すくーるでいず 特別編  ―― 遠雷 E・N・R・A・I ――

            feat. R.Tsuruga & Kyoko

 

 

 「時代劇は初めてって言っていたのに、キマってるわねぇ、レン…」

 キャロルは眼福とばかりにほうっとため息をもらした。

 「衣装さんやメイクさんが聞けば喜びますよ。『敦賀蓮』を『最上義彬』に仕立て直してくれたのは

彼女たちですから」

 「…ランティス、あなたその足元…」

 どうひいき目に見ても、着物の丈が足りていない。

 「好きで伸びた訳じゃない…」

 「まぁ!製造者責任とでも言うつもり?ザガートもあなたもクルーガーまで追い抜いちゃってるじゃない。

私の栄養奪いすぎよ。も少しだけ残しておいてくれたら、私は今頃『綺麗なお姉さん』でいられたのに…」

 ただでさえ年齢不相応に若く見られているのに、もっと若く見られたいらしい。蓮と同い年の長子がいて

この美貌なら上等というものだろう。

 「お姉さん…?厚かましい妄言を口にするなら、ばらしますよ年齢」

 「か、可愛くないわ…」

 「俺に可愛さを求めるのが間違いです」

 「私は母親だから我慢するわよ。ヒカルちゃんにもそうやってデリカシーのカケラもないことやってるんじゃ

ないかと思うと、ケーキも喉を通らないわ」

 「間食しすぎだから協力しますよ」

 「なんですって?」

 場所も構わず親子喧嘩の様相を示し始めた二人に蓮が間を取り持っていた。

 「ミセス・アンフィニ。このぐらいの年代は母親にあれこれ言われるのが照れ臭いんですよ」

 「あら…。レンみたいな優しい人でもお母様につれなくしていたの?」

 何気なく返された言葉に、蓮はほんの微かに寂しさと苦しさを滲ませていた。

 「…いい息子だったとは言えませんね」

 それまで蓮が見せていた人気絶頂の芸能人としてのソツのない表情がひび割れて、素の心に押し入って

しまったような気まずさを覚えてランティスが話をそらした。

 「それにしても…、ヒカルはともかく、俺がこれを着る必要ありましたか?」

 「今頃気づいたか。ないよ」

 殺陣師の日野と打ち合わせしていた新開がケロリと言ってのけると、ランティスは唖然としていた。

 「いや、でも彼女が着物姿になるんだし、君もそのほうがバランスいいじゃないか」

 表情の強張りを無言のうちに社に窘められた蓮は、気持ちを切り替えておどけてみせた。

 「ま、そういうこと。おっ!艶(あで)やかな花二輪、来たね」

 「「お待たせしました」」

 着物姿であるにしろメイクをしている訳ではない光は見間違えようもないが、一緒にやって来た女性に

ランティスとキャロルが目をみはっていた。

 「え・・・?」

 「キョウコさん、…よね?」

 疑問符付きな二人に、キョーコは「ああ、やっぱりね…」とひとりごち、気を取り直してニッコリ笑顔を

浮かべた。

 「メイクさんのコスメ・デ・マジックに、今日はキモノ・デ・マジックもありますからね」

 「女優さんって凄いね!お支度が調うに従ってどんどん『京子さん』から『楓さん』になってくんだもの」

 「『楓』に入れそう?最上さん」

