☆光ちゃんのwktkセフィーロ生活☆ ――初めてのペット編――
ふと気づけば、光に寄り添う影がひとつ。それがランティスであれば、新婚家庭にはありがち、
かつ、平和な光景だが、違うモノがそこにいた。
光が喚んだのならなんら不思議はない。だが近くで魔法を使われた気配はなかったし、そもそも
ランティスにはことの始まりからずっと気にかかっていたことがあった。
「お待たせ〜。朝ごはん出来たよ」
かいがいしくセッティングするエプロン姿の光の愛らしさはいいとして、キッチンからのそのそ
歩いてきてリビングの一角に陣取ったモノをランティスがちらりと見遣った。
「何故あれがいる?ミゼットの打ち合わせが休みだから一緒に薬草摘みに行くのだろう?」
嵩張ることランティス並のそれの前に、光が不釣り合いなまでに小さな椀を置いて答えた。
「お洗濯とお掃除が済んでからでいいなら行きたいよ。私には勉強になるから。餌になりそうな物
こんなのしかないけど、食べられるのかなぁ。零さないでね」
餌うんぬんはランティスに言った訳ではない(まだそこまで鬼嫁じゃないw)。紅蓮の焔を封じ込めた
眼光は鋭く、その大きさと相まってラファーガ・カルディナ夫妻の子供らが号泣したほどだ。ご面相の
いかつさに相反しておとなしく餌にありついているのは、光が森で招喚した≪炎狐≫ファイアー
アーレンスだ。
「魔獣はともかく、半精半獣に餌を与えるなんて聞いたことがない」
「そうなの?そういえばエクウスにはあげてないんだっけ?」
時折草原などで草をはむようだが、契約者と招喚する精獣の間にそのような行為は存在しなかった。
「やらない」
「ふうん。でもせっかく遊びに来てくれたんだもん。おもてなししなくちゃ。あ、綺麗に食べたね。
足りなかったかな」
洗う必要もないかと思えるぐらい丁寧に舐められた椀を見て、光がクスクス笑いながら尋ねた。
満足げにしっぽをひと振りすると、それはくるりと丸まって寛ぎ始めた。
招喚獣が我が物顔で居座るなどアスコットの部屋だけだと思っていたのに、まさか自分たちの
愛の巣で起きようとは…。しち難しい顔をしていては、せっかく光が一生懸命作った食事もどこに
入ったか判りゃしないというものだ。
四角いダイニングテーブルの角を挟んで光が席につく頃には、ランティスは半分以上食べてしまって
いる。
「食べるの早いなぁ。ちゃんと噛んでるのか?」
母親のごときお小言を言いつつ、「いただきまーす」と光もセフィーロ風オムレツを口に運んだ。
「……ちょっぴり味薄かったかな?焼き加減は今までで一番絶妙だと思うけど」
「『薄味のほうが健康にいいから』と王子のところも厳しいらしい…」
「あはは。風ちゃんちには栄養士の資格取った料理長さんがいたぐらいだから、ちゃんと勉強して
きてるんだよ。私ももっと勉強しなくちゃ。旦那さまの健康管理は私の重点課題だしね」
一人暮らしの長かったランティスのこと、ましてや他国で傭兵稼業なぞやってた身に自己管理は
基本中の基本、妻とはいえ他人にして貰うことではなかったりするのだが、新妻として意気込んでいる
光というのもなかなかに可愛らしい。
光が三口めを飲み込む頃にはランティスの朝食は綺麗に平らげられていた。(狐と張り合うか…?)
自分の皿からオムレツを掬うと、光は右手を伸ばしてランティスの口元へと運んだ。
「も少し食べられるよね。あ〜ん」
下の兄二人が見たら卒倒しそうなラブラブ新婚モードなのに、『子供扱いされているのだろうか…』と
見当外れなことを思い悩む朴念仁はそれでも愛妻に言われるままもう一口をもぐもぐと食するのであった。
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ミゼット…光がセフィーロに作ろうとしている地球で言うところの幼稚園のようなもの。ダイハツ ミゼットより。
ファイアーアーレンス…光が森で招喚した炎属性の半精半獣。狐の姿に似ている。アーレンスフォックス 消防自動車より。
エクウス…ランティスの黒い馬の姿の精獣。光が命名。ヒュンダイ エクウスより。