☆光ちゃんのwktkセフィーロ生活☆  ――初めてのペット編―― 

 

 パタパタとかけていき準備してあったディナーの仕上げにかかる光にランティスが歩み寄る。

 「手伝おう」

 「だめだめ!お誕生日のランティスは主役なんだもの、あっちで座ってて!」

 二人ですれば早いのにと思うものの、光なりのこだわりがあるのだろう。おとなしく退散したランティスは、

ダイニングテーブルのところから光を眺めていた。

 手元の作業を進めつつ、光が背中越しに言葉を投げてきた。

 「プレゼント、何がいいか絞りきれなくてまだ用意出来てないんだ。セフィーロに有る物で必要な物なら、

たいてい持ってるだろうし・・・」

 「二人で祝えれば十分だ」

 本当は『ヒカルがそばに居るだけで十分だ』と言いたいのに、イーグルほどスラスラとその手の言葉が声に

ならない。

 「でね、考えたんだけど…、ランティスの精獣さんの名前、昔私が勝手に決めちゃったでしょ?だから、

ランティスにはあのコの名前決めて貰おうかなと思って…」

 ランティスは背中がぞくりとする感覚を覚えていた。真冬とは言え、セフィーロ城の断熱効果は抜群で

以前と変わらぬ薄着でも問題ない室温が保たれているのに、だ。

 「…あのコ…?」

 暖炉の側で置物のように佇んでいたそれが、尻尾をひと振りしてランティスのほうを見ていた。子供たちが

泣いて怖がる図体とご面相だがランティスが怯む筈もなく、キッチンで忙しくしている光の背後では妙な

緊迫感が漂っていた。

 「あれは…エクウスはヒカルを気に入っているからな。一般的に招喚獣と契約者の間に第三者が関わる

ことはない」

 「それはクレフにも教わったよ。うちによく来てるけど、そのコは私と契約した訳じゃないんだ。通い猫さん

ならぬ通い精獣さんだもん」

 正確には半精半獣だが、問題はそこではなかった。光を押し倒してじゃれつく半精半獣にムカついて

ランティスの記憶が吹っ飛んでいた訳じゃなく、やはり招喚契約を交わしてなかったのだ。魔法を使われた

気配なく現れるのも道理で、あれが勝手に光の周りをうろついているのと大差ない。

 それでも光を始めとして誰一人火傷もしないし、床や近くの物が燃えだすこともないのは光の願いを聞き

入れたあれが加減しているということだろう。

 「ランティスならセフィーロの人にも馴染みやすい名前考えられるんじゃないかな。うちのコとして扱うなら、

名前は一家の大黒柱のランティスが決めるのがいいと思うしね。ネーミングライツのプレゼントってことで…」

 そういう七面倒くさいことは出来れば願い下げしたいランティスだが、光はもうすっかりその気でいるらしい。

愛らしい新妻のエプロン姿の背中と、微妙に態度がデカい(精獣の血を引くなら当然か?)ファイアーアーレンスを

交互に見ながら、ランティスが微かに唸っていた。

 「銀色だから『銀』」

 「…私たちは解るけど、あんまりセフィーロっぽくないね」

 「『Ag』」

 「エイジィ?…あ、エイジ?……英司?永二?」

 首を捻っている光の目の前のタイルに、ランティスが魔法書記で『Ag』と綴ってみせる。

 「んー、なんだっけ…。あ、銀の原子記号!?それじゃあますますみんなに判らないじゃないか。もうっ、

ちゃんと考えて!」

 自分の無茶振りを棚に上げてそれはないだろうと思いつつ、多分光にしてみれば無茶振りだという意識も

ないのだろうなとランティスはそっとため息をついた。この『後』のことを考えればここで愛妻の機嫌を

損ねるのは得策ではないと自らに言い聞かせつつ、ランティスは少し真面目に考えていた。

 「ファイアーアーレンス……キツネ、フォックス、Le renard de flammes(焔の狐)、銀狐(ぎんぎつね)、

銀の牙と書いて銀牙(ぎんが)、転じて銀河」

 「んー、思いっきり日本語だけど、ちょっとかっこいいね。『銀河』でどう?」

 光の問い掛けにファイアーアーレンスは露骨にそっぽを向いていた。

 「気に入らないようだな」

 これでも真面目に考えているのにと、またこちらを見たファイアーアーレンスとランティスが睨みあっていた。

 「精獣さんの好みは難しいね、うーん…」

 「・・・・キツネ、ファイアーアーレンス、フォックス・・・・・・アレックス!」

 「バウッ!!」

 「・・・・あ、吠えた」

 「・ ・ ・ ・ ・」

 パタパタっと尻尾を振ったファイアーアーレンスを光とランティスがまじまじと見つめていた。

 「見た目地球のキツネに似てるんだけど……、鳴き声は犬っぽいかも。『コン』じゃないんだ…(もしもし?)

 普通のアーレンスでさえ見ることはまれで、ランティスが最後に見かけたのは光とともに見たあれ以来だし

鳴き声は記憶になかった。ファイアーアーレンスなど導師クレフでも実物を見たのはこれが初めてだという。

 「じゃあ今日からアレックスって呼ぶからね。うちのコなんだから、ランティスの言うこともちゃんと聞かなきゃ

ダメだよ?」

 微妙なタイムラグをおいて、アレックスが尻尾をひとふりした。

 「何か言っておくことある?ランティス」

 「……すでに実行しているようだが、ヒカル以外のものも不用意に傷つけたり灼いたりしないこと。特に

王子のところやラファーガのところにはまだ幼い子供がいる。時におさなごが癇癪を起こしてお前に敵意を

向けても、決して牙を剥かないこと。威嚇だけにとどめるように」

 「ランティスったら…。威嚇なんてしなくても、普通で充分泣かれてるんだってば…。私たちが作ろうと

しているミゼットは、そういうちっちゃい子がたくさん集まる場所なんだ。だからるうちゃんたちと同じように

接してね、アレックス」

 炎を宿した紅い瞳の銀狐はばさりばさりとゆったりしっぽを振って了承の意を表した。

 「さあ、名前も無事決まったし、ご飯にしよう!」

 光がほかほかと湯気の立ちのぼる料理を並べていく。セッティングを終えてエプロンを外すと、照明を

キャンドルに切り替えてワインのコルクを抜いた。

 「グラス一杯程度なら平気でしょ?風ちゃんに秘蔵の一本貰ったんだ〜」

 地球から持ち込んだワイン用のグラスに注がれた深紅のワインが、蝋燭の灯りを受けてキラキラと輝いて

いた。

 「ヒカルの瞳に似て、見ているだけで酔ってしまいそうだ…」

 「ワインって結構回るもんね。乾杯は一口だけにして、少し食べてから飲むのがいいんじゃない?」

 ちょっと無理をしてイーグルばりに気障なセリフを口にしてみたが、ものの見事にスルーされていた。

 「お誕生日おめでとう」

 軽く触れたグラス同士がたてた澄んだ音が部屋の中に広がっていった。

  

 

 

 

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  アレックス…「ア」ー「レ」ンスフォ「ックス」 ...縮めただけかよ、ランティス(笑) トヨタ アレックスより。 

   るう…フェリオ王子と風の間に生まれた第一子。フェリツィア姫の日本名、留(るう)。

 

  このお話の壁紙はさまからお借りしています