蓮とキョーコの場合。。。。
――ランティスたちのスタジオ訪問の日から数週間後
「カット!!」
その声に現場のはりつめた空気がふっと緩む。
新開監督がモニタを覗きこむ周りに蓮とキョーコもやってきて指示を待つ。
「ふうむ…。良い感じなんだけど……。蓮、更に色気一割増でいってみようか」
「ひょえっっ!」
芸能人にあるまじき…、いや映画のヒロインを務める女優にあるまじきすっとんきょうな
声を出したキョーコに皆の視線が集まる。
蓮のマネージャーとしてキョーコとも親しい社がスタッフの気持ちを代弁した。
「どしたの?キョーコちゃん」
「や、その、これは…、しゃっくりです。しゃっくり!すみません、皆さんの緊張とやる気を
そぐようなしゃっくりで…っ」
誰も納得しなさそうなその言い訳に、蓮がくくくくっと笑っていた。
「俺の気のせいかな…?さっきからモニタ覗きにくるたびにしゃっくりしてないかい?最上さん」
『はぅぅっ、敦賀さんに疑われてるしっ!しかも笑われてるしぃ。でもダメ(出し)ため(息)よりは
マシ!?く〜っっ、しっかり鍵掛けなくちゃ…』
生真面目な双子の兄・義就に親への反発だけ加味した義彬を基準にして、新開監督が
もう少し蓮自身が持つ艶っぽさを前面に押し出していこうとテイクを重ねているのだ。
本人がどう思っているかは不明だが、共演者キラーの蓮の相手役は思った以上に大変だった。
『義彬が楓を口説く』遥か手前…『憎からず思っている』、『好意を示している』程度に過ぎなくても、
役を越えて素のキョーコ自身がぐらぐらと揺さぶられている気がしていた。
『だめだめ!キョーコじゃなくて楓を口説いてるのよ、敦賀さんは…あ、違った、義彬はっっ!
その気になっていいのは楓だけなんだから、キョーコの心にはしっかり鍵掛けなくちゃダメっ!』
その鍵の破壊こそが彼が共演を望んだ一番の理由だとついぞ知らないキョーコは、敦賀蓮の
思うつぼに嵌まっているのだった……。
ラン光の場合 ⇒
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