HAPPY COME ON ♪

 

 「光は年賀状の用意出来た?」

 「ううん、まだ。この間アスカが来た時に童夢を写しておけば良かったよ」

 「さすがに宵の空の月では年賀状まで気が回りませんものね」

 「今度はお年始ぐらいだっけ?遊びに来るの…」

 「ええ。皇位継承者としてのお勉強が大変なご様子ですわ」

 「童夢は確かにド迫力だけど、葉書サイズに収まらないじゃない」

 「城下町近辺じゃドラゴンって見かけないよ。ランティスとレヴィン放りっぱなしで

捜しにいけないし、連れて来て貰うのも後が困るし…」

 「アスコットんとこのコもあんまりドラゴンっぽいのいないしね」

 やはりネタ探し中の海も思案顔だ。

 「レヴィンに『龍』って書いた凧でも上げさせようかな…」

 「それこそ全景を収めると豆粒のようになるのではありませんか?」

 「…やっぱり?だいいち思いっきり日本語だし」

 三人娘以外で解るのは頻繁に地球の文献に接しているクレフとランティス、フェリオ

ぐらいのものだろう。

 「ってことは、やっぱり私の出番じゃない!」

 「「?」」

 目をしばたかせて顔を見合わせている光と風に海がじれったそうにまくし立てる。

 「もーっ!私の得意技は何!?」

 「お菓子作り…ですか?解りましたわ!ドラゴン型のクッキーを焼くのですね」

 ポンと手を叩いて自信ありげに答えた割にはスカッと空振りだったらしく、海が

眉間を押さえていた。

 「…通貨レート計算…?」

 言うだけ言ってみた光だが、それをどうひねればドラゴンに繋がるかはさっぱり

解らない。

 「レート計算って…、そんなもんキッパリ関係ないでしょが〜っ!」

 「他に思いつかなかったんだよ」

 怒鳴りつけられた光は、ぺしゃんとネコミミを垂らして首を竦めていた。

 「あーもう、私が一番最初に覚えた魔法は何!?」

 「「水の龍!!」」

 やっとそこに辿りついたかと海がため息をついた。

 「まったく…、二人とも幸せボケで記憶力低下してんじゃない?」

 「そんな言い方したら、海ちゃんが幸せじゃないみたいじゃないか」

 『うっ』と一瞬口ごもった海が取り繕うように早口で答えた。

 「そうは言わないわ。でもお店もあるし忙しくやってるから、打てば響く反応で

なきゃね」

 わずかに違和感を覚えたものの、国費で豪華三食昼寝付きの暮らしをしていると

思われては堪らない風も忙しさを主張する。

 「私も国賓の方のおもてなしや視察が頻繁にありますのよ。なかなかフェリツィアさん

たちとゆっくり遊んでさしあげられないぐらいですもの」

 「今は私が一番のんびりしてるかも。ミゼットには週三回お手伝いに行くだけだから。

あとはレヴィンがミゼットに行ってる間にFTO−ψでの定時パトロールが入るぐらい」

 「FTO−ψねぇ…。どうしてあんなに乗り心地悪いのかしら」

 海がげんなりとため息をついた。

 「そう?」

 ケロっと涼しい顔の光を海と風がまじまじと見つめた。

 「適性テストのベイルアウト(強制終了)こそまぬかれましたけど、正直言って

あまり乗り心地のいい物だとは…」

 言葉を濁す風と違い、海はバッサリ袈裟がけに斬る。

 「あまり良くないどころか極悪じゃない。あれに較べりゃセレスは雲の絨毯並よ。

戦ってた時以外は、だけど」

 「あれこそドラゴンでしたわねぇ」

 「今頃どうしてるのかなぁ、モコナたち…」

 「あれだけモコナに酷い目にあっておきながら、よくもまぁ懐かしそうに…」

 「もう終わったことじゃないか。それにあの出来事がなければ今の幸せはなかったよ」

 「そういう考え方もあるけどね」

 「……ですが、年賀状の写真だとか、そういうことの為に魔法を使ってもよろしいので

しょうか…」

 小首を傾げた風に光は目をぱちくりさせていた。

 「だ、だめなのかな?」

 「『いたずらに魔法を用いることは厳に慎まねばならない』…こちらに移ってからの

