Endroll は Trap つきで ♪

 

 

 ミセス・アンフィニに呼ばれて両A面のパネルを貰った日に、思いがけずに

京子こと最上キョーコから贈られたあるもののせいで光はあることを確実に

実行せねばならない事態に陥っていた。         

 『なるべく簡単であんまり甘くないレシピ教えてあげるから、頑張って!』

と、スタジオ見学の折に言ってくれてはいたが、なんと言っても話題作に立て

続けに出演中の女優さん(所属はタレント部門だから、タレントさんなんだそうだけど)、てっきり

リップサービスだとばかり思っていたら、レシピだけでなく『ちょっとした

ツテがあったから…』と、プロ御用達の材料まで一緒に分けてくれたのだった。

 いかに光が不器用でも、いかにランティスが甘いものは好きじゃないと公言

していても、ここまでお膳立てして貰ってチャレンジもしないなんて選択は

あり得なかった。        

 

 さりとて一人では到底心もとなく、お菓子作りに手慣れた龍咲海と鳳凰寺風を

ポスター披露もかねて自宅に招き、チョコレート作りに挑むことにした。

 

 「これ…第一期の前売り券とセットになってたポスターよね…。直筆サイン

入りなんてズルいわ、光ったら。どうして一緒に連れてってくれなかったの、

スタジオ見学ぅ~っ…!私のほうが敦賀蓮ファン歴長いのにぃ」

 もともと海の強力なプッシュで光も『DARK MOON』にハマったのだから、

そう言われても致し方ない。

 「だって理事先生(ミセス・アンフィニ)もお仕事なんだし、あんまりぞろぞろついて

いっちゃダメかなと思って…」

 お怒りごもっともとたじたじな光にくすりと笑みつつ風が尋ねた。

 「ですが結果的には光さんとランティス先輩がご一緒されていたことでお役に

立てたんですよね?」

 「うん。たまたま獅堂流と縁のある殺陣師さんが関わってるんだけど、女性

殺陣師さんが病気で来られなくて困ってるみたいだったから…」

 その代わりにと光とランティスが衣装選定の為の立ち回りを試演した縁で

主演二人の直筆サイン入りポスター+αを贈られたのだ。その+αを二人に見せた

ものかどうかは大いに迷いどころだったが…。

 「ふうん。で、これが京子の簡単チョコレシピな訳ね。……確かに初心者にも

解りやすいわ、これなら。料理が上手いだけじゃなくて頭もいいんだ」

 自分で出来ることと、他人に解らせるのはまた別の話なので、海は正直言って

光にバレンタインのチョコレート作りをレクチャーするなんてことは、はなから

諦めていたのだ。

 バラエティー番組で京子が料理の腕を披露していたのを見たことはあるが、

ポイントを絞り込んだこのレシピはかなり解りやすいものだった。

 「光ったら、このレシピ見て自力で出来なきゃ絶望よ?」  

 「う゛っ!ポ、ポスターも見せたかったんだもん。先輩のところには第二期の

やつのサイン入りがあるんだ」    

 もっともランティスはもっぱらその裏側のほうにしか興味がないようだったが、

光が遊びに来るときにはポスター側を飾っていたので彼女はそれを知らなかった。

 「ランティス先輩がこういう物を飾ったりなさるの、想像がつきませんわ」

 「あははは、そうだよね。私が見たがるから置いてくれてるのかも」   

 ぽややんとした光も少しはランティス・アンフィニの理解が進んでいるらしい。

 「さてと、キッチンにお邪魔して始めましょうか」

 持参したマイエプロンを海と風がささっと身につける。

 「か、可愛いなぁ。母様に貸してってお願いしたら、割烹着なんだもん…」  

 「ぷっくくく、調理実習、そのまんまね」

 「海さんったら。そんなにがっかりなさらなくても、古風な純日本家屋の

獅堂家にはとても似つかわしく思いますわ、光さん」

 「あははは。ありがと、風ちゃん」

 

 基本的にはレシピ通りやれば出来るはずなので、海と風はほんのときおり、

お菓子作りの基本のきの字も解っていない光に用語説明を差し挟んでいた。

 「『湯煎』が解んないとは…。まさか京子さんも光がこのレベルとは思うまい」

 はあっと頭を抱えた海に、光はう゛っと詰まっている。

 「日常生活に湯煎はしないよぅ。ね、風ちゃん?」

 「確かにあまり機会はないかもしれませんわね」

 「風ったら、そこで甘やかしてちゃダメじゃない」

 「ワルツの時も思ったけど…、海ちゃんって結構スパルタだよね」

 「ある時はワルツの鬼コーチ、ある時はお菓子作りの鬼講師…。多才ですね、

海さん」

 「いちいち鬼がつくのはどういうコト!?」

 角を出しかねない声音に光がひきつる。

 「そのぐらい厳しいってだけで…、あわわわ、仕方ないよ、生徒の出来が

悪いんだもんね」      

 「解ればいいのよ。ほら、手がお留守になってる!次は『バットに流し込んで

ならす』でしょ?」   

 「はいぃ!…でもどうやって?」 

 「ひぃかぁるぅ~っ!少しは自分で考えなさいっ!!○か×かは答えてあげる

から」

 「う゛ーっ。海ちゃんやっぱりコワイ…」

 

 そうしてテキスト:京子レシピ、指導:龍咲海、アシスタント:鳳凰寺風による、

手作りトリュフ教室が続いていった。

 

 

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