Die Ouvertüren
「なぁ、アスコット」
「……むぐっ、な、なに?フェリオ」
自分でもミスったなと思わなくもないサニーサイドアップの塩コショウ加減に、口に合わないとでも文句を
言われるのかとアスコットは慌てて咀嚼中の物を飲み下していた。
「お前、そろそろ一人で行き帰り出来るか?」
「え……?」
食道の奥でつかえたパンを流し込もうと紅茶のカップを手にしたアスコットがそのままで固まっていた。
彼らの故国では考えられなかった通学・通勤ラッシュ。ありえない程ぎゅうぎゅう詰めにされ、見知らぬ他人に
囲まれる空間。
帰宅時は通勤とピークがずれるのでそれ程でもないが、一人での登校は想像するだけで冷や汗が出そうだった。
「どうして…?」
はとこ同士なんていうのはまるっきりの嘘っぱちで、もとをただせば貴人とその随員。フェリオがアスコットの面倒を
見るだなんていうのは本末転倒も甚だしいのだ。
「俺、部活決めたから。今度の日曜に道具買い揃えて、週明けから正式入部するんだ」
「なに部?」
「弓道部」
眼鏡のあの娘(コ)がいる部なのだから、納得といえば納得だ。
「けどアーチェリーやフェンシングのほうが馴染みあるんじゃない?ボウガンや大剣なら心得あるだろ?」
心得どころか、大剣に関して言えば近衛兵にだってひけをとらなかったフェリオだ。
「ばかだな。セフィーロで出来ないことを学ぶ為に留学してるんだぜ?目新しいことにチャレンジしなくてどうするよ」
もっともらしいことを言っているが、99%風が居るクラブだからに決まってるとアスコットは思った。
「でも朝は一緒に…」
「弓道部は週二回朝練がある。それ以外の日も自主トレOKなんだ。だからフウは毎朝早い」
フェリオはしれっとした顔で風の名を出した。転校初日は20分以上かかって電車の駅まで歩いたのに、翌日
もうひとつ隣の急行停車駅までバスを使おうと言い出したのはフェリオだった。路線こそ違うが風もその駅から
バスを利用していた。さらに部活が同じとなれば朝夕一緒になるオフィシャルな口実にもなるという訳だ。二人の
仲の進展度は不明だが、そんなところにアスコットが居たらお邪魔虫の極みで、否と言えるはずもない。
「……解った。一人で行くよ…」
この世の終わりのような悲愴な面持ちのアスコットの肩をフェリオがポンッと叩いた。
「そんな顔するなよ。ウミだって同じ路線なんだし、学校と駅の間だって貴重なデートタイムじゃないか。
いつまでも俺と一緒じゃあ次のステップを踏めないぜ?」
おどけたようにウインクしているが、たとえかたがなんとも皮肉だった。王族のたしなみという以上にフェリオの
ワルツはキマッている。頬に残る傷痕と茶目っ気のある性格のせいでともすれば軽く見られがちだが、燕尾服に
ホワイトタイでフェリオが舞踏会に姿を現すと、上流階級の娘たちはたとえ一曲なりと踊っては貰えないだろうかと
憧れのまなざしを向けていたものだ。堅苦しいことを嫌うフェリオがめったにそういう場に顔出さないことが、ことさらに
希少感を煽っていた。
≪ご学友≫という立場上、アスコットも一通りダンスの手ほどきは受けているものの、『踊れなくはない』という
程度のレベルで、華麗には程遠かった。しかも困ったことに間もなく学院では舞踏会があり、さらに困ったことには
『ウミは結構踊れるほうやで。ちゃあんとリード出来るんかいな、アスコット』と、西館カフェテリアのプリンアラモードを
カツアゲた、もとい、情報提供料にせしめたカルディナが教えてくれていた。
全員参加のイベントであれば、『パートナーとして、ウミをエスコートする』のがアスコットの至上命題だが、海が
人並み以上に踊れることでハードルが格段に上がっていた。パートナーになってくれるかどうかも判らないが、
