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 すくーるでいず    -THE BOY MEETS THE GIRL- 

act10.5.present for you

 

 

 

 「こんばんはぁ!」

 

 「おや、こんな時間に来るとは珍しいじゃないか。そういやぁ大会優勝おめでとうさん」

 

 店の主人が顔なじみの光の成果に相好を崩していた。

 

 光は照れくさそうに頬をぽりぽり掻きながら答える。

 

 「エヘヘッ。あのね、学校の先輩がうちの道場に入門することになったんで、道具一式

 

揃えたいんだって」

 

 「それはそれは…。しかし大きいねぇ、君。覚君より大きいだろう?2メーター越えてる?」

 

 「いえ、198です」

 

 でかいことにかけてはたいして変わらない主張をするランティスに苦笑しつつ、店の主人は

 

採寸を始めた。

 

 されるがままなされるがままのランティスを置き去りにして、光は必要と思われるこまごました

 

ものを買い物篭に放り込む。

 

 迷うことなくテキパキと買い物をしていた光が鍔のラックのところでしょんぼりしているのを、

 

ランティスは遠目に見て気にかけていた。

 

 「君のサイズだと綿のは在庫で一着きりだ。昨今は化繊のがよく出るからね」

 

 ひと通り揃えてきた光がランティスを見上げた。

 

 「化繊のほうが乾きが早いし縮まないから…。ランティス先輩は綿のほうが好き?」

 

 「どちらかと言えばな。剣道の先輩のヒカルの意見は?」

 

 「そりゃあ肌触りは綿が好きだけどね。私は毎日部活だし母様にお洗濯して貰ってる身だから、

 

普段は化繊だよ。綿は冬場になるとなかなか乾かないし…。試合の時だけ綿のを着てたりね。

 

うちの一般入門者向けの練習は週一回だから、綿でもまあ間に合うと思うけど」

 

 「いや、学校のある日は毎日通うつもりだ」

 

 「ほえっ?!」

 

 光は驚きのあまり、年頃の娘としては可愛らしさに欠ける声を上げた。

 

 「父様は地方の支部回ってることが多いから師範代が稽古つけてるんだけど、他の日は

 

小学生とかシニアとか別のコースも教えてるし…」

 

 「サトルたちもヒカルも毎日練習してるんだろう?」

 

 「そりゃまぁやってるけど、兄様たちだって他人に教えるレベルじゃないよ、まだ」

 

 「見るのも勉強のうちというからな」

 

 「なるほど…。でも正座だよ?そういう時って」

 

 正座という言葉にランティスが微かに引き攣る。実力には雲泥の差がある筈の覚を本気に

 

させるだけの運動神経の持ち主にも、どうやら不得手はあるらしい。

 

 面や胴、甲手なども採寸していくが、モデルばりの頭身の男は面は規格品で収まるものの、

 

甲手は別誂えだった。

 

 「先輩って手が大きいから」

 

 道着の予備と合わせるといくつめだかわからない注文書に光はくすくすと笑っている。

 

 「竹刀は?既成品でいけそう?」

 

 「道場の竹刀ラックの右端にあったやつが一番馴染みがよかったんだが…」

 

 「…あの辺、多分特注のだね、大きめの」

 

 「取り寄せばかりで悪いね」

 

 「いえ」

 

 古武道専門だけあって決して品揃えが少ない訳ではなく、買いに来た客が規格外過ぎたのだ。

 

 「バッグは胴がかさ張るからかなり大きめのスポーツバッグじゃなきゃ入らないけど、おうちにある?」

 

 「テニス用しかないな」

 

 「バッグはこっちのほうだよ」

 

 光は看板娘のように勝手知ったる店の中を案内していく。

 

 「最近はこういう合皮のが流行りかなぁ。少々雨降っても平気だし」

 

 一通り見渡したランティスは別の物を指さしていた。

 

 「こっちがいい」

 

 「ふふっ、ランティス先輩って好みが渋いんだね」

 

 ランティスが指さしたのは、焦茶色の帆布で作られた昔ながらの防具入れだった。

 

 「…おかしいか?」

 

 「ううん。実は私もそれ使ってるんだ。お揃いだね」

 

 いま有るものをそこに詰めて貰い、残りの品が揃い次第連絡を貰う約束をして二人で店を

 

出たものの、「念のため携帯番号も教えて来る」とランティスは店に戻っていった。光は並びの

 

スポーツ用品店でテニスウェアのマネキンを眺めていた。

 

 「絶対先輩のがカッコイイ。先輩に着せた写真飾るほうが売上UPすると思うなぁ」

 

 今年中等科に上がったばかりの光はランティスのテニス部時代をまったく知らないが、噂に

 

聞くだけでも相当格好良かったに違いない。去年の舞踏会では実に二十人以上の女子生徒が

 

パートナーになって欲しいと逆ナンしたのはもはや伝説になっている。

 

 「今年も踊らないのかな…。タキシードもカッコイイ筈なのに」

 

 三人の兄たちも舞踏会を経験済みの筈だが、覚はともかく優や翔がタキシードを着る姿なぞ

 

どうにも想像がつかない。だが光もことこれに関しては下の兄たちを笑える余裕はなかった。

 

球技大会が終わればすぐにも特訓が始まるだろう。それはそれで頭が痛いが今は球技大会が

 

すべて――やるからには勝ちたい。

 

 ≪男子の分もハチマキ作り≫なんていう予想外のハードルもあったりしたが、運動神経抜群で

 

スポーツ万能の光にとっての最難関の問題はそれだった。

 

 「ううっ、これが一番問題なんだよなぁ。貰ってくれる先輩に恥じかかせないようにしなきゃ…。

 

それにしても遅いなぁ」

 

 携帯番号を教えるだけでそんなにかかるんだろうかと思っていると、ようやくランティスが出てきた。

 

 「待たせたな。行こう」

 

 「うん」

 

 

 

 ・・・・・ランティスが遅くなった訳を光が知るのは、もう少しあとのこと・・・・・                              

 

                                                   

                                               2010.11.5upのweb拍手から再録

 

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                 この壁紙はさまよりお借りしています