XVIII The Moon -月- の逆位置……混乱の終結と不鮮明の解消

光とはまだ来たことがない宵の口の城下町をプレセアと歩きながら、ランティスがふと

立ち止まりセフィーロ城を振り返った。

「ヒカル…?」

日本の暦では明日は祝日らしいが、『海ちゃんが学園祭の英語劇で主役やるから、

風ちゃんと見に行くんだ。綺麗に写真撮れたらアスコットにも見せてあげなくちゃ』と言って

いたし、初めての教育実習期間中でもあるのでまさか今日来るとはランティスも思って

いなかった。来ると判っていれば仕事以外で出掛けたりはしなかったのだが、渋る

プレセアにも都合をつけさせた手前、ここまできて用件を片付けないわけにはいかなかった。

「ちょっとランティス。案内役のあなたが立ち止まらないでよ」

いかにも不機嫌そうに両腰に手をあてたプレセアが文句をつけた。

「すまない。ヒカルの気配がしたんでな」

「ヒカルが?私をこんなところに引っ張り出したりしてるから…。だいたい、あなたが

ヒカルとのことをはっきりさせなかったから…」

またぞろ説教を始めそうなプレセアを追い抜いてランティスが先を急いだ。

「こっちだ」

しばし人混みを縫って、二人は光への婚約指輪を創った店の前に着いた。

「≪ウィンディの店≫…?あの女が…、カローラが雇われ創師やってるとは思えないん

だけど…」

人の気配を感じて、店から女主人が顔を覗かせた。

「あら、ランティスさま。そちらは…プレセアさまですね。どうぞ中へ」

思い浮かべていたのと似てはいるが明らかに別人の顔ににこやかに迎えられ、プレセアは

面食らっていた。

「あの、ヒカルに…、いえ、ランティスたちに指輪を創ったのは、あなた?」

「はい、私ですよ」

「でもあれは…。ランティス、指輪持って来てるんでしょ?出して!」

どうしてこんなにいちいち突っ掛かられるんだと不本意に思いながらも、ランティスは光が

枕の下に忍ばせていた指輪を取り出した。

「この細工の感じは、カローラじゃないの!?」

「いいえ、間違いなく私がお造りしました。ただ、私の師はカローラ…、母ですから」

「カローラの娘…さん?」

呆然としているプレセアに、ウィンディはクスクスと笑った。

「プレセアさまとのことは母からよく聞かされておりましたから、二度目にランティスさまが

いらした時にはついつい笑ってしまって。その節はご無礼致しました」

ウィンディはランティスに一礼したあとも、呆気にとられているプレセアの顔を見て微苦笑

していた。

「誤解が解けたなら、突っ掛かるのはもう無しにしてくれ」

ぼそりと言ったランティスに、プレセアが言い放った。

「それはそれよ。コンヤクユビワのことを私に一っ言も相談してくれなかったのを納得した

訳じゃないんだから!」

うんざりとしたようにランティスが言い返した。

「言い分は聞いたし、悪かったと思ってる。だが指輪はもうヒカルが気に入ったものを

贈ったんだ。だからそれに合わせたものを創ろうとしているんだろう?」

 

 