万が一にも承諾してくれたなら、恥をかかせる訳にはいかないのだ。
体育のダンス練習ではカルディナのシゴキに耐え、家に帰れば彼らのお目付け役であるイノーバのブリザード級の
冷笑とフェリオの励ましにもみくちゃにされつつステップを踏むアスコットだった。
§ § § § § § § § § § §
ある朝アスコットがLibra≪天秤宮≫αの教室に入ると、光の席に風と隣組の海が集まりスケジュール帖を開いて
何やら予定を詰めていた。
「まずは光の予定からね。土日の部活と道場の予定は?」
「えーっと…、土曜午前は部活だからダメだ。道場は早朝と夜でも出来るよ。兄様たちにお願いすれば練習相手に
なってくれるから」
妹が昼間の道場の練習に顔出し出来ない理由を知れば、心穏やかではいられないかもしれないけれど(笑)。
「近いうちに試合があるようなことおっしゃいませんでしたか?」
「試合自体は六月に入ってからだよ」
「風のほうは?」
「指導して下さる先生が体調を崩しておられるので、土日は完全にお休みなんです。後継の方が決まるまでは
そんな感じですわ」
「ふうん。そっちも土日オフなのね」
「フェンシング部も?」
「今年から替わったらしいんだけどフランス人のコーチでね、『週末は家族とゆっくり過ごす主義』なんですって。
そんな奴が日本の部活のコーチなんか引き受けるなっつの!」
「あれ?でもこの間の試合は?」
「あの時は引き継ぎ中の前任のコーチが引率してくれたのよ。この先の新人戦だとかをどうするつもりなんだか…。
いくら本場でいい成績上げてたっていってもねぇ」
「うちのフェンシング部、毎年いい線いくのにね」
「学院長に直訴なさってみては?」
「直訴ぉ?入ったばかりのペーペーが?!」
「理事会でもいいんじゃないか?」
「そんなのもっと接点ないわよ」
「うちも海ちゃんちもPTA役員だから、そっちから話して貰うとかさ」
「うーん、それもなんだかね。総会に提議すると議事録に残るらしいのよ。慣習が違う国の人をあげつらうようで
イヤだわ」
困っているようなのに手を決めかねている海に、風も眉を曇らせている。同じように困った顔をしていた光が、
ポンっと手を叩いた。
「じゃあさ、私が理事さんに個人的に相談してみるよ。コーチの主義は尊重するから、土日の試合に出られるように
補佐役つけて下さいって」
「個人的にって…」
「ランティス先輩の母様は学院理事だもん。こんなことになるならメルアド交換しておけばよかったな…」
「ミセス・アンフィニとですか?」
目を丸くしている風に光がコクンと頷いた。
「向こうは乗り気だったんだけど、ランティス先輩が『いたずらメールを送りつけられるだけだからやめておけ』って
いうから、うやむやになったんだ。だけど先輩通して話して貰えるよ。お国柄の違いのこととかもちゃんと話すから」
「そのラインか…」
唸るようにつぶやいた海同様、風も思案顔だったがやがて小さく息をついて答えた。
「公にしたくないということでしたら、光さんにお任せするのがよろしいかもしれませんね。個人的なルートですから」
「忙しそうな人だからすぐには無理かもしれないけど、話だけは通しておくよ」
「うーん、じゃあ話せたらね」
こんな話をさせたらランティスと光の接点が増えるだけじゃないかと思いつつ、他に打つ手もない海は任せるより
他なかった。
予鈴とともにスケジュール帖をパタンと閉じた海が立ち上がる。
「光は慣れが肝心だからワンピでいらっしゃい。あ、スニーカーじゃ踊れないんだから、それも準備するのよ?」
「…はぁい……」
今から気が重いとばかりに光の返事は覇気がなかった。
「…ぉ、おはよう、ウミ」
「あら、おはよ!アスコット」
アスコットが特定の誰かに向けて朝の挨拶をするのを見た覚えのないクラスメイトらが密かに目を瞠っている。
