ミ☆KIRA☆KIRA☆彡
果樹園の作業小屋近くに降り立つと、地球でいう猛禽類の頭と翼をもつ
魔獣をアスコットがねぎらった。
「ワイバーン、ありがとう」
「クェェェッ!」
ワイバーンが翼をばたつかせると、農園で働く農夫の子供達がわらわらと
寄ってきた。
「あれー? ウミお姉ちゃんお迎えに行ったんじゃないのー?」
「ウミ姉ちゃのお菓子はー?!」
来るときにはたいてい美味しい手作り菓子を振る舞う海は子供達の人気者
だった。子供達はセフィーロで見慣れない菓子を楽しみ、海はその反応を
見てレシピに反映させていくという訳だ。(何しろ作った本人は殆ど自分では食べないのだから)
「あーちゃん、フラれちゃったんだー!」
「わーい! あーちゃん、フラれたー!!」
「うっ…。どこでそんなコト覚えてくるんだよ…」
容赦ない言葉の矢がガードの脆い心に突き刺さる。
「ウミは仕事で遅くなるんだよ。来ない訳じゃないぞ」
こんなことでグラついていてはダメだと、なかば自分にも言い聞かせる。
「とにかく! 今日のところはお菓子はなし! 僕も収穫作業に戻るから、
一緒には遊べないよ」
「えー!? あーちゃん別に要らないけど、魔獣さんと遊びたーい!」
これまたひどい言い草によろめきながら、ワイバーンをもみくちゃに
している子供達を手で追い払う。
「こいつも収穫作業手伝うんだからだーめ!」
「ちぇー、つまんないのー」
「ウミ姉ちゃがお菓子持ってきてくれたらちゃんと置いといてねー!」
お菓子と魔獣を諦めて去っていく子供達を見送り、アスコットがほうっと
ため息をつく。
ピシャリと自分の両頬を叩くと、たわわに実った木々を見遣る。
「さ、気を取り直して収穫、収穫! ウミが来るまでに少しでも片付け
なきゃな。ワイバーン、行くよ!」
「クェェェッ!」
まだ収穫作業の済んでいないほうの木々の合間へとアスコット達の姿は
消えていった。
例年よりも豊作だったのと、数日前の大風で傷物になってしまった実を
選り分けるのに手間取ったせいで、アスコットがふたたびひと息つけたのは
もうそろそろ日が暮れるという頃だった。
「まだ来てないのかな、ウミ…」
来ればすぐにも果樹園にやってくる筈なのにと考えてはたと思い当たった。
ワイバーンたちを収穫に駆り出したせいで、たとえ海がセフィーロに着いて
いたとしても城から果樹園までの足がないのだ。
ランティスの精獣はほとんど他人を寄せつけないし、魔法の師である導師
クレフの精獣をちょっとした足代わりに使うのはおそれ多い。海には…、
魔法騎士には滅法弱いクレフなので、海が頼めば聞き入れてくれるだろうが、
昨夜から精霊の森に出向いているのでそもそも城にはいないのだ。
「…冷たいよなぁ…。ウミが来たなら来たで誰か《声》で呼んでくれりゃ
いいのに…」
魔導師同士の遠隔連絡手段である《声》で呼びかけて貰えばすぐにでも
飛んで帰るのにと思ったものの、呼んでくれそうな人物がこれまた思い
当たらない。クレフは不在、その次に確実なランティスはこの手の気遣いに
程遠い。光がそばにいれば執り成してくれるだろうが、すぐにもミゼットに
おみやげを持って覗きに行くようなことを言っていたのでそれも期待薄だ。
「いくらなんでももう来てるよね…」
城の尖塔の魔獣たちの出入り口にワイバーンが降り立つ。
「今日もお疲れさま! また明日も頼んだよ、ワイバーン」
「クェェッ!」
大きく一つ鳴いてワイバーンが戻界していくのを見送り、アスコットは
お茶会が催されている屋内庭園へと向かった。