つつみこむ  〜includingセフィーロ狂想曲〜 vol.4

 

 §セフィーロ狂想曲§

 

 ★元・セフィーロ攻略最高司令官の焦燥★ 2

 

 嵐のような睡魔との闘いに辛うじて勝利したものの、イーグルにはまだ答えが見つけられなかった。

 『ヒカルのことは大切に想ってるはずだから、無茶はしないと思うけれど…』

 部屋の外に、数人の気配があることにイーグルが気づいた。

 『どうぞ。起きてますよ』

 「お邪魔致します。お加減はいかがですか?」

 『珍しいお客様ですね。ヒカルならランティスと行っちゃいましたよ』

 「でしょうね。いま、ランティスの部屋に結界が張られてるんですって。光と二人でいるとしか思えないわよ」

 『結界まで張ってるんですか?ホントに何してるんだ、あの二人…』

 「ランティス、ここで何か言わなかったか?」

 『肝心なことは言ってませんよ』

 「何でもいいの。教えてちょうだい!」

 『いや、でもああいうことを可愛らしいお嬢さんがたに教えるのは、ちょっと大人としてどうかな…』

 言葉を濁したイーグルに、海が容赦なく言い放つ。

 「アスコット!なんでもいいからここに魔獣を招喚して!イーグルが洗いざらいしゃべりたくなるようなヤツ!」

 「ええっ?本気で言ってるの!?ウミ」

 いくら愛する海の頼みごとでも、そんなことが導師にばれたら(気配でばれないはずがナイ)どんなカミナリを

落とされるか判ったもんじゃないと、アスコットが逡巡していると、寝たきりで逃げようがないイーグルが

すみやかに白旗を掲げた。

 『うわぁ、待ってください。これでも寝たきりの病人なんですから、手加減してくださいよ』

 「大変申し訳ありませんが、私達の中ではイーグルさんより光さんのほうがプライオリティは遥かに上なんです。

その光さんの危機の前には、何者にも容赦致しませんわ」

 まだ「特定の誰かだけに耳打ちする」話し方をマスターしていなかったイーグルは、不承不承という感じで

話し始めた。

 「…さ、三人で、ですか?」

 「『待っててね』ってことは、ヒカルもそれでいいってコトか…?!」

 「だ、大胆なんだなぁ…、ヒカルって。ウミにそんなこと言われたら、僕、すごく困るな…

 「うっそーっ!イーグルにもやってたって…。それって、ランティスはどっちもオッケーってコト?!」

 『すみません、その恐ろしい発言、撤回してもらえませんか…?』

 「そんなの後回しよっ!こうなったら、クレフに頼んで結界破ってもらいましょ!弟子の不始末は、師匠に

何とかしてもらわなくちゃ…。こうしている間にも、光がなにされてるか判ったもんじゃないわ!」

 ガタンと椅子を倒す勢いで立ち上がった海の腕を、風が掴んだ。

 「お待ちになって、海さん!」

 「何よ、風!躊躇ってる場合じゃないでしょ!?」

 「ですけど、あの方はご自分の願いのために、世界の創造主にさえ剣を突きつけた方なんですよ。

クレフさんが邪魔をしたと知ったら、セフィーロ全体を巻き込む規模の戦いになりかねませんわ」

 「じゃあ、セフィーロ全体のために光ひとりがどうなっても構わないって言うの?!そんなの私、

納得できないわ!」

 「私も納得はできません。でも、もし光さんがそのことを知ってしまわれたら、きっと死ぬよりつらい思いを

なさいますわ。本当に心優しい方ですから…」

 『…これじゃあ、八方ふさがりですね』

 結局魔法騎士たちが東京に帰る夕方まで考えても、その場にいた五人の誰一人として解決策を見出す

ことはできなかった。

 

 

 

 

 

 ★黄昏に集う五人の衝撃★

 

 夕暮れ時の部屋の中、みなが纏まらない考えにぐるぐるしているところに、場違いなほど勢いよく、

バターンとドアが開かれた。

 「海ちゃん、風ちゃん!ホントにここに居たんだ!?ランティス、やっぱりここに居たよ〜!」

 当事者その一の赤い髪の少女が後ろを振り返って、当事者その二の黒髪の青年に叫ぶ。

 「帰る時間なのに、いつまで経っても二人が来ないから、ランティスに気配読んでもらって探してたんだよ。

こんなに大勢の相手して、疲れてない?イーグル」

 『ええ、まぁ、別の意味では、ちょっと疲れたかもしれませんね』

 「…光は、今日も来たときより元気一杯よね…」

 「本当に。目の下のクマもすっかり取れてますわ」

 「そう?ランティスがあれしてくれるからだよ♪ありがとね、ランティス」

 「いや。それより、早く帰らないと、ヒカルは兄たちに叱られるだろう?」

 もっと叱られるようなことやってないかーーーっ!?と、五人が一斉に心の中でツッコミをいれる。

 「あ、あ、あのっ!そんな美肌効果まであるなら、私たちにも教えて欲しいんだけどっ!!」

 「海さん?!」

 「ウ、ウ、ウ、ウミっ?!」

 『…いやぁ、異世界のお嬢さんは度胸が据わってますねぇ…』

 「さすがは伝説の魔法騎士…」

 五人五様の呟きに、ランティスが怪訝な顔をする。

 「俺が教えなくても、王子もアスコットもそれぐらいできるだろう?悪いが、俺は今、ヒカル以外と

する気はない」

 『僕には、したんでしょう?』

 「お前はいま必要ない」

 『…!』(それはそれでなんか傷つく言われようだし・悩)

 「ごめんね、イーグル。ランティスを独り占めしちゃって。海ちゃん、風ちゃん、早く東京に帰ろう。私、

ホントに覚兄様に叱られちゃうよ」

 「どうしても知りたかったら、導師の蔵書でも見せてもらえ。あれは自分で修得するものだからな」

 それだけ言い置くと、二人は誰の返事も待たずに広間へと戻りはじめた。

 「「カ、カミングアウト(でしょうか)!?」」

 『……お二人は、帰らなくていいんですか…?』

 「あーっ、私もパパとママに叱られちゃう!」

 「お姉さまに『ひよこまんじゅう』をお願いされているのに、売店が閉まってしまいますわ」

 残る二人の魔法騎士も赤い三つ編みの魔法騎士の後を追って、イーグルの部屋から駆け出していった。

 

 

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