光たちがこのセフィーロに招喚され、初めて出逢ったのが導師クレフ。そしてそのクレフに

指示された光たちはプレセアの許を訪れ、苦難を乗り越え魔法騎士となるための鍵・

エスクードの剣を創って貰ったのだ。セフィーロの柱に危機訪れし時、伝説の魔法騎士に

伝説の鉱物エスクードで剣を創るのは、セフィーロ最高位の創師たる者に課せられた使命。

だがプレセアはその使命の裏に隠された真実を知らなかった。

沈黙の森に隠れ住むプレセアの許を訪れた異世界の少女たちが、プレセアの創った武器で

何をさせられようとしているのかをはっきり知ろうともせず、「このセフィーロを救ってね」と

頼みさえしたのだ。

≪柱の願い≫が成就したあと、導師クレフから伝説の真実のすべてを聞かされたプレセアは

どんなに悔やんだかしれやしない。少しべそをかきながら武器の代金がないからと飴玉を

差し出した紅い三つ編みの少女に、檻に閉じ込められながらも「人の話を聞けというにーー!」

と怒鳴っていた青い髪の少女に、メガネの奥に冷静な緑の瞳を持つふわりとした明るい

栗毛の少女に、どんなに謝りたかったかしれやしない。その少女たちはふたたびセフィーロに

招喚され、侵略の手を伸ばしてきた他国からセフィーロを護り抜き平和を取り戻してくれた。

それだけでなく三人ともがセフィーロの者と恋をして、いずれはこの地に永住するという。

少女たちの住む世界から、いろいろな知識が持ち込まれたが、中でも結婚という概念や

それに伴う儀式にはプレセアも特別な思い入れを持った。知らぬこととは言え、少女たちを

つらい戦いに追いやってしまった自分だからこそ、このセフィーロで三人の恋人たちよりも

ずっと長く見守ってきた自分だからこそ、彼女たちのしあわせな結婚の手伝いをしたいと

思うようになっていた。

まだ高校生の頃から、風とフェリオは折りにつけプレセアに婚約指輪や結婚指輪のことで

相談を持ち掛けていた。海とアスコットのほうはアスコットが一人前にいま一歩というところ

だし、海が一人娘ということもありまだもう少し先の話になりそうだった。光とランティスが

一番交際を始めるのが遅かったが、ランティスはなんといっても一人前の大人(それどころか

セフィーロ唯一の魔法剣士であり、エメロード姫の親衛隊長まで務めたのだ)、いつ結婚

したっておかしくなかった。それなのに付き合い始めてから一年経っても二年経っても、

プロポーズもしないどころか手も出さない超スローっぷりで、『なんや身体に問題でも

あるんとちゃうか…?』と、カルディナや周りの者がイライラするぐらいだった。そんな有様

なので婚約指輪のコの字も相談されないうちに三年が過ぎようとしたころ、光のほうからの

逆プロポーズに改めて答える格好で、ランティスはようやくはっきりと結婚を口にしたらしい。

そして決心したと思ったら、たまたま出掛けた城下町で光が気に入った石を婚約指輪に

仕立てて貰ってきたという。しかも修行時代のプレセアのライバルの作(それは誤解

だったのだが)というとどめ付きで…。

婚約指輪を嬉しそうに見せてくれた光を引き攣りながらもやり過ごし、翌日プレセアは

ランティスに食ってかかった。

「よりにもよって、なんであんな女に頼んだりしたのよ!」

「あんな女…?何の話だ?プレセア」

「ヒカルたちのコンヤクユビワやケッコンユビワを創るのは、絶対私だと思ってたのに

ひどいわ!」

光からはそんな話を聞いていなかったがと思いつつ(もちろんプレセアが一人で心に

決めていたので、光だって知らなかったのだ)、プレセアのあまりの剣幕にランティスは

反射的に謝ってしまった。

「そうなのか…。すまない」

「だいたいあなたが煮え切らないから!出先でちょっと目についた石でコンヤクユビワを

創っちゃうなんて、計画性なさ過ぎよ!」

ひと足早く風と婚約したフェリオが地球のタロットカードをめくりながらあれこれ解説している

ところにそうプレセアが怒鳴り込んできたので、ランティスのほうはさっぱり訳が解らなかった。

「指輪一つでどうしてそこまで言われねばならんのだ…」

「ただの指輪ならこんなに怒らないわよ!コンヤクユビワなのよ?!」

「ヒカルはすごく気に入ってたみたいだし、それでいいじゃないか、プレセア」

フェリオのとりなしに余計カチンときたのか、プレセアはピシャリと言った。