「マリノ、いい子にしてる?」
「今朝も元気にミルクの入ったお皿に飛び込んでそこらじゅうぼっとぼとにしてくれたわ。かなりのおてんばね」
「ご、ごご、ごめんっ!掃除が大変だよね。あ、シャンプーもか…」
「『きゃー!』なんて悲鳴上げてるけど、結構うちのママ楽しんでるわよ。クッションフロアだから掃除も簡単だし。
猫ってシャンプー嫌がるって聞いてたけど、水遊びは好きそうね」
「そ、そうなんだ」
「あ、一応聞いて行こうかな。いつうちに来る?って、いきなり聞いてもスケジュール判らないかしら」
「いつでも、ウミが都合のいい日で構わないよ」
もう一度スケジュール帖を開いて、『ふむ』と確認していた海が日付を指し示す。
「この辺の土曜の午前なら空いてるわ。土曜の午後と日曜しか無理ならそれでもいいわよ?光のワルツの
特訓があるから風も来てるけど」
フェリオを差し置いて風と学外で顔を合わせるなんてバレたら、一緒に行くと言い出すに決まっている。それでは
迷惑の上塗りというものだ。
「じゃあこの日の午前中に…」
アスコットが指差した欄に海が猫のシールを貼付けた。
「オッケー!細かいことはまたメールするわ。ヤっバ〜い!鳴っちゃったじゃない!!」
鳴り響く本鈴に海は慌てて自分の教室へと戻って行った。学年一の美少女とプライベートな約束を取り付けた
クラス一せいたかのっぽなのに影の薄い少年の背中に、野次馬根性溢れる視線がグサグサと突き刺さっていた。
§ § § § § § § § § § §
憧れの、しかも出来ればハートを射止めたいと思っている女の子の家を訪問するという、少女漫画ばりにベタな
シチュエーションの経験はアスコットにはなかった。幼い頃、ひょんなことから助けてくれた海に一目惚れして一筋
だった上に、元がいじめられっ子の引きこもり系なので、遊び仲間の女の子の家にみんなでお邪魔するという経験
さえなかった。(『さんざご飯食べさしたったウチは女の子のうちに入っとらんのんか!?』と、カルディナが聞けば激怒するかもしれないが…)
自分が十分に面倒を見られない仔猫を預かって貰っているのだから、なおのこと失礼があってはならない。
球技大会の応援合戦ネタのカルテット練習の為に鳳凰寺家に入り浸りだったフェリオが手本といえば手本なので、
まずは手近なところからとアスコットが尋ねた。
「あのさ、フェリオ。フウの家に行く時って、手土産どうしてた?」
「はん?大概学校帰りだし、楽器もあったしなぁ。特に何も。生徒会長もずっと手ぶらだったぞ、そういう系は」
王子然としている訳ではないが献上される立場に慣れたフェリオともともと鳳凰寺家の姉妹と幼なじみの覚では、
≪初めて訪問する≫アスコットの参考にはならなかった。
「うーん…」
「まだ中学生なんだし、気楽に行けばいいんじゃないか?」
「もう少し考えるよ」
§ § § § § § § § § § §
「おっはようございま〜す!」
ほとんど毎日教室に一番乗りで返事がないのを承知でそう言った光に答える者が居た。
「おはよう、ヒカル」
「うわぁっ、びっくりした。今日はずいぶん早いんだねアスコット。朝練組並じゃない」
「一身上の都合でさ…」
「ふうん」
今日からフェリオは弓道部の朝練だ。フェリオと風の通学デート(なのかどうかは知らないが…)を邪魔する気はないが、
朝のラッシュに一人で電車に乗る自信のないアスコットはフェリオ達より一本遅い電車に乗ることにした。まだ人も
まばらで、喉の詰まるような息苦しさを感じずに済んだので、徐々に慣れていこうと考えていた。
「あのさ、ちょっと聞きたいことがあるんだけど」
「なに?」
学生鞄だけ置いて出ていきかけた光が振り返る。
「ウミって、どんな物が好きなのかな…」