魔法の講義でクレフさんに教わりませんでしたか?」

 「別に誰かに向けてやろうなんて思わないわよ。手加減無しでっていうか出力調整も

出来ないのにザバーンとやっちゃったら、いたずらにしてもやり過ぎじゃない」

 「海ちゃん…、『徒』と『悪戯』じゃ『いたずら』の意味違うと思うけど…」

 光がテーブルに指で書いた文字をチラ見しつつ海がうそぶいた。

 「似たようなもんじゃない」

 「似てなくはないかもしれないけど…。戒めるといえば…レヴィンのサークレットって、

ブレーカーになってるんだって」

 「ブレーカーって…。あんたんちの息子は電化製品か」

 海は苦笑いを浮かべ、風は意外そうな顔をしていた。

 「お父様のランティスさんとお揃いにしたかっただけではなかったのですか?」

 「それもあるけどね。ランティスのも本当に小さい頃はそう使ってたみたい。生まれ

ながらに桁外れな力がある子は無意識に魔法(まほ)ったりするらしいから。寝ぼけて

稲妻招来はマズいもんね」

 「まぁ…。いけないことをするとお仕置きに絞まる孫悟空の輪のようですわ」

 「うっ、酷いなぁ…。私もちらっとそう思ってたけど」

 「じゃあ悪の大魔王さまも止めようと思えば止められるのね。光、必殺の呪文、

クレフにちゃんと聞いとくのよ。切り札はあるに越したことないんだから」

 「悪の大魔王って…。そういえばランティスのことをそんなふうに呼んでたっけなぁ、

翔兄様」

 「確か光さんが実習でいらしてた幼稚園の園児さんでもいらっしゃいましたわね。

イーグルさんによく似た感じの…」

 「ああ、鷲(シュウ)君?おっきくなったんだろうな。今のレヴィンぐらいだったんだもんね、

あの頃」

 「あー、あのおませなコ。光の胸触るだけ触っといて『扁平胸』とか『絶壁胸』とか…」

 「脱・舌平目だった時の写真、撮っとけば良かったな」

 いつそんな時期があったのよと海が光の肩を叩いた。

 「撮って何に使う気よ。思春期の少年刺激するんゃないの」

 「あははは。…あの時はランティスがヤキモチ焼いちゃって大変だったんだよね」

 「だから対抗しうる切り札が要るんじゃないの」

 「レヴィンのサークレットはランティスが魔法かけてるけど、ランティスのはランティスの

父様か母様がかけたらしいから呪文って言われても解らないよ」

 「じゃあ切り札は『実家に帰らせて戴きます』しかない訳ね」

 「でもレヴィンさんが大泣きするとクレフさんも大層お困りですもの。きっと力になって

下さいますわ」

 「喧嘩なんかしないもん。あ、もう陽が傾いてきてる。年賀状のネタはまた家に帰って

考えようっと。海ちゃん、お茶ごちそうさま」

 

                                       NEXT

 

 

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宵の空の月…地球暦でいう10月のこと

レヴィン…ランティスと光の長男。トヨタ レビンより

お店…城下町にChoix de la mer≪海のチョイス≫というセレクトショップを開いている

フェリツィア…フェリオと風の長女。シュコダ フェリツィアより

ミゼット…地球の幼稚園に相当するもの。光の提唱で開設された。ダイハツ ミゼットより

FTO−ψ(サイ)…エメロード姫消滅に伴い結界がなくなったセフィーロの防空戦力として開発された

           魔法使用可能なFTO。トヨタ SAI(サイ)より

悪の大魔王…ランティスのこと。光以外にはときどきそう思われているらしい。

         (決して某S・B!のR・T氏のことではございません。あしからず)

鷲(シュウ)君…  0 The Fool  〜俺の女に手を出すな〜  のオリジナルゲストキャラ  

          誰かさんの名前の日本語訳(笑)