 蓮が尋ねるとキョーコはコクリと頷いた。

 「今日のスチールのコンセプトは『最上義就…というか出逢ったのは義彬のほうですけれど…は

兄の敵(かたき)!』でいいんですよね?『楓』としては…?」

 キョーコが新開に確認を入れる。

 「そうだね。兄を慕って幼い頃は道場にも出入りしていた『楓』だから少しは腕に自信もある。祖父が

藩抱えから下りて町道場を開いたから武家の流れを汲んでいて、守り刀なんて物も身につけてる

気の強い娘だ。

 ――『楓』が子守を押し付けられた子供の犬が遠雷に驚いて逃げて、それを追いかけていた子供が

将軍家ゆかりの若君・松平尊綱の馬を邪魔して落馬したことでこの物語が始まる。街中での早駆けは

危険だと『義就』が進言していたにもかかわらず、往来で恥をかかされたと若君はご立腹で無礼討ちを

命じるんだ。命じられた時、諫めてはみるけれど、将軍家ゆかりのご威光に武士は逆らえない。ことは

自分だけにとどまらなくなるからね。『義就』は子供の命迄は奪うまいと決めたのだけど、子供を庇って

割り込んだ『楓』の兄・『小太郎』の腕を、結果として深く斬ってしまった。その後、剣を持てなくなった

失意と感染症で結局『小太郎』は命を落としてしまう。預かった子供をちゃんと見ていられなかった自分の

至らなさと、何故あの時自分が身代わりにならなかったのかという後悔と…。『楓』にしてみれば単に兄を

失っただけではないんだ。父母は『運が無かった…』と歎くばかりだし、道場のために好きでもない男を

婿に押し付けられそうだし、それに対しても『楓』は苛立ってる。・・・・そして事件が起きたのと同じ、遠雷が

響くある日、兄の菩提寺近くで『義就』の代わりに墓参に来た帰りの『義彬』を見つけて斬りかかるんだ」

 「その斬りかかる場面をヒカルちゃんがやってみせるのね?」

 「そうです。『義彬』は突然斬りかかられて一度は鯉口を切るんだけど、彼女の素性を察して剣を鞘に

収めたままかわし続ける。余裕とも取れる『義彬』の態度に『楓』は怒りが収まらず、闇雲に剣を振るい

ついには『義彬』の二の腕を切っ先で斬りつけるんだ。だけどその血の赤さに兄が斬られた時のことや、

初めて人を傷つけてしまった衝撃やらで『楓』が立ちすくんだ隙に、『義彬』は手刀で守り刀を叩き落とす…、

という流れだ」

 「…役の上とはいえ『怪我させる』だなんて、全国の敦賀さんファンの恨みを買いそうです…」

 「心配ないよ。その先の展開から言えば、キョーコちゃんファンの嫉妬を買うのは蓮のほうだから」

 「社さん、慰めて下さってるんですか、それ…」

 いまから頭が痛いという顔のキョーコにふっと蓮が熱っぽい視線を送る。

 「それはもう、全身全霊を傾けて口説かせて貰うよ?」

 せめてカメラが回っている間ぐらい、君のただ一人の男でいたい。その為になら、全国の男に恨みを

買おうが女性ファンがいなくなろうが構わないとさえ思っているなんて、口に出しては言わないけれど。

 「前にも言ったろ?『蓮は本気で相手に惚れさせるよ』って…」

 どこか楽しげな新開にキョーコは緊張をあらわにし、蓮はそんな彼女にわずかに苦笑いしていた。

 

