Endroll は Trap つきで ♪

 

 

   「四月の最初の行事までは前年度役員が仕切りますのよ。改選前ですもの」  

 「四月最初って…、入学式とか始業式?他になんかあったっけ?……あ、

ウェルカムパーティー!?」

 「はい、正解です♪あれを盛り上げることが今期役員の集大成ですわ」

 幼稚舎から大学部まである聖レイア学院に於いて大多数が内部進学者であるが、

校舎の構成上もあってか、中等科と高等科の一体感は群を抜いている。

 留学生を始めとして毎年若干名いる編入生を内部進学者に馴染ませる為に、

新Scorpius≪天蠍宮≫(中等科二年生)から新Pisces≪双魚宮≫(高等科三年生)が総出で

新入生らを歓迎するという馬鹿騒ぎ、もとい、イベントが始業式後の最初の

土曜日に開催されていた。  

 「そっか。劇の練習とかあるから春休み前に決まってるんだ。去年の『眠れる

森の美女』は絶世の美人さんだったよね。そういえばあの姫役やった先輩って、

見てない気がする…。あれだけ美人さんなら絶対判ると思うのになぁ〜」

 「「えっ…?」」

 期せずして姉妹がユニゾンで発した声に、光がぱちくりと目を瞬(しばた)かせた。  

 「私、変なこと言った??」

 「あの姫役は…光さんもよくご存知の方でしてよ?」   

 「えええ〜っ??まさか空お姉ちゃん?」

 「いえ、私じゃありませんわ。球技大会の頃にご面識があったように思うの

ですけど……。その後はランティスさんが断固阻止なさってたかしら?」

 「・・・ま、まさかラファーガ先輩??」

 「光さん、ラファーガ先輩が美人に変身なさるのはかなり無理がありますわ」

 「それにラファーガさんはカルディナさん一筋ですもの。ランティスさんが

釘を刺されるまでもありませんわ。それにラファーガさんは王子役でしたもの」

 「あー、言われてみればそうだっけ…」

 姫の美しさばかりに目を奪われていたので、他のキャストは霞み気味だった。

 「ラファーガさんは王子役のプロンプターのはずでしたのに、当日王子役が

おいでにならなかったので急遽代役に立たれましたのよ」  

 「へぇ、そんなアクシデントがあったと思えないぐらい立派な王子様だっよね。

姫抱っこも軽々で…。で、姫役は結局誰だったの??」  

 「あの限りなくプラチナブロンドに近い薄い金茶の髪は、自毛にエクステを

つけてらっしゃいましたのよ」    

 「…プラチナブロンドに近い……金茶…?」  

 留学生も多い学院だが、光の記憶にあるそんな髪色の持ち主は一人だけだ。  

すらりと背が高く、色白で、楚々とした雰囲気の姫君……。  

 「ま、まさか……イーグル先輩!?」

 「そのまさか、ですわ」

 女子の制服姿(必ずしも制服着用者とは限らないが)の中にあの姫を探しても見つからない

はずだ。         

 「風ちゃん、いつから気づいてたの?教えてくれたっていいじゃないか」         

 ぷうっと膨れた光に、風がくすくす笑っていた。

 「イーグル先輩とお話されてもそのことに触れられないから、もうご存知だと

ばかり…」

 「今の今まできっぱり想像もしてなかったよ。で、今度の目玉は何?やっぱり

劇?」

 「ええ。学院の各学年のエース級を取り揃えることで、先輩方にも馴染んで

頂こうという算段です。在校生のエスケープ率も格段に違うんだそうです」

 「去年は主役二人見たさに練習でも人だかりが絶えなくて、当日の出席率も

ほぼ100%でしたわ」  

 「当日脱走した王子を除いては、ですよね」

 「在校生の皆さんの落胆ぶりときたらありませんでしたわ。『あの王子と

あの姫なら見逃せない』と、プロのビデオカメラマンまで手配したかたまで

いらしたのに…」

 その『もともとの王子役』が誰だったのかを敢えて明言しないまま話を進める

鳳凰寺姉妹に、訊くべきなのか訊かぬが花なのか、光は大いに悩んでいた。   

 「去年エスケープされたあの方にはペナルティとして再登板して頂きます。

もちろん、逃がさないように搦め手も用意して…。ふふふっ」   

 キラリとひかる風の眼鏡に光がぎくりとしていた。   

 「ふ、風ちゃん?何か企んでない…?」    

 「あら、そんな…。光さんの気のせいですわ」  

 「そ、それならいいんだけど…。で、今年の演目は何?」

 「ごめんなさいね。関係各機関との調整が必要だから、まだ役員以外には公表

出来ないの。きちんと決定したら、光さんには真っ先に教えて差し上げますわ」

 にっこりと笑ってかわした空に光はぶんぶんと首を横に振った。     

 「いいんだ。エントランスホールの掲示板見るようにするから」     

 『深く追及してはいけない』…と、あまりこういう時には役に立たないハズの

光の野性のカンが『知らないほうが、身の為だ』と告げていた。

 「あら…。光さんには特別に教えて差し上げますのに…」   

 残念そうな風に、光はなおもふるふると首を横に振っていた。

 「一般庶民(=役づきでない生徒)だから、そういうことは告知で充分だよ。発表、

楽しみにしてるね」  

 『楽しみにしてる』という光の言葉に、鳳凰寺姉妹はにっこりと笑み交わしていた。

 

 

 …その一週間後…

 なかば社交辞令で口にした自分自身の発言を

 光は激烈に後悔する羽目になっていた……

 

              

 

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