welcoming morning   vol.2

 

 「…やだなぁ、そんなに心配しないで。ランティスが居ないからってこっそり城下町のミゼットに遊びに行ったりしないよ?」

 NSXが発進準備を終えて待機中だというのに、ランティスはまだ光を抱きしめたままだ。

 セフィーロ城から光の職場であるミゼットは遠い。もともとセフィーロの子供たちの横の連携を計るべく光の提唱で設立された

ものなので、城下町に開設したせいだ。

 「これもあるんだし…、ちゃんと風ちゃんちにお邪魔して大人しくしてるから」

 風たちのところへの逗留をまだ迷ってはいたものの、そう言って安心させることで光はランティスをオートザムへと送り出そうと

していた。

 

 

 

  「おはようカルディナ。風ちゃんもおはよ」

 広間で待つ二人の許に、ふうふう言いながら光がやってきた。

 「おはようございます。どんな感じですか?」

 「重い…。とにかく重い…。なんていうか…この辺から先、出っ張ってるお腹の皮がちぎれちゃいそうなぐらいに重いよ」

 ジェスチャー交じりに訴えた光をカルディナがふふんと軽くあしらった。

 「何を甘いことゆうとるのん。ウチらなんか二人も抱えとったんやで。どない見積もってもヒカルお嬢さまの中身は一人やろ?」

 「それも含めて聞いてないんだけどね…っていうか、『言わないで』ってランティスにお願いしてある」

 「面倒くさい子ぉやなぁ。判っとるんやったら知っといたほうが便利やないの」

 「産まれるまでのお楽しみ、だよね?風ちゃん」

 「私の場合は自分たちでは判らないのでよかったんですけど、ランティスさんのほうはとっくにご存知なんでしょう?」

 「んー。判ってるんじゃないかな。名前の候補を書くのに、私が読めないようにセフィーロ語じゃない字でメモってるもん。

どっちかに絞って考えてるのかも…」

 「効率の悪い…」

 「だって名前考えたりするの楽しいじゃないか。男の子用、女の子用で二倍楽しめるよ」

 「私の経験から申しますと、結局事前に上げた候補の名前にはなりませんでしたが…」

 「ええっ?そうだったのか!?…カルディナんとこは?」

 「ウチは産まれる前に考えとった中から選んだで。さんざん考えたんやし、使わな勿体ないやん?どれも捨てがとうて

決められへんかったさかいに、男名前を10個、女名前を10個札に書いて裏向けてガーっと混ぜて、ラファーガとふたりで

『いっせぇのぉで!!』で同時にめくっていって、男女が揃ったとこで手ェ打ったわ」

 「・・・とても、斬新な決め方…ですわね」

 「そんなギャンブルみたいなやり方、よくラファーガが承知したね…」

 目を丸くする二人を腰に手を当てたカルディナがひたと見据えた。

 「そやかて考えるだけ考えて決まれへんもん、あとはインスピレーション以外頼るもんあらへんやん。男女まぜこぜの中から

ウチとラファーガが仲良ぅ一つずつ選び取れたら、それが天の配剤や」

 「…なるほど…」

 「それはそうと、お泊りの用意はちゃんとしてきたんかいな?」

 「一応してきたけど…。ちっちゃい子供じゃないんだから一週間ぐらいランティスが居なくても平気だよ?」

 「ですが、もういつ産まれてもおかしくない時期なのでしょう?その光さんを一人残してオートザムに出張ではランティスさんが

ご心配になるのも無理ありませんもの」

 「シュッチョウってなんやのん?」

 「仕事で遠く離れた地に出向くことですわ。いつ帰れるか判らない場合は≪転勤≫とか≪単身赴任≫とかまた別の言い方に

なりますけど…」

 「なんやややこしなぁ」

 「い゛…、こっちの世界に単身赴任なんてあり…?ランティスが長期で行くなら私も行くよ」

 「ミゼットはどうなさるんです?」

 「どっちみち産休だもん」

 地球でなら臨月近くまで働く場合もあるが、セフィーロ城と城下町を飛んで行き来するのは危険過ぎるということで、かなり

早い時期から光は休職していた。

 「サンキュー…?何がありがたいのかよぅ判らんのやけど」

 「そのサンキューじゃなくてね、産前産後休暇の略。出産と育児合わせて、二年間ミゼットの仕事を休めるんだ」

 もともと理事長的な立場で実質面はセフィーロの人々に任せているので、光がいようといまいとそう困りはしないのだ。

 「ええ商売やなぁ。幻惑師や踊り子にそないなもんあらへんで?スタイルはバッチリもどさなあかんし…」

