6月30日 vol.2              

 

 

  ――オートザム首都艦隊基地。

 イーグル達に先導され、あまり目立たぬようオートザムの服装に身を包んだランティスと光がNSXから降り立つ。首都より

遥か北にあるノマドへ行くランティスは、補佐役として同行するジェオやノマド基地での技術指導に駆り出されたザズとともに、

ここで巡航艦ウイングロードに乗り換えることになっていた。

 非公式とは言え初めてのオートザム訪問、しかも新婚旅行なのにいきなりランティスと別行動を取らざるを得なくなった光は、

申し訳なさそうにランティスを見上げた。

 「ごめんなさい。私が地球でインフルエンザなんか感染ったりしなかったら、一緒に行けたのに…」

 セフィーロでの結婚式に出られない家族に光が嫁ぐ前の挨拶をしに戻ってみれば、およそウイルスの方がイヤがって寄りつき

そうもない三人の兄達が揃って季節外れのインフルエンザで寝込んでいたのだ。さすがに疲れの色を隠せない母の代わりに

泊まり込みで看病してきた光は、しっかり感染ってきてしまっていた。

 普段なら意志の強さ(とランティスの愛?)で治してみせるところだが、何しろセフィーロでまだ二回目の結婚式(一回目は

一年前のフェリオ王子と風)、しかも地球流とあっては、花嫁自らあれこれ指示に動き回らねばならず、休む暇もなかったのだ。

未来の国王妃として日々忙しい風も、親友の結婚式のためなら常であれば陣頭指揮を執ってくれていただろうが、いまは身重の身。

細身なのでゆったりした服装だと目立たないが、もう臨月も近いので、光の方から、「大丈夫!私、学園祭の実行委員とかやるの、

大好きだったから!!」と、訳の解らない理由をつけて手伝いを辞退していた。クレフから超激ニガの薬湯を煎じて貰いなんとか踏み

堪えてきた光の髪を、ランティスが愛おしげにくしゃりと撫でた。

 「俺の方こそノマド行きを強行してすまない。なるべく早く戻るからここでイーグルと待っていてくれ」

 光は俯いてふるふるとランティスの言葉を否定する。

 「クレフのたってのお願いなんでしょう?ランティスがお世話になった方だっていうし、ホントは私もちゃんとご挨拶しなくちゃいけない

のに、病人さんの所にさらに病気持ち込んじゃいけないもんね」

 口から出まかせの出来ない彼のこと。首都に光を置いていく絶好の口実が出来たのには内心助かっていたのだが、酷く落ち込んで

しまっている姿をランティスは複雑な表情で見下ろしていた。放っておくといつまでも離れそうにない二人に小さく溜息をつき、後ろから

光の両肩をやんわりつかみ、ランティスから引きはがすようにしてイーグルが割り込んだ。

 「ヒカルのことは僕が責任持ってエスコートしますから、ランティスはさっさと行って下さい。メルツェーデス氏の状態も不安定なんですし」

 新妻の肩に触れる親友にあからさまにムッとしているランティスに、いたずら心が疼きだしたイーグルが追い討ちをかける。

 「新婚旅行なのに花嫁置き去りにして他所に行く朴念仁なんて、放っておけばいいんです。ランティスと一緒じゃ味わえない、大人の

夜の楽しみ方を、僕がヒカルに教えてあげますよ

 「うにゃっ?!」

 耳元でイーグルの声が聞こえてくすぐったかった光はネコミミが飛び出している。(発言内容を理解してるかどうかはかなり怪しい・笑)

 ランティスに「雷を落とされて」も文句を言えないようなイーグルの問題発言に、意外な方から抗議の声があがった。

 「ずるいよ!イーグルばっかり」

 あんな僻地の基地での技術指導をイーグルが安請け合いしなければ(意向の確認も無く、命令として下されたのでザズには反論する

余地もなく・哀)自分も光のエスコート役になれたかもしれないのに、なんとはなしに司令官の悪意を感じずにはいられない。それでなくとも

ランティス達の結婚式で、「どことなく光の長兄の覚に雰囲気が似てる(ただしイーグルのほうが相当得体が知れないけど、と海と風が口を

揃えて断言したが)」という理由で、祭壇前で待つ花婿ランティスのところまで、花嫁の父の代わりとして光と腕を組み、ヴァージンロードとか

いう赤い絨毯の上を静々と歩くなんておいしい役までやっていたのだ。しかも、「当日まで内緒♪」と光に言われて、ウェディングドレス姿を

試着ですら見ていなかったランティスよりも先にじっくり堪能する、というおまけ付きで。(二人が歩いてくる姿を見遣るランティスが、光のための

結婚式なのだからと、仏頂面にならないよう必死になっていたのもなかなかの見物だった、とは後日のジェオの談)

 「技術指導の件は結婚式のご招待を受ける前から決まっていたでしょう?ザズも式に出られるよう、ノマド基地司令に『日程を1日でいいから

後ろにずらして貰えませんか』と頭を下げてお願いした僕の気持ち、判っていただけないんですか?」

 ほえほえ〜っとした笑顔を微かに曇らせてみせるイーグルに騙されるのは、光ぐらいなもので。

 「ご、ごめんね。私の段取りが悪くて」

 人妻になってもやっぱり可愛い光にオロオロされては、ザズもそれ以上突っ込めない。

 相変わらずドサクサに紛れて光を抱き寄せたままのイーグルに対し、こめかみに怒りマークを浮かべたランティスが「稲妻・・」と呟きはじめた

ところで、ジェオが慌てて首根っこを引っつかむ。

 「おいっ!もう出航時間なんだから、さっさと来い!イーグルもほどほどにしとけよ!」

と悪ふざけのすぎる司令官へ釘を刺すことも忘れてない。

 「気をつけて!」

 襟首をつかんだジェオの手を振りほどき歩き始めたランティス達を、光は手を振って見送った。

 

