Endroll は Trap つきで ♪

 

 

        ♪チャ〜ンチャカ、チャ〜ンチャカ、チャ〜〜ン♪

        「出来たっっ!!」

 某番組ならファンファーレが高らかに鳴り響いたに違いない晴れやかな

顔で光が宣言した。

 「見た目は良い感じですわね」

 幾つか作ったうちの撥ねから一個摘まんで、海がぽいっと口に放り込む。

 「さすがプロ御用達…。ホワイトチョコレートって甘ったるいのが多いのに

美味しいわぁ。お抹茶も最高級品だしね」

 最高級も最高級、次期家元が自らの茶室で二流、三流の抹茶を使っていよう

はずがない。   

 「お抹茶のほろ苦さが効いてるよね。これなら食べてくれるかなぁ」

 「光さんが心を込めて初めて手作りなさったチョコレートですもの。それを

食べないなんて許せませんわ」

 「でも好きじゃないの知ってて押し付けるんだもの。あんまり無理言っちゃ

気の毒だし」

 「甘やかしちゃダメ。いざとなったら『食べてくれないならもう別れる!!』

とぐらい脅して…」  

 「お、脅しって…。もうちょっと穏やかにいこうよ」  

 だいたい『もう』と言えるほど付き合っている実感はあまりない。  

 「暴力に訴える訳じゃありませんわ。光さんが涙の二粒、三粒もこぼせば

きっと食べてくださいますとも」     

 「泣き落とし!?…そんなに都合よく泣けないし…」   

 「ダメダメ!ここぞってとこで泣けなくちゃ、恋の駆け引きに勝てないわ。

なんだかんだ言っても涙は女の武器なんだから!チョコレートのラッピングが

済んだらそっちの特訓よ」

 「でぇぇぇぇっ!?」

 「海さんったら、やっぱりスパルタですのね」  

 「鬼だよ、鬼…っ」

 「何か言った!?」

 「なっ、何でもないっっ!!」

 鬼の角が増えては堪らないとばかりに、光はふるふると首を横に振っていた。

 

 

 泣き落としの練習は冗談だったらしく光がホッとしたのも束の間、新たな

トラップをズコンと踏み抜いていた。

 「遠雷、いつ行く?光はもちろん、風も行くでしょ?ネット予約取るわよ。

会員割引もあるしね」  

 「助かります。春休みのスケジュール確認しますね」

 いそいそと手帳を取り出す風の横で、光がカリカリと頬を掻いていた。

 「あのさ、私、舞台挨拶の日にご招待されてるんだ。それにランティス先輩と

行くことになってて…」  

 「舞台挨拶…!?敦賀蓮と京子の!?」

 噛みつかんばかりの海に、光はのけぞっている。

 「う、うん。他にも来るかな…。招待状になんか書いてるかも」

 「芸能人からの招待状ですって…見せて見せて!そんなのめったにお目に

かかれるもんじゃないのよ!!ね、風?」

 歌舞伎や能楽などの古典芸能のお招きなら両親宛に来ているけれどと思い

ながら、沈黙は金とばかりに風が微笑む。    

 「そうですね。私も拝見したいですわ」  

 アイボリーの洋封筒に金箔で捺されたInvitationの文字。裏は古風な封蝋が

施されていた。LMEと書いてあるところを見ると、所属事務所のものらしい。    

 レターオープナーで綺麗に開けられた封筒から、光が中の手紙を取り出した。         

 

 「『獅堂光様   

  お元気ですか?衣装選定で光ちゃんとランティス君に協力して貰った遠雷が

 ようやく公開を迎えます。つきましては、ささやかな感謝のしるしとして

 獅堂光様とランティス・アンフィニ様をご招待させて頂きたく、ペンを執った

 次第です。(ランティス君のほうには敦賀さんからミセス・アンフィニ経由で

 話が行っているはずです)

  レイトショーになるとお兄さんたちに反対されるかもしれないけど、

 そこはなんとかクリアしてください。 この日はサントラ担当ということで

 ミセス・アンフィニも参加されますから、いざとなったら印籠がわりに…。

  エンドロールのクレジットもちゃんと見て下さいね♪

     P.S.パネルの裏側、気に入ってくれましたか?』……裏側?」         

 

 最後まで読み上げた海が、首をひねっていたが、すぐに何かを思いついて

パネルのそばへと戻った。  

 「どどど、どしたの、海ちゃん」

 おたおた慌てるあたりが、『そこにヤバいモノがあります』と言っている

ようなものだ。立て掛けてあるパネルの裏側をそっと覗いた海が、「何よ、

これーっ!?」と言いつつ風にも見えるようにひっくり返した。

 「まぁ…」    

 学校では見かけないいちゃつきぶりに(やってたら翔たちが大騒ぎすること間違いなしだ)、風も

二の句がつげない。        

 「あのっ、そのっ、それはそのー…。何回も立ち回りやってたから、先輩、

草履で足を傷めてて大変だったから、つい……」

 「つい、ね…」

 わたわたしている光をじとっと睨んだ海に、風がくすくす笑った。    

 「きっと大丈夫ですわ。理事先生もご一緒だったんですもの。海さんがご心配

なさるほどのことは…」

 「風ちゃんのいう通りだよ。全然心配ないからっ!」

 何をそこまで心配されていて、何が大丈夫なのやらよく解らなかったりするの

だが、助け船があるうちに乗るに限ると、光は風の言葉に乗っかっていた。   

 「ま、そういうことにしておいてあげてもいいわよ。それにしてもランティス

先輩って光の前ではこんな顔してるのねー」

 「べ、別にいつも通りかっこいいじゃないか。立ち回りやっててもスッゴく

キマってたんだから!!そのまま端役でもいいから出してほしいぐらいで…」  

 「端役にするには目立つわよ。敦賀蓮より大きいでしょ?その上、見映えも

そこそこいいから、主役を食うとまでは言わないけど、そりゃ事務所的にNG

でしょうよ…」   

 「その写真じゃ判らないんだけど、敦賀さんって背が高いから着流しとか

特注品だったのに、先輩のほうがもう8センチ高いから、着流しつんつるてん

だったんだよね。それがなんか可愛くってさぁ…。ぷっくくく、演技力はねー、

先輩と私、桜島大根だって理事先生に両断されちゃったから、無理かなぁ」  

 またぞろポロリと零れでた新情報に風の眼鏡がキラリとひかった。   

 「あら…。今、さらっと流されましたけど、なんだか楽しげなことをなさって

いたんですのね」    

 「ふえっ!?」

 いったい何処から何をつつかれるやら、光はどぎまぎしている。  

 「立ち回りはかっこいいのに桜島大根ってどういうことよ?」   

 

 喋らずには逃がさないとばかりにじいっと見つめてくる友二人をいなせるほど、

要領の良さは持ち合わせていない光だった。

 

  

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