 「フリーランスのお仕事はその辺が大変ですわね。今回は一週間で帰っておいでなんでしょう?」

 「うん、私の誕生日までにはって…。FTO−ψのパイロット候補生の基礎訓練だけなら子供が産まれたの見届けてから

行くつもりだったみたいだけど、最近頻発してるトラブルの対策も詰めてくるって…」

 「そうですか」

 パイロットの生命に関わるような事例こそないものの一時的にとは言え操作不能に陥るような事態が続発していては、

FTO−ψ部隊を統括するランティスとしては看過できないのだろう。

 「アンタらの部屋は離れ小島やさかいなぁ。ランティスが留守しとる間ぐらいフウのとこにおるほうが安心できるんとちゃう?」

 「皆さんをヤキモキさせない為にも、私たちのところでゆっくりしてくださいな」

 「…うん、ありがと、風ちゃん」

 「さて、話も決まったことやし、母親教室の総まとめいこか!」

 「よろしくお願いしま〜す」

 間もなく産まれてくる子を指折り待ちながらも、大学を卒業してもなかなか勉強から逃れられないなと心の中で苦笑いする

光だった。

 

 

 

  「よぉ、来てるな。調子はどうだ?」

 ランティスが不在のために親衛隊の剣術指南や魔物退治にも駆り出されていたフェリオが戻ってきた。

 「お帰りなさーい。お邪魔してます」

 「いつでも歓迎さ。ランティスが留守だし、ヒカル一人じゃ心配だからな」

 「みんなに言われてるよ、信用ないなぁ」

 「そりゃいつものヒカルなら大丈夫だろうけどな。今は赤ん坊が腹ん中に居るんだ。用心するに越したこたないさ」

 「うん」

 「ヒカルしゃん・・・・・しゅいか、まだ?」

 フェリオが帰室したときのドアの音に気づいたのか、特大モコナモドキのぬいぐるみを抱っこしたフェリツィアが眠そうな目を

こすりながらとてとて歩いてきて、光の大きなお腹にそっと耳をあてた。

 「う゛、だからスイカじゃないよう…。ちょっと前まで風ちゃんも大きなおなかしてたのに忘れちゃったのかな?・・・海ちゃんに

お願いして、また甘〜いスイカを東京から持って来て貰おうね。でもるうちゃんはもうおねむの時間だよ?」

 たいていみなセフィーロ名のフェリツィアで呼んでいるのに、光だけは風の父が決めた日本名の『留(るう)』で呼んでいた。

 「誰か呼んでいないと本人が馴染めないじゃないか」ともっともらしいことを言いつつ、その実「風ちゃん、るうちゃん」で韻を

踏んでいて自分が呼びやすいのだった。

 「いつもなら寝てるんだけどな…。よぉしフェリツィア、ベッドまで連れてってやるから、もう寝るんだ」

 「だっこ!!」

 眠くなってくると甘えん坊になるらしい。手を伸ばしてきた娘をフェリオが抱き上げると、フェリツィアはぽかすかと父を叩きだした。

 「こらフェリツィア!駄目だろ?叩いたりしちゃ」

 下の子たちが産まれてからは、特に厳しく風がしつけていたはずだ。

 「やーっ、ちがうのぉ。おひめしゃまがいいの!」

 風に似て聞き分けのよかったフェリツィアだが、下に双子が産まれて寂しく感じているのか、少しだけわがままになっていた。

 「るうちゃんはお姫様だよ…?」

 きょとんとした顔の光の前で、娘の言わんとするところを理解したフェリオが苦笑いしていた。

 「あー…、姫抱っこしろって言ってるんだよ。女の子ってませてるよなぁ」

 フェリオが抱えなおすとフェリツィアがきゃっきゃと喜んでいた。

 「おかあしゃまとおんなじ〜!」

 「あ、こら、余計なこと言うなって」

 「るうちゃんがおませさんなのは、フェリオと風ちゃんがラブラブだからだね。ぷっくくく…」

 こらえきれずに光が笑い出していた。

 

 

 

 

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ミゼット…光の提唱で設立された地球で言う幼稚園のようなもの。ダイハツミゼットより。ミゼットには「ちび」の意がある。

       (発案は「光の進路相談室@セフィーロ」。名称初出は「14days」)

留(るう)…フェリツィアの日本名。『≪留≫で≪るう≫って読めるのか!?』とつっこまれそうですが、読めます!!

       かつて北海道に留多加支庁(るうたかしちょう)という行政区分がありました( ̄ー ̄)ゞ フフッ

 

 

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