6月25日 vol.2             

 

――回想・ランティス幼年時代

 

 想い出すのは、両親を相次いで亡くし兄とともに導師クレフの元に弟子入りしたばかりの頃。いまのランティスと

変わらないぐらい背の高い魔法剣士が、ある日ふらりとクレフの元にやって来た。

 「へぇ、クレフも弟子を持つほど偉くなったのか…。その兄弟子の俺はもっと偉いんだから、遠慮なく何でも訊け。

メルツェーデスだ、よろしくな」

 言うことに尊大な感じもあるものの、妙に人懐こい笑顔でそう名乗った男に、幼い兄弟は礼儀正しく答えた。

 「はじめまして、魔法剣士≪カイル≫=メルツェーデス。僕はザガート。そして弟のランティスです」 

 そう紹介されて、弟は兄を真似てぺこりと頭を下げた。

 「はじめまして、メルチェーデシュ。僕、ランティスといいます」

 人懐こい笑顔のわりには、まだ舌足らずな幼い子供相手にもメルツェーデスは容赦がなかった。

 「違う。メルツェーデスだ」

 「メルチェーデシュ…?」

 「いやそうじゃなくて、メル・ツェー・デ・ス!!」

 「メ、…メルチェーデシュ!」

 むきになって訂正するメルツェーデスに、クレフが「まぁまぁ」とりなす。

 「まだ幼いからちゃんと舌が回らないのですよ。もともと口数の多い子じゃないし」

 一生懸命口の中でもごもごと練習しているものの、「ったッ!」と舌を噛んでしまったらしい姿を見ると、「しょうがねぇ

なぁ」と呟きながらわしゃわしゃとランティスの少しだけ癖のある黒髪をかき回した。

 「あーもう、判った判った。クレフ以外に、お前らにも特別に許してやる。メルでいい、メルで」

 「よろしくお願いします、メル」

 改めて頭を下げるランティスをちらりと見て、ザガートが答える。

 「僕はちゃんと、『メルツェーデス』とお呼びできますが…」

 片膝をついてザガートと目線を合わせると、がしっと頭を引き寄せてランティスには聞こえないよう耳打ちする。

 「まぁ、そう言うな。弟がコンプレックス持たずに済むように、しばらく合わせとけ」

 「…ご配慮、ありがとうございます」

 そうして魔法はクレフから、護身のための一通りの剣術はメルツェーデスから学ぶのが、幼い兄弟の日課ということになった。

 

 

 「メルは魔法剣士なのに、どうして普通の剣も持っているのです?」

 ランティスの背丈ほどもあるツヴァイヘンダー(両手剣)の手入れをしているメルツェーデスに、ザガートが問いかけた。

 「沈黙の森みたいに魔法が使えん場所もある。ま、俺は全開とはいかなくても使えるが…。それに魔法を使わない

敵に対して魔法剣では卑怯だろう?山賊とか盗賊とか」

 「悪人に対しても正義を貫くのですか?」

 苦笑いしているザガートに、「ちっちっちっ」と人さし指を左右に振ってみせる。

 「単に自分の気持ちの問題だ。それに戦いが長引いて魔力を使い果たしたら剣も振るえない、じゃ困るだろうが」

 メルツェーデスと兄の会話を聞いているのかいないのか、刃のない魔法剣の柄を握り締め、ためつすがめつしていた

ランティスがじれったそうに呟く。

 「…どうして刃が出ないんだろう…」

 「ばぁか。魔法剣を使おうなんて、200年早いわ」

 ランティスから魔法剣を取り上げてメルツェーデスが構えると、青白く輝く光の刃が瞬時に現れた。

 「魔法を極めるだけじゃあ駄目。剣技を極めるだけでも駄目だ。どちらもバランスよく極めなきゃ、こいつは扱えない。

だから魔法剣士はいまこのセフィーロに俺一人だ」

 「だったら僕が二人目の魔法剣士になる!」

 意志の強そうな青い瞳に決意を漲らせたランティスに、笑ってメルツェーデスが答える。

 「ははっ。お前はザガートと違って剣技の修練のが好きだもんなぁ。護身用なんて域はとっくに超えてるし、見込み

ありだと思ったら、こいつをくれてやる」

 「ホントに!?約束だからね、メル!」

 

 