「ほへ…?海ちゃんのお誕生日なら、もう過ぎちゃったよ」
「い、いつ!?」
「三月三日、お雛祭の日」
「そうだったんだ…」
思いがけず貴重な情報をゲットしたが、今日の本題はまた別だ。
「ちょっと事情があって、うちの仔猫を預かって貰ってるんだ。で、お礼に何かと思ってさ…」
「あ、海ちゃんに写メ貰った猫さん、アスコットの猫さんなのか。手の平のって可愛いよねぇ。名前はなんていうの?」
「マリノ」
「おしゃれだなあ。しましまだからうちならトラとかになっちゃいそう。…それで海ちゃんの好きな物か…。難しいな」
「難しいの?」
「お菓子作り抜群に上手いのに、甘い物好きじゃないし。持ち物とかこだわるほうだから、ハズすと使ってくれない
からなぁ。お花は好き嫌いないけど、海ちゃんちって四季を問わずいっぱい咲いてるし…。ごめんね、役に立てなくて。
また考えとくよ。じゃあね」
おしゃべりで朝練に遅れそうな光が慌てて飛び出していった。
§ § § § § § § § § § §
結局そのまま何も思いつけなかったのか単に忙しさに紛れて忘れてしまったのか、光からこれといった情報は
得られなかった。クラス委員長ということで転入以来風がなにくれとなく気にかけてくれているが、フェリオのいない
ところで話すというのが、最近どうにも後ろめたくて仕方がなかった。なんてことのない一言二言でも自分以外の男が
彼女(なのかどうかは知らないが)と話してるなんて、妬けてしまう気持ちがしみじみ解るからだ。
壁一枚隔てた隣の教室さえ遠く思えるのだから、フロアの違うフェリオはもっと距離を感じてるだろう。留学期間が
どのくらいになるかは聞いていないが、フェリオが高等科を出るまでとしてもアスコットと海は4回同じクラスになる
チャンスがある。けれどもフェリオ達はフェリオが落第する(聖レイアのような名門中高では前例がないらしい)か、
風が飛び級するかしなければ同じクラスにはなりえないのだ。聖レイア学院は初等科から大学部に至るまで
飛び級を認めているが、風は再々の勧めにもかかわらずこれまで飛び級を固辞し続けてきたらしい。
教室内引きこもりのアスコットが何故そんなことまで知っているかといえば、転入初日なかなか姿を現さない
風のことをあれやこれやと担任が話してくれたからだ。どんながり勉が来るかと思いきや、眼鏡こそかけているが
駅で見かけた優しいあの娘(コ)だったので、フェリオは職員室を出るなりお茶に誘って見事に玉砕していた。
あんなに鮮やかにフェリオを袖にした女の子は初めて見たし、それでも怯まないフェリオも真似出来ないなと思う。
ああもこっぴどく撥ねつけられたなら、僕なら一週間は部屋から出られないだろう。フェリオに蹴り出されるか、
イノーバにいびり出されるかのどちらかかもしれないが。
フェリオと風のことは二人に任せておけばいいとして、問題は海だ。
ベタでもなんでも嫌いなものがないらしい花束でも持って行こうかと考えつつ、そういう物を携えて電車に乗る
自分を想像しただけで頭がクラっとした。クラっときた功名か、先日セフィーロから親代わりのサニーが送ってきた
荷物の中にあったある物のことをアスコットは思い出していた。
「えーっと、どこにしまったっけな…」
いくら貴人と暮らしているからと言っても、男二人の所帯でどう使うんだと思った代物だが、花好きな女の子なら
気に入るかもしれない。
「あった!≪リアナ≫と≪エリオ≫と≪アイシス≫か。三つともセフィーロの特産品だから、ちょっとは珍しいかな」
アスコットが探し出したのは、小さな茶色いボトルに詰められたエッセンシャルオイルだ。効能書きのメモも
添えられていたが、サニーの走り書きはセフィーロ語だった。
「いくらなんでもセフィーロ語じゃ解らないかな」
