7月 5日 vol.3              

 

 

 Drei Albtraüme (三つの悪夢)

 

 『ちがう・・・ちがう・・・ちがうわ。わたし・・・こんなばしょ、しらない。・・・に・・・かえりたい・・・。

わたしを・・・・・かえして』

 遥か遠くにそびえる黒い瓦屋根の上に金色の魚が跳ねる白い漆喰の建物を臨む場所で、

真っ白なドレスに身を包んだ少し赤みがかった栗色の髪に紅い瞳の優しい顔立ちの少女が、

額に黄色い石を戴く白くてふんわりしたものにそう懇願していた。

 『≪道≫は自身で見つけ出すもの。・・・それが汝に与えられし≪試練≫・・・』

 『なんのために・・・・? だれのために・・・・? ここにあのひとはいない・・・・。かえらなくちゃ

・・あえない・・・・。だけど、あのひとは・・・わたしのものじゃない・・・・。あのひとは・・と・・・・。

しあわせを・・・いのらなきゃ。ふたりの・・・ううん、みんなの。ずっと・・・ずっと? ・・・そんなこと

・・・わたし・・・』

 『・・・汝の望む≪道≫を行くがいい・・・』

 『・・・かえりたい・・・あいたい・・・。だけど、かえれない・・かえりたくない・・・? かえらなくちゃ・・・。

あいたい・・・・でも、あえない・・・。わたしの・・が、そばにいるのに・・・・わたしは・・・いけない・・。

だけど、そばにいたい・・・せめて・・・だけは・・・・・』

 抑え切れなかった想いと、果たさなければならないはずの使命に引き裂かれるように、胸元の

ペンダントの細い鎖がはじけ飛び、少女の姿はかの人の瞳の色を映したような蒼い異世界の

空へと消えていった。

 『・・・ここに置いていく訳にもいかぬな・・・』

 風に流れる涙のような形に護り石を包み込んだペンダントを、白くふわふわとしたそれは

少女の元いた世界へと投げ返した。

 

    

   

 

 

 『・・・違う・・・違う・・・違うよ・・・。ここじゃない・・・。・・・ここには、いないのに・・・』

 ≪モ ウ スコ シ…マッテ…。イマ ハ…、トドカ…ナ イ。ト ビ イシ ガ クル…マデ…≫

 『・・・もう、少し・・・?そうしたら・・・・逢える・・・の・・・か・・?』

 タウンビーの北のはずれにある時計塔のような薄暗い塔内で、光は膝を抱えるようにして、

哀しい夢を見ながら眠り続けていた。光の左の薬指で先々代の≪柱を継げなかった世継ぎ≫の

紅い護り石が、とくんとくんと脈打つように淡い光を放っていた。

 

 

 

 

 

 

 柱の座を争った場所で見たあれを「赤と白の鋼鉄の塔」とイーグルが言ったとき、「違うよ。

東京タワーの色は航空法で定められたインターナショナルオレンジと白なんだ。…って、社会科

見学のとき、私も初めて知ったんだけどね」と光は笑って訂正していた。確かに光の紅い魔神に

比べれば、気持ち黄色みを帯びてはいるが、正直そこまでじっくり眺める余裕なんてありは

しなかった。

 

 『ああ、まただ…』

 

 繰り返し夢に現れる情景・・・東京タワーと光の魔神だけが天然色で、林立するビルも、タワーの

そばにあるはずの僅かな緑も、動かない街も、果てしなく広がる空も、イーグルの視界にはモノ

クロームに映りこむ。

 

 『僕はセフィーロの≪柱≫になると決めたんです』

  ――それだけが、救える道だと信じていたから――

 

 『あなたを倒してセフィーロに帰ります』

  ――女の子を手にかけるなんて主義には反するけど、それしか道がないのなら・・・!――

 

 レーザーソードを構えるFTOに燃え盛る炎の剣を手にした紅い魔神が突っ込んでくる。

 

 『たぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!』

 

 『僕は負ける訳にはいかないんです。オートザムの未来の為に、そして・・・・!』

 

 魔神の炎の剣はFTOの左腕を落としたが、FTOのレーザーソードは魔神の胸のど真ん中の

紅い宝玉を刺し貫いていた。

 

 『・・・ラン、ティス・・・』

 

 事切れる間際の少女の呟きが耳に届く。人を殺めた罪を何の所縁(ゆかり)もないセフィーロの

為に背負ってしまった少女。祖国の為に彼女に剣を向けた余命幾許もないイーグルにさえも、

いっしょに帰ろうと手をさしのべた少女。こんな場所で死ぬはずなんてなかった少女。二度と

帰らない彼女を、遺された家族はどんな想いで待ち続けるのだろう・・・。FTO越しのはずなのに、

気づくとイーグルの両手には鮮紅色の血糊がべったりとこびりついていた。

 

 『ヒカル・・・?ヒカルーーーっ!!』

 

 

  

 

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