナに知られたら、烈火の如くに怒るよ。ラファーガとカルディナは公認カップルなんです」

 日頃カルディナに気にかけて貰っているアスコットは、彼女の気質をよく知っていた。

 「よさないかアスコット」

 一人黙々と美味しいタルトを味わっていた光にキャロルが尋ねた。

 「ヒカルちゃんもデートで美味しいケーキのお店行きたいわよねぇ?」

 その言葉にランティスが一瞬ちらりとキャロルを睨んだが、当の母親はどこ吹く風だった。

 「あははは。行きたいですけど、その前にデートの相手見つけないと…」

 「ヒカルちゃんもうひとつ食べる?拗ねると困るから一応ランティスの分も用意したんだけど、ちっとも食べそうにないし」

 「拗ねるか、そんなことで…」

 「えっ、でも私だけそんな」

 「いいじゃない、女の子の特権だよ」

 「しっかり食わんと大きくなれんぞ」

 いつも海や風より大きいお弁当をペろりと平らげてることを知らないから、ラファーガはそんなことが言えるのだ。

 「うーん、人並み以上には食べてるような…。ホントに食べないの?ランティス先輩」

 顔を覗き込んだ光にランティスがこくりと頷いた。

 「なるべく早く片付けてくれ。そうしたら一度換気する…」

 掛け値なしに甘い物が苦手なのだろう。

 「じゃ、遠慮なくいっただきま〜す♪」

 一口ほおばるごとに「んまっ」とか「おいしい」とか満喫しつつ、甘い香りに窒息しかねないランティスの為にぱくぱくと

平らげていった。

 「ごちそうさまでした!ランティス先輩、もう換気して平気だよ」

 言われるまでもなくランティスはさっさと窓を全開にしていた。

 

 

 

  キャロルの知り合いの舞台衣装の会社に行くと、迎えに出てきたスタッフが申し訳なさそうに言った。

 「急に学園ドラマの(エキス)トラ用に大量に必要になっちまったらしくて、大きめの黒の学ランが一着しか押さえられ

なかったんスよ…。先約だったのに申し訳ない」

 「まぁ…。でもプロのお仕事が優先ですもの、仕方がないわ。他の色ならあるの? 」

 「数点あります。そっちはまた別口の需要ですから」

 「とにかく見せて貰うわね」

 通路を通りながら、貸し出し準備に吊るされている鹿鳴館風のドレスなどに光が目を見開いている。

 「あんなの着るのかな…。五月の舞踏会って」

 それを聞きつけたラファーガがくっくっくっと吹き出していた。

 「なんだ。サトルたちは何にも教えていないんだな。学院の舞踏会であれはないぞ、ヒカル」

 「あはは、そうなんだ。あれ着たら、舞踏会っていうより学芸会だなぁってちょっと思ってたんだ」

 「僕がタキシード着るのだって、たいがい学芸会だよ…」

 多少の心得はあるものの、ワルツが得意といえないアスコットはいまから憂鬱そうだった。

 「こちらです。身長を伺ってたんでそのぐらいのサイズを用意してありますが、あとの問題は肩幅とかっすかねぇ。さすがに

外国の方はガタイがいい…」

 漕艇部主将であるラファーガはといえば、生来の肩幅の広さもさることながら、その競技の性質上鍛えられた腕の筋肉も

相当なものなので、隣に並ぶとランティスでさえ華奢に見えてしまうぐらいだった。男三人のうちではアスコットが一番小柄だが、

それでも180前後あるので、スタッフが嘆息するのも無理のないことだった。

 奥まったフィッティングルームにすでに数点の学ランが用意されていた。そこにいた小柄な女性スタッフが壁のような男子

学生三人を見上げていた。

 「お聞きしてましたけど、みなさん大きいですねぇ。これで大丈夫かしら…。スタンダードの黒の奴が一番大きいんです。

日本人離れしたサイズだから余ったって言うか…。金髪の彼が一番肩幅あるから、これかしらね」

少しホッとした顔のラファーガと対照的にランティスの方が幾分ひきつっていた。ひときわ小さいのは光の物に違いないだろうが、

そのほかのものといったら、およそランティスの許容範囲を超えた色使いの学ランだった。

 「栗毛の彼は身長からいってこれぐらいだと思うの。で、黒髪の彼はこれかしら。黒の次に大きいのがこれなのよね」

 「俺がそれを着るのか…」

 呻くように呟いたランティスにキャロルが手にとったそれをあてがってみる。

 「あら、意外にあなたこういう色も似合うのね。ザガートは好きで着てたと思うけれど…」

 面差しや声のよく似た兄弟だからといって、好みまで同じとは限らない。なかば機能停止(フリーズ)しかけているランティスに

光がにこにこっと笑いかけた。

 「私のと色合いが近いから、お揃いみたいだ。ランティス先輩じゃなきゃ、その色着こなせないと思うな」

 自分の発言の対ランティス破壊力を知らない光は罪作りなまでに無邪気にそう言った。

 「・・・・・・」

 「つべこべ言わないで、とにかく一度着替えて!」

 キャロルに言われるまま四人は個室に入ってそれぞれの学ランに着替えてみていた。

 「サイズもピッタリじゃない。ハイ、これで決まりね!それじゃ、この四着お借りするわ」

 何か言いたげなランティスが口を開く前にキャロルがさっさと話をつけ、四人の衣装合わせは無事に終了したのだった。

 

 

 

 

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     学ランの色はおあとのお楽しみってことで…ww(って、某所には公開されてますけど・笑)

    

 

                 この壁紙はさまよりお借りしています