The Private Papers of Mercedes Page.3 | ![]() |
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★ 明けの火の月 第二十の日 めでたくオートザム軍に採用されたはいいが、レーザーソードとかいう機械仕掛けの魔法剣は俺には危険すぎる。こんなに簡単に刃が出るなら、 苦労して魔法剣士になる気なんて失くしてしまいそうなシロモノだ。 (これをセフィーロに持ち帰るってのは、ナシなんだろうな、やっぱり…) まずは普通の剣の腕を上げることを考えなければならないと思っていた 矢先、昔、セフィーロで剣闘師をしていたというフーガと知り合った。同郷のよしみということで、フーガは俺に剣の稽古をつけてやると申し出てくれた。
★ 明けの地の月 第十五の日 魔導師なんて頭脳派の生業(なりわい)を目指していた俺には、軍の訓練と 剣術の修練という体力勝負二本立ては正直言ってキツイ。こんな泣き言が 知れたら、シルフィに呆れられるだろうか。 それとも「だから駆け落ちしようって言ったじゃない!」と怒鳴られてしまう だろうか。それにしても、ここで暮らす者が身につけるヘッドセットと言われる機械はどうにもこうにも神経に触る。科学と魔法が相容れないといわれるのが、実感として解るような気がした。コイツのおかげで魔法が使いづらくて 仕方がないので、そっちの修行は当面お預けだ。まぁ、それはこれまで 培ってきたものがあるから、逆に剣術に集中できると言えなくもない。サピィに依頼された魔法の研究はまとまった休みでもとれないと、ちょっと手を つけられないかもしれない。
★ 宵の風の月 第三の日 最近はフーガと打ち合いをしても、三本に一本は取れるようになってきた。 まぁ、そんな程度ではまだまだ魔法剣士の道は遠いが。試しに魔法剣を 構えてはみるが、ひかりの刃は一筋たりとも現れない。過ぎていく時間に、気ばかりが焦る。
★ 明けの星の月 第五の日 今日初めて自分の魔法剣のひかりの刃を見た。フーガも感心はしてくれた ものの、「一戦の間ももたんのでは話にならんがな」と嫌味を言うも忘れて なかった。剣の腕は文句なくいいのだから、あの性格じゃなければ≪柱≫の親衛隊長でもなれただろうに。そうなっていたらいたで、俺は今頃自己流の研鑽でもしてるしかなかったんだろうが。
★ 宵の火の月 第十八の日 気がつけばセフィーロを離れてからもう二年以上が過ぎている。両手剣や レーザーソードでなら、フーガとも対等に渡り合えるようになったが、魔法剣はまだまだだった。もっと確実に使いこなせなければとても≪認承の試練≫になんぞ挑めない。
★ 明けの風の月 第十一の日 契約期間を満了するごとに貰えるという七日間の有給休暇。セフィーロに 帰るほどの時間ではないので、サプリームの祖母殿の出身地に行ってみることにした。オートザムの連中には「あんなくそ寒い、とりわけ環境汚染の 酷いところに有休使って行きたがるなんて、なんて物好きなヤツだ」とまで笑われた。科学でどうにもならなかったから、サプリームの祖母殿は魔法で何とか出来ないかと考えたのだろうが、実際見てみるまでは俺にも何とも いえないので、黙って聞き流すことにした。それにしても、首都でも充分 セフィーロよりばか寒いのに、ここよりまだ寒いとは…。生体シールドを使うと魔法が使いづらくなるから、厚手の外套を忘れないこと!
★ 明けの風の月 第十三の日 寒い…寒すぎる。この寒さはありえない。せっかくの休暇だというのにこんなところに来ちまった俺は、オートザムのやつらに笑われても仕方がない。 セフィーロの過ごしやすい気候がたまらなく懐かしい。 国のお抱え科学者も匙を投げる環境汚染…。サピィは祖母殿の代わりに 自分で何とかしたいと言っていたが、あいつが使える魔法の属性では どうにも思いつけない。むしろあいつに欠けているもののほうが、まだしも 向いているような気がする。そうなるとサプリーム以外に誰かをここまで 連れてこなきゃならないが、そんな物好きな魔導師がセフィーロに居る だろうか…?
★ 宵の星の月 第八の日 魔法剣での刃の形成率は九割。あと一割も不確実だなんて…。シルフィ たちの成年式まではまだ時間があるから、そんなに焦ることはないのかも しれない。ただ最近になって、セフィーロを護る≪柱≫の結界が酷く揺らぐ ときがある。≪世継ぎ≫の教育も出来なかった 導師と違って、まだお若い方のはずなのに…。こんなに離れた場所でそれと判るぐらいなら、国内ではもっと状況が悪くなっているんじゃないかと、不安を拭いきれない。
★ 宵の地の月 第二十三の日 レーザーソードとも魔法剣で渡り合えるようになってきた。これなら次の明けの火の月には、契約を更新せずに帰国することが出来るだろう。サピィの 依頼をもう少し進めてやりたいが、向こうまで行く時間がとれそうにない。
★ 明けの水の月 第三十の日 たいがい口の悪いフーガに、「これ以上お前に剣で教えることはない」とまで言わせた。 「弟子(別に弟子入りした覚えはなかったが)のお前が魔法剣士になれたなら、それはそれで俺も鼻が高い」なんぞと言われたら、なんとも面映い。それにしても、「もし本当になれたらな!」って、一言余計なんだよ、あんたは!
★ 明けの火の月 第七の日 契約満了後に除隊する為の手続きも済ませた。契約を継続するフーガは どうやら転属になるらしい。よりにもよってサピィの祖母殿の出身地に。 「オートザムの連中と一緒に俺を笑っていた報いだ」と言ってやったら、拳が飛んできた。気の短いヤツだ。こちらで使っていた身の回りの物もあらかた貰い手がついた。あとはセフィーロに戻って、≪認承の試練≫を乗り越えるだけだ。
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フーガ…セフィーロで剣闘師だった男。何故かオートザムで傭兵稼業をやっている。日産フーガより 地球との暦の対比は以下のとおり 一月…明けの地の月、二月…宵の地の月 三月…明けの水の月、四月…宵の水の月、五月…明けの火の月、六月…宵の火の月 七月…明けの風の月、八月…宵の風の月、九月…明けの空の月、十月…宵の空の月 十一月…明けの星の月、十二月…宵の星の月 (地水火風空+星)
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