 魔法を極めることに熱心なザガートと、魔法剣士を目標に定めたランティスがそれぞれに修練の日々を重ねていた

ある時、別れは唐突にやってきた。

 「見込みがありそうならくれてやる約束だったから、これ、お前にやるわ。お前の瞳も青いから、宝玉もそのままで

使えるだろう」

 両手で捧げ持つように、ランティスはメルツェーデスから魔法剣を受け取ると、真剣な面持ちで一人前の構えをとって

みせるが、やはり光の刃は現れない。真剣な顔を通り越して、しかめっ面になってるランティスに、メルツェーデスが

でこピンを食らわせる。

 「だから200年早いと言うとるだろが…。あくまで『見込みあり』のお試しだ。今度逢うまでに使いこなせてなかったら、

こいつは没収するからな」

 「…今度って、いつ…?」

 せっかく手にした憧れの魔法剣なのに、自分の成長しだいでは取り上げられてしまうことに焦りを隠せないランティス

の心が、メルツェーデスには手に取るように判った。

 「さぁな。ま、明日とは言わん。10年後か100年後か…200年後かもっと先かもしれん」

 にいっと少し意地の悪い笑顔を浮かべて、ランティスの鼻の頭をつっつく。

 「まさか使いこなすまでに500年かかるとは言わんだろうなぁ?魔導師になったあとで剣闘師について剣の修行

始めた俺でも300年はかかってないぞ」

 そこまで言われて、売り言葉に買い言葉状態でランティスが口を滑らせる。

 「200年早いなんて言わせない……150年で絶対使いこなす!」

 師の費やした歳月の半分ほどで魔法剣士になると宣言したランティスの髪を、出逢った日と同じようにメルツェーデスは

ぐしゃぐしゃとかき回した。

 「150年とは大きく出たな。自分で言ったんだから、その言葉を忘れるなよ」

 夢を夢のまま終わらせない、「二人目の魔法剣士になる」と言い出したときの意志の強い瞳で、ランティスがしっかりと頷く。

 「約束する…それで、いったいどこへ行くの?メル」

 「風の向くまま気の向くまま…。旅が俺を呼んでいる」

 答になってない言葉を言い残すと、地球で言うところの栗毛の馬に似た精獣を招喚して飛び乗り「じゃあな」と短く

別れを告げた。それきりメルツェーデスの姿はふっつりとセフィーロから消えてしまい、ランティスの手元には大人になった

今も彼が愛用する魔法剣だけが残された。

 

 

 メルツェーデスが姿を消した後、ランティスはクレフの元で魔法の修練を積む傍ら、城の親衛隊の訓練に加えてもらい

剣の修練を続けることとなった。城の実力者であるところの導師クレフの口利きでやってきた年端もいかない子供に

(しかも本人に可愛げがあるとはお世辞にも言い難い)、周囲からの風当たりが強くない筈がない。どうせ訓練に

ついてこられる訳がないのだからと、体よく厄介払いするために手合わせしたはずの隊の実力者NO.2からNO.5

までが叩きのめされたとあっては、大人の、というより親衛隊の面目丸つぶれである。この辺の遠慮の無さが子供らしい

と言えなくもないが、それを寛容に受け入れられるのは、一部の出来た大人だけだ。柱に支えられ安寧の中に浸りきり、

平和ボケしている感の否めない部下達の体たらくに苦笑を禁じえない親衛隊長は、ランティスの訓練を引き受けることを

承知し、何かと目をかけてくれた。だが彼の目が届かないところでは、ただのいじめとしか思えないシゴキに見舞われる

こともたびたびあった。剣技だけはメルツェーデスにみっちりと仕込まれていたが、体格差もあったので徒手格闘は

ほんの護身術程度にしかまだ教わっていなかった。その弱点を見透かされ、親衛隊長が不在となると決まって、足腰が

立たなくなり意識も途切れてしまうような格闘訓練に引きずり込まれた。

 「…俺が、大きくなったら…覚えてろ…」

 これらが今日の長身と、オートザムのファイター登録テストにパスするだけの格闘戦の実力を培ったとは、当の

ランティスも気づいてはいないのかもしれない。(さらにこの頃頻繁に口の中を切っていた為に、魔法詠唱の修練以外

ほとんど喋らなかったことが、元から少ない口数を加速度的に減らしていったことは、創造主にも判らない……かもしれない)

 

 

 

 ――時は流れて――

 その後、メルツェーデスと約束した150年を遥かに上回るスピードで、ランティスは魔法剣士と認められることとなる。

あれ以来メルツェーデスはセフィーロから姿を消してしまったままなので、結局また「セフィーロ唯一の魔法剣士」と

いうことになってしまった。一番報告したかった相手は、エメロード姫が柱になり、やがてその悲恋の末に消滅し、

その後の柱に選ばれた光が柱制度をなくした後も、ランティスの前に姿を見せることはなかった。

 

 

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09年8月8日に開催された「光ちゃん誕生日記念チャット会」で

「僕」なんていうランティスはありえない!!という話になりました

確かにありえないと思います(^▽^笑)が

あえて言わせてみました(まぁ、五歳から「俺」なんて言われてもねぇ・・)

ついでに舌っ足らずだし

兄のザガート君もまだ「僕」です

長じるにしたがって人称代名詞も性格が反映されていくってことで…

ちなみにメルツェーデスのCVイメージは三木眞一郎氏だったりします

(三木氏がやってたスクラップドプリンセスのシャノン=カスールも黒髪長身キャラ)

 

                                                       

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