つつみこむ 〜includingセフィーロ狂想曲〜 vol.5
§セフィーロ狂想曲§
★王子と招喚士の困惑★ 2
魔法騎士三人娘が東京へ戻った後、当人から聞きだすことを断念した王子と招喚士は手がかりを
求めて導師の部屋を訪れていた。
「蔵書を見たい?それは構いませんが…。王子がそのように勉強熱心だと、雨でも降りそうですね。
そういえば、先日、ランティスも蔵書を見に来てたな…。『調べなおしたいことがある』と言って」
「な、何を、ですか?」
「さて、そこまでは…。小さな子供ではないのですから、知りたいことがあれば自分で調べるでしょう」
導師の言葉に、王子と招喚士が小さく頷きあう。
「それじゃ、蔵書庫に入らせてもらいます」
「ああ、基本的にすべて帯出禁止ですから、そのおつもりで」
「いつ入っても、クラクラするよね。この膨大な本の量…」
導師クレフの蔵書庫は、そのままセフィーロ国立図書館とも呼べる規模のもので、旧セフィーロ城の
崩壊前からのものもクレフの結界で護られここに移されてきていた。
「とにかく、この中にヤツが手にした本があるはずなんだ。それを探そう」
「…どうやって?」
「うーん。鼻の利く魔獣はいないのか?そいつに探させよう」
「こんなところで招喚したら、導師に叱られると思うんだけど?」
「『蔵書整理の手伝いをさせてる』って、言い訳してやるから」
「じゃ、ホントに利くか判らないけど、ブラッドハウンドを呼んでみるよ。魔獣招喚!!」
姿を現したブラッドハウンドの鼻先に、フェリオが念のために用意してきていたランティスからの
書類を差し出した。
「よく来たね、ブラッドハウンド。いいかい?この匂いがする本を探してくるんだ。本に爪を引っ掛けたり、
牙で噛んだりしちゃダメだよ」
グルルルルルと低く唸ると、ブラッドハウンドは獲物の匂いを探し始めた。地球でいう狼のような姿に
血の色の瞳のブラッドハウンドは確かに鼻が利いた。利いたどころではなく、かなり利きすぎていた。
ブラッドハウンドは選び出した本を、次から次へとその特性のひとつの念動力で積み上げていく。
「まるでジャンルがバラバラなんだけどな、この本の山…。『子供のための植物図鑑 セフィーロ編』
…『魔法剣士になりたい人が読む本』?」
「『よくわかるシリーズ 招喚魔法入門』…これ、僕も子供の頃に読んだよ!ホントに良く判るんだよね、
コレ。でも、なんでこんな児童書まで…?」
「――ランティスって五歳ぐらいで導師に弟子入りしたんだったよな、確か」
「そうなの?僕、あまりランティスのことは知らないから」
「まさか、その頃の分まで探し出してるのか?!冗談じゃない、すごい数になるぞ!ブラッドハウンドを
止めろ、アスコット!!」
懐かしさに『よくわかるシリーズ 招喚魔法入門』を読みふけっていたアスコットが王子の要請に即応
できなかった次の瞬間、悲劇は訪れた。
ドサドサドサドサドサドサドサドサドサドサ∞
ハードカバーの文献の数々が、王子と招喚士の上に大きな音と大量の埃とともに降りそそいでいった。
--・-・--作・戦・失・敗--・-・--
――本と静寂を愛するセフィーロ最高位の導師の
怒りのカミナリ≪稲妻招来≫が炸裂したことは言うまでもない――
★赤と黒の邂逅★
その後も魔法騎士たちのセフィーロ訪問のたびに、赤い髪の魔法騎士と黒い髪の魔法剣士の二人きりの
逢瀬は続いていた。残された二人の魔法騎士と放蕩王子と招喚士、そして某国の元・セフィーロ攻略最高
司令官たちはこれといった解決策を見出せないまま悶々とした日々を過ごしていた。
相変わらず結界で閉ざされている魔法剣士の執務室では、男の膝の上に座り、背中を預けるようにもたれ
かかっている赤い髪の少女の姿があった。男は少女を抱きこんだまま、その肩に顔を埋めていた。
「ヒカルもずいぶん上手くなったな」
「そう?」
「教わったばかりの頃の俺より、遥かに上達が早い」
「向こうでもひとりでやってるから、かなぁ?でもひとりのときは、もっと深みに落ち込んじゃうことも多いんだよ。
ホントはそれでちゃんと出来なきゃいけないんだけど。なんかね、内側にばかり入っていっちゃうんだ」
「小さい頃からずっとひとりでやってたんだろう?」
「うん、それも一部ではあるからね。だけど、いまはひとりでするより、こうしてランティスと一緒にするほうが
好きだな。ごめんね、甘えちゃって」
「いや。俺もひとりでするより、ヒカルとするほうがいい。ヒカルがいると暖かい」
「私も、ランティスといると…暖かい」
そうしてまた心地よさそうな笑みを浮かべて、少女は眠りに落ちていった。
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ブラッドハウンド…犬のように鼻の利く、見た目は狼っぽい魔獣。超音速で移動するCurventaブラッドハウンドSSCより(実用化はされてない??)
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