不倶戴天の・・・
♪ゆりかごのうたをカナリアがうたうよ……
ベビーベッドに取り付けられたメリーが奏でるゆったりした音色に合わせて、
光が小さな声で歌っていた。幼教卒の割に音楽実技はすれすれクリアだった
光なので、時々外れるのがご愛嬌だ。
「よくその唄を歌ってる…。≪かなりあ≫とはなんだ?」
帰宅するなりリビングにもキッチンにもいない妻を探してランティスが寝室を覗いた。
「お帰りなさい♪」
「……ただいま」
喉の奥で少しつかえつつそう言うと、ランティスは小柄な妻を抱き上げてキスを交わす。
「この曲、地球の童謡からサンプリングしてるんだ。カナリアっていうのは地球にいる
鳥さんの一種。中庭にいる鳥さんなら…ピノが近いかな。すっごく綺麗に囀るんだよ」
メリーに向かって無邪気に手を伸ばすレヴィンの身体をとんとんとしながら、光は眠りへと
誘う。
illustrated by メリー:3児の母 さま ランティス一家:ほたてのほ さま
黒い髪に蒼い瞳を受け継いだ息子を見守りつつ、ランティスは心の中でため息をつく。
愛する妻が赤ん坊に掛かり切りになるのは仕方がない。その原因はランティスが作ったの
だし、皆が口を揃えて「お父さん似のりりしい顔立ちだ」と誉めそやす。まだ光のお腹に
いた頃、さんざっぱら彼の手を蹴飛ばし続けた者でも、血を分けた息子は養わねばならない。
・・・何が気に入らないかといえば、今日も着ているベビー服だ。
地球ではありきたりなロンパースなのだが、頭上についたフード部分がことに気に食わない。
ついでにいうとメリーにもぶら下がっているし、おきあがりこぼしもガラガラも、ベビー用品
一式がそのキャラクターグッズで埋め尽くされていた。
昔からセフィーロ特産のフルーツを使った菓子類を考案しては外貨獲得に貢献していた
海だが、親友・風の出産の頃からセフィーロ初のセレクトショップ、Choix de la mer
≪海のチョイス≫を立ち上げてベビー関連も含め手広くやり始めていた。
『やっぱり友達が使ってくれると思ったら、リキが入るもんじゃない?セフィーロの物って
シンプルイズ ベストって感じだけど、可愛いキャラクター物で情操教育もいいかなって…』
そんな蘊蓄はこの際どうでもいい…情操教育をするにしても何故アレなんだと、相手が
男なら胸倉掴んで問い詰めたいところだった。
最近は城下町でも売られていて、目新しさから大ヒットになっていた。次元の彼方へ消えて
せいせいしていたアレの姿をランティスは至る所で見せつけられているのだ。(モドキですが?)
自社製品(爆)ということで、ロンパースやおくるみ、バスタオル、ベビー用枕、etc、etc…。
ご丁寧に洗い替えの分までてんこ盛りで寄越したのだ。
おかげで彼らの専有スペースであれを見なくて済むのはいまや彼の執務室だけとなりつつある。
それすら光がレヴィンを連れて来るとたちまち結界(爆)が破られるのだ。
ものごころがついたら、モドキなんぞに見向きもしない男らしい奴になるようビシバシ鍛えてやる
……と、密かに気の長い野望を抱く新米パパ・ランティスであった。
2012.3.24
web拍手より再掲
続編へ
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不倶戴天の…意味をご存じない場合は辞書でどうぞ。誰に対して感じているかは・・・ヒミツ
ピノ…日産ピノ。スズキからのOEM
Choix
de la mer≪海のチョイス≫…「海」が一般名詞なのは
「自分の名前がそのままなんてこっぱずかしい」から
(といいつつ、ホントはGoogle翻訳が対応しきれなかったからサ┐(  ̄ー ̄)┌
フッ)