つつみこむ 〜includingセフィーロ狂想曲〜 vol.2
§セフィーロ狂想曲§
★二人の魔法騎士の驚愕★
受験勉強にくたびれながらセフィーロにやってくるのに、いつも帰りにはすっきりした顔をしている光に、
海と風は不思議そうに尋ねた。
「光っていつも帰りにはすっごく元気よね。向こうで目一杯昼寝してるの?」
到着直後に開く勉強会のあとは、それぞれ自由行動なので動向がさっぱりわからないことも多いのだ。
「うん。だいたいイーグルのお見舞いに行ったあとに、ランティスとお昼寝してるよ」
「セフィーロは意志の国ですから、『お昼寝で疲れを取りたい』と願えば、しっかり回復できるということ
でしょうか?」
「あはは、そんな風に考えたことはないけど。ランティスにあれしてもらうようになってから、すっごくラクに
なったんだ」
「あれ?」
「あれ、って何ですの?」
海と風に訊き返されて、光がはたと答えに詰まる。
「あれ…、あれって、何なんだろう?」
「光っ!?よく判んないでランティスにされるがままになってるの?!」
「う、海さん、何もそこまでおっしゃらなくても…」
そういいながら、何故か風は頬を赤らめている。そんな海や風の反応に全くといっていいほど、光は
無頓着だった。
「最初はいきなり抱きしめられて、すっごく顔が接近したから、キスでもされちゃうのかなと思ってびっくり
したんだけど…」
あっけらかんと笑う光に、海は酸欠状態の魚のように口をパクパクさせている。
「き、き、き、キスーーっ?!さ、されたの?!」
「ううん、してないよ。そうだ!アップで見るとね、ランティスってすっごく睫毛が長かったんだ。知ってた?」
ニコニコとそう尋ねてくる光に、風は困ったように首をかしげて答えた。
「あまりランティスさんのおそばに行く機会がございませんから、よくは存じませんわ」
「そっか、フェリオに叱られちゃうもんね。海ちゃんだって、アスコットが妬いちゃうかな」
「とりあえず、私たちのことはいいのよ。で、結局何をしてるの?!」
「言葉で説明しろと言われたら、ちょっと困っちゃうなぁ。身体がふわふわ浮いちゃう感じで、とっても
気持ちいいんだ。あんまり気持ちがいいから、いつも気がついたら、私、眠っちゃってて…。で、起きたら
心も身体もラクになってるの。最初のうちは上手くいったりいかなかったりで、いろんなやり方してたんだけど、
最近は後ろからしてもらうのが好きかな。すごくリラックスできるんだ。…海ちゃんや風ちゃんは、そういうの
してないの?」
「う、後ろ…?! し、し、してないわよっ!そんなコト!」
「まだ中学生ですし、それはちょっと、あの、問題が…」
海の大声と被って、風の口ごもりがちな言葉は光にはちゃんと聞き取れない。
三人きりで乗っていた東京タワーのエレベータが地上に着くと、光が真っ先に飛び出していく。
「夕飯の時間に遅れちゃいそうだから、私、走ってくよ。じゃあまたね〜!!」
三つ編みを揺らしながら駆けていく光の後姿を、海と風は呆然と見送っていた。
「ランティスが光を好きなのは知ってるけど、光はまだ誰が好きだとも言ってないわよね?」
「ええ、イーグルさんとランティスさんをお好きなようにはお見受けしますけれど、はっきりどちらか
おひとりとは、まだ…」
「それでこの事態は、どう解釈すればいいのかしら…。イーグルが起きないうちにランティスが実力
行使に出た、とか?」
「でも、光さんは嫌がっていらっしゃらないようですから、無理強い…という訳ではないのでは?」
「相手は、あの、光なのよ!?ホントに何されてるんだか、よく判ってないなんてことは…、あああああ、
ありそうで怖い〜っ!」
この状況に海は頭を抱え込み、風は頬に手をあてて、眉根を寄せている。
「どうすればよろしいんでしょう?」
「次に行ったら、確かめましょ!」
「ええっ?そんなコト、私達がランティスさんにお尋ねするんですか?」
「フェリオとアスコットに頼むに決まってるじゃないのっっ!」
「それは、私達が、まずフェリオとアスコットさんに話すのが前提のようですけれど、いくらフェリオにでも、
そんなコトとても…。プレセアさんか、カルディナさんにお願いするのはどうでしょう?」
「カルディナに言ったらラファーガに筒抜けになっちゃうから、話が大事になるわ。それで傷がつくのは
女の子の光のほうよ。それにプレセアに言ったところで、ランティスが警戒するだけじゃない。男同士の
ほうが案外するっと口にするかもしれないでしょ?修学旅行なんかの男子部屋はすごい話してるって、
共学校のコが言ってたし…。フェリオたちには、それとなく言えばいいのよ。いくら私だって、そんな露骨な
ことアスコットに言えないわっ!」
「判りました。次回は勉強会抜きで行動に移りましょう」
「私達が光を護らなきゃね!」
「ええ!」
そうして青い髪の魔法騎士と緑の瞳の魔法騎士はがっちりと両手で握手を交わし、それぞれの家路を
急いだ。
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