「王子は黙ってらして下さい!私はランティスの気構えも聞きたいんですから」

「気構え?ケッコンするつもりだからコンヤクユビワを贈ったんだが?」

どのあたりから聞いていたのか導師クレフも話に加わってきた。

「お前のヒカルたちへの思い入れは理解しているつもりだが、もうそのぐらいにしてやったら

どうだ?ランティスにはランティスの考えがあって、これまでケッコンを言い出さなかったの

だから…。ああ、どうしてもというなら、指輪に合わせたピアスかなにか創ってやるといい」

「ええっ!?あれに合わせて、ですか?そんな…」

敬愛してやまぬ導師の言葉ではあるが、プレセアは抗議めいた声を上げた。同じ師の

許でほぼ同時期に学んでいたとは言え、二人の作風は火と水ほどにも違っている。

ましてやある一件以来、プレセアが『二度とあの女にだけは負けない!』とまで思い続けて

今日まで来たライバルの、その作風に合わせればいいなどとは、セフィーロ最高位の

創師としてのプライドを少なからず傷つけられる言葉だった。

そんなプレセアの表情に気づき、フェリオがクレフを諌めた。

「導師、それはあまりに無茶な仰りようなのでは?」

ようやくしあわせになろうとしている一番弟子の婚約の祝いにと、海が土産に持参した

飲み口のよいヴィタ=ヴィーノに、風が持ち込んだなにやら透明なミネラル水かなにか

(青いラベルにはSMIRNOFF VODKA Aol.50%と書かれていたのだが、セフィーロの

誰も読めなかった…)をカルディナがブレンドしたものを、ついつい杯を重ね過ぎて

ほろ酔い以上のいい気分になっていたクレフは、そんなフェリオの配慮にまるで構わず、

さらにとんでもないことをのたまった。

「これまで相談一つ持ち掛けなかったこの馬鹿者にも、一緒に考えさせれば良かろう」

突然降りかかった火の粉に、ランティスのほうがギクリとした。

「いえ、俺には王子のように装飾品をデザインする才がありませんから…」

風とフェリオの婚約指輪とそれに合わせた装飾品数点にフェリオ王子の意見が取り入れ

られているのは、城の皆が知るところだった。

絵心がからっきしなかった父・クルーガーと違い、導師クレフの手ほどきを受けたおかげで

デッサン力こそ多少ついたものの、自分がデザインセンスに恵まれていると思えない

ランティスは頭を抱えたくなっていた。

「なんだランティス、何か文句があるのか?お前が愛する、かわいいヒカルのためだろう?

それぐらい出来ないようでは、これから先が思いやられるぞ」

非情な言葉の散弾を撒き散らして去っていく導師の後ろ姿に、ランティスが低く呻いた。

「誰だ、あんなになるまで導師に飲ませたのは…」

「カルディナ…だな」

「酔って目茶苦茶なことを言い散らしてるようでも、記憶は飛ばんのだぞ、導師は…」

何か特別な魔法でもかけているんじゃないかと疑いたくなるほど、泥酔して無茶を言って

いても記憶だけは鮮明なのだ。

「ああもうっ!!導師が仰るのなら、やってみせるわ!ええ、やってみせますとも!!

そのかわりランティス、あなたがちゃんとデザイン考えなさいよねっ!!」

やけと居直りでそう言い放って去っていくプレセアを見送り、ランティスがぼそりと言った。

「…本当に、王子のタロット占いは当たるんだな…」

「XII ≪吊るされた男≫の正位置……女難の相、的中、か」

王子をやめても占い師で食っていけそうだとは、気の毒なランティスの手前、口にするのを

控えたフェリオだった。

 

 

そしてランティスの見舞われた女難は、これが発端に過ぎなかった…。

『どうせならサプライズにしたい』というプレセアの強い意向で、光には気づかせないようにと

お茶会でクレフらと談笑する光を二人して観察することになった。ランティスが自室にいると

光がすぐにお茶会の席を離れるからと、無理やり引きずり出されたようなものだった。

プレセアはプレセアで、指輪に使われたのがあまり見慣れない石なので、合わせる材料を

決めあぐねていたし、ランティスはランティスで、いつまで経っても光に似合いそうなデザイン

などまるで見当がつかず、たまに思いついてもセフィーロ最高位の創師の合格点を貰うには

至らなかった。挙げ句、当の光に不審がられ、話を聞きかじっただけのカルディナに不正確な

情報を拡散され、わずか三ヶ月で婚約解消を決意して光がやって来たなどと誰が想像するだろう。

 