パソコンを起動してエッセンシャルオイルを取り上げているサイトを覗いてみたが、物が希少過ぎて紹介している
ところもない。
「うちの国もHPぐらい作ってアピールすればいいのに…」
欲がないのか世事に疎いのか、観光資源にしろ産業資本にしろ国全体としてそういう傾向だった。≪リアナ≫等の
セフィーロ固有種のエッセンシャルオイルは生産量も多くはないので、ヨーロッパ各国の王族が密かに愛用する分を
確保しているという程度だ。
パソコンを開いているついでにと、アスコットは三種のエッセンシャルオイルの効能書きの日本語訳文に挑戦し始めた。
「…やっぱり日本語って難しいよな…」
一通り訳してみたつもりだが、どうにも訳しきれない辺りは結局英文混じりになってしまっていた。子供の頃から
英会話が堪能だった海なら読み下せるとも思えるし、必要なら口頭で説明すればいい。
このままではあまりに素っ気ないので贈り物らしく体裁を調えたいが、そういうこともアスコットには未体験ゾーンだった。
「カルディナに聞いてみよ」
センスのいい彼女なら何かいい案を授けてくれるだろうと、同じマンションの上階に住む姐御にメールを打ちはじめた。
「…お邪魔します…」
『ブツ持っといで』という一見怪しげな返事に誘われアスコットがカルディナの部屋にやってきた。
「ホンマにまぁ色気づいてからに…。で、どんな大きさなんや?」
「これ。割れないように入れられるかな」
「精油かいな。うっわ、これ三本とも!?いっぺんにあげてまうんか?」
「うちにあっても使わないし…。なんかマズい?」
「ゆうとくけど、こぉんなちっちゃい瓶で一本は下らんねんで?どれも!」
「…千円?」
「あほう!もう一桁上や!」
「へぇ…」
子供の頃、おこづかい稼ぎに精油を抽出する為の花摘みのバイトをしたこともあるが、そんなに割りのいい
仕事ではなかったように記憶していた。
三千円ぽっきりだろうが大枚三万円だろうが家に置いていてもきっぱり使わないのだから宝の持ち腐れ状態だ。
「いきなり全部はちょぉっとやり過ぎちゃうか?一本ぐらいうちに回してもバチは当たらんで、アスコット」
ちゃっかりしたことをいうカルディナに取り上げられないよう、アスコットがしっかりガードする。
「これはダメ!」
「男のくせにケチ臭い。たまには気前よぅいかな!」
お金にうるさいカルディナにケチ呼ばわりされるのは心外だが、確かに日頃世話になっているのだからお返しを
考えるのも妥当に思えた。
「サニーに頼んどくよ。あの人はアロマテラピーが趣味だから」
「ニッポンでも買えるようなやつはアカンで。ワンダホでビュリホなウチに似合いのスペシャルなやつ、
頼んどいてや♪さてとラッピングやったな…」
籐の籠にひとまとめに放り込まれたラッピンググッズを持ってカルディナが戻ってきた。
「さ、色も形もお好み次第やで。どんなんがええんや?」
エッセンシャルオイルの小瓶を片手にどのサイズなら綺麗に収まるだろうかと、アスコットはためつすがめつ
やっていた。
「厚手の紙製ギフトボックス(青)緩衝材入り、不織布ラッピングペーパー・リボン付き、ミニ手提げ……しめて
五百円と」
パソコンのおこづかい帳に入力しながら、『ちょっとぼったくり…?』とアスコットが呟いた。カルディナが提供して
くれたのはいずれも百円均一商品だったので、トータル三百円のハズだった。プラスαはコンサルティング料だという。
カルディナが選んだ物なのでハズレはないし、その手の商品を扱う店(当然人混みだ)に出向くストレスを考えれば
そう惜しくない額ではあった。王子の随員という立場のアスコットと違い、私費留学生のカルディナはがっちり
しっかり稼がないと物価高の日本では大変なのだろう。
今度おこづかいが入ったら、またデザート付きDランチでもご馳走しようなどとアスコットは考えていた。