 監督の口から語られる概要に耳を傾けていた助っ人二人に新開が言った。

 「『楓』は半狂乱とまではいかないけど、怒りと悲しみに支配されているからめくら滅法な感じで、

『義彬』はこんなところでまで『義就』の身代わりになりかねない己の立場を苛立たしく思いつつ、自分より

年若い娘がここまで追い込まれてしまったことを気の毒にも思うから本気で反撃できない…って感じで

やってくれるかな?」

 「いや、そんな細かい指示は本職さんに言って貰えませんか?」

 所作以前のリクエストにランティスが異論を唱えるが、新開は軽くいなしていた。

 「それはもちろん。ただ二人がどういう気持ちでいるか解っていたほうが動きやすいだろ?」

 「半狂乱手前って感じなら、剣の心得も頭から飛んじゃって大振りしてるのかなぁ…。それなら袂も

ばさばさいきそう」

 「嘘っぽくならないように、でも盛大に翻ってくれると絵的には嬉しいね。じゃ軽く動いてみてくれるかい?」

 「あ…」「あのっ…!」

 期せずして同時に新開を呼び止めたランティスと光が互いの顔を見合わせていた。

 「先輩からどうぞ」

 「・・・」

 呼びかたが気に入らないとばかりに、ランティスがわざとらしくそっぽを向いた。

 「う〜っ、こんな時までもう…。ランティスからどうぞ」

 光が手にしているものを取り上げて何かを確かめると、ランティスは新開と日野の顔を見た。

 「もう少しそれらしいものはありませんか?軽すぎてやりにくいんですが」

 「あ、ランティスも同じこと気にしてたんだ。抜けなくてもいいんですけど、ちゃんと重みがあるほうが

やりやすいよね?」

 「こっち使ってみるかい?」

 蓮がカチリと鯉口を切ってみせる。撮影用の模造刀ではあろうが、美しい刃紋まで入っている。キョーコも

紅に萌える楓のひと枝の刺繍を施された袋から守り刀を取り出していた。

 「わぁっ!敦賀さんたちの撮影前に小道具に傷つけたら困ります。そんな上等なのじゃなくていいんです。

ね?ランティス」

 「ああ。…モップの柄は長すぎるし…」

 代わりの得物(えもの)を探すランティスたちに新開が慌てていた。

 「おーい、モップは勘弁してくれよ。いま持ってこさせるから」

 「監督、所作を見るだけなら私のでいけるでしょう」

 スタジオの入り口のほうに控えていた助手にゴルフバッグのような物を持ってこさせると、日野は太刀と

小太刀を取り出した。

 「これでどうだね?」

 ランティスと光はそれぞれ受け取ってコクリと頷いていた。

 「居合もやってるランティス君がこだわるのは解るけど、小太刀と竹刀じゃずいぶん違うよね、もともと…」

 不思議そうに尋ねる蓮に光はニコッと笑って答えた。

 「管理を厳重にしてるからそんなに触ることはないけど、私も守り刀持ってるから。骨董品というかがらくたと

いうか微妙なやつ…」

 「『アナタのお宝鑑定しまSHOW♪』に出したりしないのかい?」

 やけにワクワクしている社に光はふるるっと首を振る。

 「国宝じゃないけど、文化財指定はされてるらしくて勝手に持ち出せないんだ」

 がらくた呼ばわりしていたが、しっかり来歴が明かされている一品らしい。

 「気さくだからあんまりそんな風に思われないみたいだけどれっきとしたお嬢さんなのよ、ヒカルちゃんって」

 「そそそ、そんなんじゃないですっ」

 「ねぇ、ホントにこんなのでいいの?コレにつけられるものなんて、せいぜいうちの学院と自宅ぐらいよ?」

 「コレだなんて…っ。おまけはいりませんから…」

 「そういう行き過ぎた妄想はせめてヒカルが16歳になってからにして下さい」

 「16でも早くない?ねえ、最上さん」

 クスクス笑いながら同意を求める蓮の横でキョーコがため息をついている。

 「…17歳の私はすでに嫁(い)き遅れ状態ですね。別に嫁(い)く気も予定もさらさらないからいいんですけど…」

 だいたい口説かれたって暖簾に腕押し以上に手応えなくスルーしてしまっているラブミー部員1号のキョーコだ。

自然にその気になるのを待ったりしたらいつになるやら、考えただけで蓮は気が遠くなりそうだった。なれそめは

ともかく恋人役となれば、仕事中も堂々と口説けるというものだ。キョーコが役に入りきれないようなら(あるいは

「完全に入りきれていない」と断じて)、時間が許す限り二人だけの打ち合わせをする手もある。新開の挙げた

候補者の中ではまだまだ新人の彼女を押し、蓮の恋人役を固辞するであろうことを見越してLMEの愛の使者(笑)

ローリィ・宝田社長から、『ラブミー部員としての成長ぶりを見たいから、ちょっと恋愛モノもやってみせろや』的

社長命令を出して貰ってキョーコを引っ張りだした根回しを無駄にしてはならない。多分に蓮の私情を差し挟んでは

いるが、『京子』の演技力を高く買っているのもまた偽らざる事実だ。お互い初の時代劇でどれだけの作品(モノ)

創り上げられるかも楽しみだった。

 新開や日野と二、三打ち合わせをするランティスと光を見ながら蓮はキョーコに声をかけた。

 「身長差がかなりあるから間合いそのままって訳にはいかないだろうけど、あの二人が演るのをしっかり

見ておこうね、最上さん」

 「はい、敦賀さん」

 テレビや映画の画面を通さずじかに見る殺陣は初めてなので、キョーコもドキドキしていた。

 「「お願いします」」

 ランティスの低く通る声と光の高く澄んだ声のユニゾンを伴う一礼で、スタジオ見学客二人による試演が始まった。 

 

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スキビからのキャラ(名前登場順)

ローリィ・宝田LME社長

 

当サイトオリジナルキャラ

クルーガー・アンフィニ…ザガート・ランティス兄弟の父。チャーター機メインのパイロット。

                聖レイア学院の理事の一人。