プレセアと二人でウィンディの店に向かう時も、光の予定外の来訪に驚きはしたものの、

『少なくともこれでもうプレセアに絡まれずに済むだろう』と、このトラブルの解決を優先する

ほどランティスは呑気に構えていた。

永遠の好敵手・カローラの娘、ウィンディと思いのほか意気投合したプレセアは指輪に

使っているセル・リアを前に試行錯誤を繰り越していた。武器や防具を創作することの

多いプレセアは、自分ひとりでイマジネーションを膨らませると質実剛健なほうに走りがちで、

あの婚約指輪とお揃いという感じにはなかなかならなかった。しばらくプレセアに任せて

控えていたウィンディが、ランティスが描いたラフを基にもう少し洗練されたデザインを

起こしてプレセアに提示した。日々城下町の女性たちを飾る装飾品を創り慣れている

だけに、少し年齢より幼い顔立ちの光に合わせつつも、甘くなりすぎない線を上手く描き

出していた。

「こういうところがカローラに敵わなかったのよね…。ウィンディもさすがだわ」

「母は母で、コンスタントにレベルの高い武器や防具を創作できるプレセアさまには

敵わないと思っていたみたいですけど」

「やだ、どっちもどっちだったのね。これをイヤリングにすれば…」

「ピアスじゃないのか?」

そう尋ねたランティスに、プレセアが少し意地悪っぽくふふんと笑った。

「あら、ヒカルがピアスにしない理由を知らないの?コンヤクシャなのに…」

「悪かったな。ヒカルは普段あまりアクセサリーをつけないから気にしてなかった」

「これなんだから…。向こうでケンドウするときに危険なんですってよ」

「ああ、それでか」

「――さぁ、今度こそ形にしてみせるわ」

目を閉じてしばらく精神統一したプレセアが静かに舞いはじめる。ふわりとなびいた白い

布が蒼い小さなセル・リアを包み込み浮き上がった。天窓から射し込む月明かりに

満たされるようなプレセアの舞が終わったとき、ランティスの掌の上に蒼い石を抱いた

一組のイヤリングが輝いていた。

「綺麗なものだな」

ランティスの愛情とプレセアの祈りを形にしたイヤリングとランティスが持ってきた指輪を、

ウィンディが淡い水色の小箱に入れてくれた。

「さぁ、愛しいヒカルが来てるんだから、さっさと帰れば?私はもう少しウィンディと話が

したいから」

ウィンディにセル・リアのルース+αの代金を払っているランティスを追い立てるように、

プレセアが急かした。

「よろしかったらうちへおいでになりませんか?母は喜びますが…」

遠慮がちにそう言ったウィンディにプレセアも笑った。

「そうね。何(十?百?)年ぶりだか忘れたけど、顔合わせてみましょうか。ああ、アスコットに、

『ワイバーンもうしばらく借りるから』って伝えてちょうだい」

あれだけごねまくっていたのは何だったんだと思いつつ、ランティスは短く一言で答えた。

「わかった」

ウィンディの店をあとにして城に向かいながらも、ランティスはまだ最大の難題が待ち

構えていることを知らなかった…。

 

 