 

 

 巡航艦ウイングロードの昇降口が閉ざされ発進シークエンスが開始されたのを見届けると、イーグルは光に向き直ってニッコリ笑った。

 「じゃあ僕達も行動開始といきましょう。無粋で申し訳ありませんが、医局に顔出ししていただけませんか?」

 光は慌ててこくこくと頷く。

 「ごめんね。インフルエンザにかかってる私がうろうろしていちゃ、病原菌振り撒いてるようなものだよね」

 「そんなに酷い病気とも思えませんが、検疫に協力して貰えると助かります。何しろ創造主が同じですし、案外ここにもある病気かも

しれませんよ?」

 「それなら少しは気が楽なんだけど…」

  彼等の傍らに止めてあった基地構内にはあるにしてはド派手な…というより地球のランボルギーニ=ディアブロによく似たフォルムの

真っ赤な車の助手席のドアを開けると、光を促した。

  「女の子…、結婚したのに女の子じゃ失礼ですね。女性をこの車の助手席に乗せるのは、ヒカルが初めてですよ」

  さりげなく意味深なことを言ってみたイーグルだが、目の前の車に気を取られていた光にはさっぱり伝わっていない。

  「オートザムにもスーパーカーってあるのか」

  光の勘違いに気づいたイーグルがクスクス笑って答えた。

  「これはレプリカです。随分前に地球の車の本をザズにくれたでしょう?」

  言われてみれば…、柱を巡る争いを終え、セフィーロと三国が定期的な交流を持ちはじめたばかりの頃、確かにそんなことがあった。

なんでも新しい知識を取り入れようとしていたセフィーロに、地球の本をあれこれ持ち込んでいた時期だ。光の兄達の誰かが廃品回収に

出した「世界のスーパーカー名鑑」とかいうフルカラーのカタログ誌を拾ってきたものの、セフィーロ城の人々にはいまひとつ受けなかった。

それでも光の持ってきた物なのでランティスが持ち帰ろうとした時、たまたまそのお茶会に来合わせていたザズに、「一生のお願いだから、

その本俺に譲って!」となかば泣きつかれたのだ。ザズのメカ好きは光もよく知っていたので、「もしランティスがそういうのに興味あるなら

また持ってくるから、それはザズにあげて」という鶴の一声で所有権が移ったのだった。(その後、光が同様の本を持ち込んだかどうかは

定かではない)  パラパラとめくっただけだったうろ覚えの光が感心したように呟く。

 「あの本って、外観の写真ばっかりだったと思うけど、それでも作っちゃったんだね」

 「もちろんエンジンや制御系なんかの中身はオートザム独自の物です。結構いろんな角度からの写真が載っていましたから、立体を

起こすのは簡単だったようですよ」

  再度光を促し、彼女が助手席につくとイーグルは運転席に回り込んだ。

 「これでも戦闘車輌並に色々仕掛けがあるんです。ヒカルが持ってきた映画の『007』でしたっけ?あのシリーズの車にはザズが夢中に

なってましたからね。あの路線で改造した物がこの基地にはたくさんありますよ」

  光は目をぱちくりさせてイーグルの話を聞いている。

  「軍用車輌でそんなに趣味に走っちゃったりしていいの?」

  「まぁこの基地の備品なら僕の裁量の範囲内ですからね。あんまり実用性が怪しい物はいくつかリジェクトしましたが。さて着きましたよ」

  

 車を降りて建物の中へ進んでいくと、すれ違う人がみな敬礼をしてくるので、いちいちイーグルが答礼している。

  「答礼するのも面倒なんで、僕が非番の時には構うなと言ってあるんですが、…身に染みついた習性はなかなか変えられないものですね」

  「首都第一艦隊司令官…だっけ?」

  「いえ首都第二艦隊司令官兼首都基地司令です。もっとも第一艦隊司令官は大統領なので、僕がそちらの司令官代理を務めることも

多いんですが。さすがに大統領自ら出るような事態は起きて欲しくありませんからね」

  些細な言い間違いを指摘するイーグルに、光が苦笑いして答えた。

 「二でも一でも、どっちにしても、お偉いさん見たら知らん顔出来ないんじゃないかなぁ」

  「別にそんなに偉くもない、ただの管理職なんですが。ここですよ、ヒカル」

  「ありがとうイーグル」

  「ヒカルが検査を受けてる間にちょっと雑用を片付けてきます。迎えに来ますからここを離れないで下さい」

  「判った。じゃあ、また後で」

 光を医局の受付に預けると、イーグルは足早に自分のオフィスを目指した。

 

 

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いまさら説明するのもなんですが、オートザム軍関連施設やら、イーグルの階級なんかも適当にやってます(をい)

だって、いつまでもセフィーロ攻略最高司令官という訳にもいきませんし(汗)

イラスト集を見てるとオートザムでは和気藹々とやってた印象が強いので

ランティスはいいようにあしらわれてます(^.^;

・・・おかしい、カッコいいランティスが好きなのに、どんどん離れていく・・・orz

はじめのほうの文章がやたら説明っぽいのは、ここがこのSSの最初の書き始めだったせいです(^.^;

(前にうしろにのびて収拾つかない事態になりつつあり・汗)

 

       

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