ミ☆KIRAKIRA☆彡

 

 「あれ…ウミは?」

 果樹園での作業を一旦休みにして、城の大広間に顔を出したアスコットが

光を見て訊ねた。

 「先週大型の台風が来てたせいで、大事なクライアントさんの来日が

今週になっちゃったんだって。『オーナー会長ご令息をアキバに案内して、

午後いちの後輩のプレゼン見届けたら行く』って、伝言を預かって来たよ」

 「『プレゼント』?」

 疑問符の貼り付いた顔のアスコットに光が苦笑する。

 「プレゼントじゃなくてプ・レ・ゼ・ン! えーとぉ、なんて言ったら

いいんだろ…」

 いざ説明しようとすると上手い言葉が浮かばない光は風の顔を見る。

 「プレゼンというのは…」

 風の説明にうんうんと頷き、光が続けた。

 「『遅くなっちゃうけど、今日は泊まりでゆっくりできるから』って。

後輩っていうか、海ちゃんの部下らしいから、きっと自分でやるよりずっと

緊張してると思うな」

 「部下なんているんだ…」

 師弟制度の多いセフィーロではいまひとつピンとこないが、オートザムの

イーグルとジェオやザズなどとの関係だと思えばいいのだろうかと自分なりに

解釈していた。

 「『創業者一族令嬢の社会見学だなんて言われたくない』ってものすごく

頑張ってたけど、いまや龍咲コーポレーションのリーディングバイヤーだ

もんね、海ちゃん。センスもいいけど商才もあったんだよ」

 「あのお嬢さんの商売センスは侮れんわ…。交渉ごとやったら負けへんて

思うてるウチでもなかなか唸らされるよってになぁ」

 カルディナもしみじみと頷いている。カルディナのそんな言葉を僅かに

目線を伏せて聞いているアスコットを風が怪訝そうに見遣る。

 「どうかなさいましたか?」

 「え? あ、いや、何でもない…」

 「海ちゃんに逢えなくてがっかりしてるだけだよね! 晩御飯までには

きっと来るって」

 ニコニコそういう光にアスコットが苦笑する。

 「大丈夫だよ。僕は果樹園に戻る。収穫真っ最中だからさ」

 「今日はチゼータからタトラとタータも来るってカルディナが教えて

くれたよ。待たないのか?」

 「お姫様たちをおもてなしするのは苦手だから…。そっちはヒカルたちに

任せとくよ。じゃあまた後で」

 足早に広間を出ていくアスコットを見送り、カルディナがため息をついた。

 「まぁ、元がえらい人見知りするコやさかいになぁ。そこそこ慣れてる

姫さんでも気づまりなんやろ。そないに人に接する仕事やないゆうても、

よう雇われで勤まっとると思うわ」

 カルディナの口ぶりは出来の芳しくない弟を語ってでもいるかのようだ。

 「仕事ぶりが真面目で見所があるからと果樹園の一画を譲って頂けることに

なったのでしょう?」

 「そやてな。ウチもひと安心や。一国の王子さんや二人と居らん魔法剣士

には敵わんゆうても、ちいそうても自分で切り盛り出来るもんがないと、

《ぷろぽーず》するにもカッコつかんやろからなぁ、あのコも」

 引き合いに出された風と光が思わず顔を見合わせる。

 「別にそんなこと海ちゃん気にしてないと思うけどなぁ」

 「そやかてほとんど人任せにしてるChoix de la mer≪海のチョイス≫かて

軌道に乗せてしもうとるやろ? アスコットは招喚士としては一人前やけど、

それほど稼げるもんやなし。中には見世物小屋みたいな商売しとる手合も

おるけど、『魔獣は友達』なんて言うとるあのコじゃそないな稼ぎかたは

逆立ちしたって出来へんしなぁ。なんちゅうても、オトコは家族を養える

甲斐性ないとアカン。稼いでナンボや」

 付き合いの長さのせいか、カルディナの評価はかなりシビアだ。

 「か、稼ぎ…? うーん、ランティスのお給料が月いくらかなんて、結婚

するまで私聞いたことなかったよ…」

 実は結婚してセフィーロで暮らし始めてからも、必要な分を貰う形なので

今でも総額を把握しているとは言い難い。

 「ランティスさんの場合は地球でいう国家公務員に該当されるのかしら…。

そういう場合は俸給に諸手当という考え方がより正確だったでしょうか…」

 ぶつぶつ唸っている光と、その辺りのことにほとんどタッチしていない

風の微妙にズレたコメントにカルディナが肩を竦めた。

 「コッカコームインちゅーのがなんや解らんけど…城仕えしとるんやから

そないに悪い訳あらへんやろ。親衛隊長こそウチのんに任せてるけど、導師

クレフの名代であちこち出張っとるんやしな」

 「ふうん。別に共稼ぎでもいいんだけど。好きだからいっしょにいたいと

思うんだし…」

 「そらランティスはそないなこと気にもしたことないやろな。細かいとこ

気にするんはあのコに自信がないさかいや」

 「自信…ですか。そういうことは難しいですね」

 海の華燭の典を早く見たいと思う光と風だが、アスコットの様子を見る

限り、まだもう少しかかりそうな気配だった。

 

 

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