☆光ちゃんのwktkセフィーロ生活☆  ――初めてのペット編―― 

 

 食事を終えて一息ついたあと、ランティスはのんびり風呂をすませていた。普段よりはゆっくりだが、

光がのぼせて湯あたりしても困るので、今夜は戯れるのもそこそこに解放していた。

 長湯で渇いた喉を潤そうとキッチンに来たランティスの目に見慣れないボトルが映り込む。

 「『水』…?」

 『水』と漢字で書かれたラベルのボトルということは、地球の物に違いない。『セフィーロのお水は

美味しいね。東京なんて水道の水が不味いから、ミネラルウォーターを買う人が多いんだよ』と話して

いたこともあったので、買ってまで飲む水がどれほど旨いのか少し興味をそそられた。

 普段、光が買って来たものに勝手に手を出すことなど皆無だが、誕生日を祝ってくれるぐらいだから

水を無断で飲んだからといって文句を言われることもないだろう。

 封を切り詮を開けるとフルーティーな香りが鼻腔をくすぐる。セフィーロの水はほぼ無味無臭だ。

さすがに買ってまで飲む水は香りさえも違うと思わずランティスは目をみはっていた。

 ワイングラスは洗ったばかりで水滴が残っている。雑味が混じることを嫌い食器棚を開けて一番

手近にあったマグカップにその水をなみなみと注いだ。

 まろやかな味わいのその水が渇いた喉と身体を潤していく。

 「旨い…。これを買ってきて貰うのは気の毒か…」

 地球で光たちは魔法を使えない。旅人が荷をしまう宝玉も使えない。こんな大きな瓶に入った水では

重量があるし、女性に持たせるのは気が引けた。

 「サトルが動けそうなら頼んでみるか…」

 結婚式の頃に手紙をやり取りして以来、光の予定が立て込んで帰省出来ない時にはランティスが

覚宛に近況をしたため、海に預けていた。

 身体に染み渡るその水は二杯、三杯とあとを引く美味で、気が付けばもうボトルの半分以上を

飲んでしまっていた。

 

 

 「はぁ、いいお湯だった。海ちゃんに貰ったオーガニックコットンのバスローブ、すっごく肌触りいいよね」

 当日は仕事で来られないからと、クリスマスプレゼントも兼ねてペアの真っ白なパイル地のバスローブを

届けてくれていた。

 「プラグのジュース、まだ残ってたよね…」

 やはり渇いた喉を潤しにキッチンに来た光が、ほとんどすっからかんになった一升瓶に目を丸くした。

 「うわぁ……。い、一升空けてる…」

 お正月のお屠蘇用にと地球から持ってきたばかりの『上善如水(じょうぜんみずのごとし)』がまるまる

無くなっていた。

 見ただけで酔いそうだなんて言っていたのに(や、意味違うし・笑)、結局さっきのワインも光はグラスに

一杯きりで、ほぼフルボトルをランティスが飲んでしまっていた。その上に日本酒一升なんて空けたら

急性アルコール中毒で倒れてるかもしれない。

 さっきから一向に返事もないことで、さらに不安が募る。

 「ランティスっ!ランティス、どこ!?」

 キッチンにもリビングのソファーにも姿がない。酔いが回って横になっているのだろうかと寝室を覗くと、

暗めの中間照明だけの部屋でベッドに腰を下ろしていた。

 「いた…。ランティス…大丈夫か?」

 「・・・・・」

 「お風呂上がってから30分と経ってないのに日本酒一升も空けちゃうだなんて、いくらなんでも

ピッチ早過ぎるよ」

 「…あの水は・・・・旨かった…」

 「水……?そりゃ日本酒ってほぼ無色透明だけどね。水でそんなに酔わないって」

 「『水』と書いてあった。『上善如』で汲み上げた水だろう…」

 どう考えても酔っ払いモードだなと思いつつ、光が苦笑した。

 「もう、どこで汲んだ水って…?……あー、漢文系の資料はあんまり持って来なかったっけ。あれは

『上善如水』じょうぜんみずのごとしって名前の日本のお酒なんだ。『お風呂入る前だからあとに置いて

おけば?』って止めたのにワインもさっさと一本空けちゃったし、絶対に飲み過ぎだよ。いま本物のお水

持ってくるから、それ飲んで休もう?ね」

 キッチンに行こうとした途端に手を掴んで引っ張られ、思わずランティスの膝に座り込んだ格好の光は

あっという間に抱きすくめられていた。

 「ヒカルは…何処にも行かせない…」

 耳の後ろに吐息混じりでささやかれる言葉は熱っぽく、抱きしめる腕はわずかも緩まない。

 「えーっと、すぐそこだよ。キッチンで冷たいお水入れてくるだけだから…」

 「……誰にも、渡さない……」

 「横取りしに来る人なんかいないから大丈夫だよ、ね?ランティスってば…」

 

 

     それを知らないのはお前だけ…。刃を交わす出逢いでさえなければ、先駆けて心通わすことも

    出来たかもしれないとかつて悔やんでいたヤツがいた。

     『もう昔とは違う。誰かを≪柱≫にしちゃダメなんだ』と頑なに拒むお前をとらまえて、ふたたび

    ≪柱≫という名の人身御供に祭り上げようと企むものもある。

     何の気負いもてらいもなく、ただそこにいるだけで燦燦と降り注ぐ陽射しのようなお前を崇敬する

    のは、なにも人ばかりではない。

     ずっと昔、魔法剣士の認承式を間近に控えたランティスの許を離れた精獣の白き羽根馬は招喚

    契約を交わさぬままエメロード姫に寄り添い続け、終(つい)には姫の願いを叶えるためにその生命をも

    差し出していた。

     時は流れ、世代も世界も変わろうとしているのに、いままた契約に拠ってではなくその足元に

    こうべを垂れる半精半獣を見るにつけ、ランティスの心の奥底はざわざわと波立っていた。

     光たちを巻き込み多くのものを傷つけたあの出来事を繰り返してはならないのに、もう繰り返される

    ことはないはずなのに、いつか見た光景が繰り返されていることが小さな棘のようにちくりと神経に

    障っていた。

 

 

 生涯ともにあることを誓い合ったお前が与えてくれるあふれるほどの安らぎに見合うものは何かとずっと

探している。尋ねればきっと『そんなこと考えなくていいのに』と困ったように微笑うだろうと知っているから、

もうしばらくこのまま…、お前のぬくもりを独り占めしたままで………。

 

 

 「……ランティス、寝ちゃったの?しょうがないなぁ。脚が痺れちゃっても知らないよ?」

 

         

                               illustrated by 3児の母 さま

 

 きっとこれがイーグルたちに散々からかわれていた例の酒癖なんだろうなとため息を零しつつ、朝起きたら

真っ先に外飲み厳禁を言い渡さなくちゃとひとりごちる光だった。

 

 

 

 

                                        2011.12.19

                                                                      (暫定ですが)Happy Birthday Lantis

                                                                                       & Mr. Kosugi ♪

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  ☆光ちゃんのwktkセフィーロ生活☆のPART2という位置づけです。PART1にあたる  ――初めての招喚編―― は

   ランティスx光(ラン光)同盟に2011年秋に投稿させていただきました

         GALLERY ⇒ ランティス×光 投稿強化作戦 でご覧になれます

 

  このお話の壁紙はさまからお借りしています