プレセアに頼まれた伝言をアスコットに伝えるため、精獣の出入り出来るバルコニーから

直接自分の部屋に戻らず広間に行こうとしたランティスの前に、怒り心頭といった険しい

顔のカルディナが立ちふさがった。

「だぁぁ、遅い、遅い、遅いっっ!!こないな時間になるまで、いったいプレセアと何を

しとったん!?」

どうして顔を合わせるなり怒鳴られねばならないんだと思いつつ、ランティスは事実を

そのまま答えた。

「城下町の店に用があった。いったい何を怒ってる、カルディナ」

「夕方にヒカルが一人で来たんやけど?」

「それは知ってる。あいつの気配はすぐに判るからな」

カルディナの握り締めた拳が、ぷるぷると震えていた。

「お嬢さまが来たんを知っとって…、それでも今までプレセアと一緒におって、ヒカルを

放っといたっちゅーんか、アンタはっっ!そらヒカルに心変わりを疑われてしもうても

しゃあないわなっっ!」

「ちょっと待て。一度一緒に城下町に出かけたぐらいで、どうしてそんな話になる!?」

「なんも今日だけの話やあらへん。アンタとプレセアの二人して、お茶会やらでちらちら

ヒカルを見ながら話し込んでたんは何やったん?あの子がなぁんも気ぃついてないと

思とったんか?!」

光がそれに気づいているのは、本人に尋ねられたので知っていた。サプライズにしたい

プレセアに口止めされていた手前、『ヒカルの気のせいだろう』と軽くかわしたのだが、

よもや光がそんなことを心配していたのだとはランティスは思ってもみなかった。

「…それなら、俺の部屋に指輪を置いていったのは…」

ぼそりと呟いたランティスの言葉に、カルディナはにべもなく言い放った。

「アンタとケッコンするのはヤメ!っちゅー意味に決まってるやろ!?他に何の意味が

あると思てんの?」

「酷い誤解だ…」

くるりと踵を返して自分の部屋へ行こうとしたランティスを、カルディナはふわりと飛び

越えながら羽根扇で叩こうとするが、いつぞやとは違いビシバシ叩かれる前に手首を

掴んで止めた。

「また俺に羽根扇を買わせるつもりか?」

「ウチの話はまだ終わってへん!!ヒカルは広間から泣いて飛び出して行ったっきり、

行方不明や!!」

「行方不明?いや、ヒカルなら城内に居るが…」

そんな事態になっていれば、自分が気づかないはずがない。それに光の気配は確実に

城の中にあった。

「あの子の部屋は荷物だけやったし、中庭にも導師のとこにも行ってへん。今日は他の

お嬢さまがたも来てへんし、あの子が行けるとこなんてそんなにはあらへんのに…」

ほんの数瞬、目を閉じて気配を探っていたランティスが静かに答えた。

「――ヒカルなら、俺の部屋に居る」

「アンタの部屋かて探しに行こと思うたけど、結界張ったぁって、三階ぐらい下から

上がられへんようになってるやないの!」

執務机の上に人目に触れると不味い書物を広げたままだったので、『他人に近づかれない

ように』と、確かにランティスは結界を張ったまま出かけていた。

「そう。『他人が近づかないように』したつもりだったんだがな。そうか。あいつは俺の結界を

通れるのか…。壊すでもなく、魔法でもなく…」

そう言ったランティスは、こんな事態だというのに微かに楽しげにさえ見えた。

「それは…、ヒカルが≪柱≫やから…?」

≪柱≫という言葉に微妙に反応したものの、ランティスは穏やかに首を横に振った。

「俺の結界は先代のエメロード姫でも破れなかった。あいつの魔法力ではまだ無理だ。

とにかく、プレセアとのことはただの誤解だから、あとは任せてくれ」

歩き出そうとしたランティスの腕を掴んで、カルディナが呼び止めた。

「ああもう、ランティス、ちょい待ちって!ヒカルのこと、あんまり怒ったったらアカンで?」

「別に怒りはしないが…」

「ホンマに?『俺を信用出来ないのか!?』とか言うて、カミナリ≪稲妻招来≫落としたり

せぇへん?」

「心外ではないのかと言われたら、まぁ多少はな。ヒカルとは冷静に話し合うから、離してくれ」

「そやからちょっと待ってって言うてるやないの!ついでに言わな、ウチの気ぃが済まへん!」

話を聞かずには解放されないことを悟り、ランティスは渋々カルディナに向き直った。

「手短に頼む」

「他の二人のお嬢さまもそない経験豊富とは思われへんけど…。ことにヒカルは、恋愛

経験なんてランティスが初めてやと思う」

「…多分、な」

「普通はもっと身近なとこから始めるもんや。ちょっとカッコええ近所の男のコやら、兄弟の

友達やら…。それやのに、えらい年上の、それも住んでる世界まで違うせいですぐには

声も聞かれへんようなアンタと恋に落ちてしてしもうた。遠距離恋愛もええとこや」

「…」

「おんなじ世界に住んどったって、思うように逢われへん遠距離恋愛は壊れることが

多いんや。好きな男性(ひと)の声ひとつ、セフィーロまで飛んで来な聞かれへんヒカルが

どんだけ寂しい想いしてるか、大人のアンタのほうが解ったらんとアカンねんで?」

「解ってる…」

「いいや、全然解ってへん!ホンマに解っとったら、ヒカルが泣くようなことになってへん!!

アンタが自分で解ってるだけやなしに、ヒカルの不安を少のう出来るように、ちゃんと

言葉にして伝えてやらなアカンって言うてんの!!『以心伝心で解って貰える』とか

勝手に思うてたら、今回みたいに勘違いされてたのがええ例や」

それを指摘されたら、もうランティスには反論の余地もなかった。大きく息を吐き出すと、

カルディナが掴んでいたままだった腕をほどいた。

「――アスコットに伝言を頼めるか?」

「はぁ?」

「プレセアが『もうしばらくワイバーンを借りるから』と言っていた。…ヒカルと、話してくる」

そう言い残すと、ランティスは自分が作った結界の中へと姿を消した。

 

 

 

 

                                              NEXT

 

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ウィンディ…城下町で装飾品店をやっている、プレセアのライバル・カローラの娘。トヨタ カローラIIウィンディより

カローラ…プレセアの修行時代のライバル。トヨタ カローラより

L氏が酒癖に問題ありなのは、もしや師匠譲り…?

 

 このお話の壁紙とタロットカードのイラストはさまよりお借りしています