6月25日 vol.1             

 

――セフィーロ城の中庭。

 定時の見回りを終えて戻ってきたランティスに、通りかかったフェリオが声をかける。

 「あ、ちょうどいいところに!今日はヒカル居ないんだよな?」

 何故王子が光の不在を気にするのかと思いつつランティスが答えた。

 「兄達の看病で二、三日実家に泊まる予定だと、昨日ウミが伝言してくれた」 

 その海も向こうの仕事が立て込んでるとかで、たまたま広間にいたカルディナに伝言だけ残してとんぼ返りした

らしいので、ランティスにも詳しいことは判らない。

 「居ないなら好都合だ。導師クレフがお前だけで顔出しして欲しいって仰ってた。確かに伝えたぞ」

 城下の視察にでも行くのかそのまま外へ向かうフェリオを見送ると、ランティスは怪訝に思いながらも導師クレフ

の部屋へと向かった。

 

 ――セフィーロ城・クレフの部屋。

 二度ほどドアをノックして部屋の主にランティスが声をかける。

 「導師、居られますか?」

 「ランティスか、入ってくれ」

 声に導かれるまま部屋に入ると、クレフは執務机を離れ壁にしつらえられた棚の前に歩み寄っていた。小さな

木箱を手にして来客用のテーブルセットのあるほうへランティスを誘う。

 「まぁ、そこに座れ」

 「ヒカルに聞かせられない話があるのですか」  

 単刀直入に用件に入るランティスに、クレフが苦笑いを浮かべる。

 「それもあるが…。そういえば結婚指輪とかいうのはもう作ったのか」

 「いえ、それがまだ」

 指輪というものはセフィーロにもあるが、結婚という制度がなかったので当然「結婚指輪」という概念ももともとはなく、

王子達の結婚のときも主に風のイニシアチブで創師プレセアに作ってもらっていた。なかなかランティス達とプレセアの

都合が合わず、挙式まで一週間をきった明日にも作ってもらうはずが、光の不在でいっそうギリギリになりそうだった。

 「それならちょうどいい…といっては何だが、お前達が結婚を決めたと聞いたときに渡してやろうと思ったんだが、

しまいこんでいて見つけられなくてな。よければこの宝玉を使わんか?」

 木箱の蓋を開け、中をランティスのほうに見せる。二つ並んだ光の小指の爪ほどの小さな宝玉は、まるでランティスの

瞳と光の瞳を溶かし込んだような澄んだ蒼い石と紅い石。

 「これは…どちらも魔法石ですね」

 宝玉の力を感じ取ったランティスがクレフに尋ねる。セフィーロの宝玉には魔力を高めるための魔法石とそうでない

ものがあるが、こんなに小さいのに桁外れなほどの強い力が感じられる。

 「そうだ。しかもその二つは対になっていてな。互いに想いあうものが手にすることでよりいっそうその力が強くなる。

ただあまりに力が強すぎて、並のものでは触れることも出来ん。ひと時でもセフィーロの柱であったヒカルと、セフィーロ

で一番強い心の持ち主と創造主≪モコナ≫も認めたお前なら大丈夫だろう」

 いまは異世界に居る光の瞳を思わせる紅い石に魅入られていたランティスが、はっとしたように礼を述べる。

 「ありがとうございます、導師」

 「どちらがどちらの石を持つかは、ヒカルが戻ってから二人で相談するといい」

 異なことを言う導師に、ランティスが不審げに答える。

 「魔法石であれば当然俺が蒼いほう、ヒカルは紅いほうでしょう」

 魔法石は瞳と同じか近い色が一番相性が良いとされている。そうでなければ魔法属性のシンボルカラーを身につける

というのが魔導師としての常識中の常識。ここにある紅い宝玉は光の瞳そのままの色といっていいぐらいだし、彼女は

炎の魔法を授かっているので当然シンボルカラーも紅、相談するまでもない話だ。

 思ったとおりの反応を返すランティスにクレフがくすりと笑い、執務机に戻ってなにやらさらさらと書きはじめた。

 「では、左にある蒼い石がお前、右にある紅い石がヒカルのものだと言うのだな?」

 「当然そうなるでしょう」

 「結婚式の時、祭壇に立つ私のほうから見たときと同じ並びの、左に蒼い石、右に紅い石だ」

 まるで念押しするかのようにそんなことを言いながら、たったいまなにごとか書きつけたばかりの紙片を小さくたたみ、

それを木箱の中に入れるとクレフは蓋を閉じた。

 「ヒカルが戻ったら…そうだな、夜にでも開けてみるといい。夜に、な」

 夜に開けたからといって石の場所が入れ替わるはずもなく(異世界では「テジナ」とかいう見世物でそういう現象が

あるらしいが)、導師がテーブルの脇へと押しやった木箱にランティスはいぶかしげな視線を送った。

 

 「ここまではヒカルが居ても出来た話だが、…本題に入ろう」

 声のトーンが変わった導師の言葉に、ランティスが居住まいを正す。

 「…メルを、覚えているか?」

 「導師の兄弟子、俺が魔法剣士を目指すきっかけを作ったメルツェーデスですね」

 ランティスの頭のてっぺんから足元まで見てクスクスと笑いながらクレフが言葉をつづける。 

 「ザガートともに私の弟子になったばかりでまだ幼かったお前は、何度訂正されても『メルチェーデシュ』としか言え

なかったのに、…ずいぶん大きく育ったものだな」

 

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宝玉(魔法石)に関するくだりは大嘘です(こればっか)

イラスト集なんかみてると、たいてい瞳の色か、髪の色だなぁと思ったもんで

そういうことにしてみました

(それ以外の色は魔法の属性ってことで…)

導師クレフの兄弟子でもある魔法剣士・メルツェーデス

(オリジナルキャラ メルセデスのドイツ語読みです)

                                                                  

 

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