夏祭り
身長がいまひとつ伸び悩んでいるせいもあり、小学校時代に仕立てて貰った物でもまだ十分
袖を通せる。特に気に入っていて毎年のように着ている一枚を姿見の前で当ててみる。
「悪くはないんだけど…先輩と並ぶにはちょっと子供っぽいかなぁ…?」
面と向かって先輩と呼ぶと聞かなかったふりでスルーされてしまうので踏ん張ってはいる
けれど、長兄の覚と同級生のランティスはやはり光からみればずいぶんと大人に思える。
もともとそれほど服装に頓着するたちではなく、これまでは漠然とした好き嫌いだけで着る
物を選んできた。何を着ていても駄目出しをされるようなことはないけれど、似合うと思って
くれているのかがちょっぴり気にかかるようになってきていた。
いくつか広げた畳紙(たとうし)の脇に置かれた閉じられたままの畳紙をちらりと見遣る。まだ
今年の梅雨も明けきらぬ頃に、呉服屋が薦める色とりどりな反物の中から母が選んで仕立てて
くれた物だ。
「そろそろ光さんもこういうのを着こなせるんじゃありませんか」
これまでの赤やピンク系の多かった可愛らしい物と違い、光が気後れしそうなほど大人びた
一枚だった。この夏も数回浴衣を着ているのに、まだ一度も袖を通せずにいるぐらいに。
『光。鳳凰寺さんたちがお見えだよ』
襖越しに声を掛けてきた覚に「もうそんな時間!? うわぁ、今行きます」と答えて、一旦
来客を迎えに立ち上がった。
「みんないらっしゃい! …って、なんで縁側なんかに座ってんの?」
海と風は座卓に置かれた冷茶で喉を潤していたが、フェリオとアスコットはなぜか中庭に
面した縁側に腰をおろしていた。
「いや、座敷は勘弁してくれ」
「右に同じ。ヒカリってすっごく懐っこいね」
動物好きのアスコットは何度もボールを投げては取って来いをさせている。
「初対面の人に見た目怖いって言われることあるけど、いいこなんだよ、閃光は」
まるで自分が誉められたかのように光はニコニコ笑っている。
「光さん、今日はその格好で出られるのですか?」
縁日に行くなら光は浴衣だろうと見越して、海と風も浴衣で来たのに、丸きり普段着の光に
風が小首を傾げた。
「違う違う! すぐ着替えるよ。なかなか決まんなくて…」
「選びあぐねるほどあるのねー。見せて見せて! あ、アスコット達はここで留守番ね」
海がちらりと縁側の男子を見遣る。
「う、うん」
「ランティスにシメられたかねーからな」
「じゃ、ゆっくりしててね」
座卓に置かれた自分用の冷茶を飲み干すと、光は自分の部屋へととってかえしていった。
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