かわいがるのもほどほどに。。。
『……駅ポイント故障により、只今全線の運転を見合わせております。
お疲れ、お急ぎのところ誠に申し訳ございませんが、運転再開までしばらくお待ち
下さい……』
アクアリウムからホームへ行こうとした途端に流れたそんなアナウンスに、覚は
ばつが悪そうに苦笑いした。
「ごめん、帰りが遅くなってしまうな」
「『寄り道してはいけません』って教訓ですわね」
くすくす笑いながら空が答えた。
「…ごめん…」
ふたたび詫びた覚を空が見つめた。
「どうして謝るの?おかしな覚さん。覚さんが来て下さらなくても、私が『寄り道』
したことに変わりはないんですもの。迎えに来ていただけて心強いぐらいですわ」
「でも空は連絡したほうがいいな。お家で心配されるよ」
「ええ」
自宅へ電話を入れる空を気にしつつ、覚は優に『電車がトラブって遅くなる』とだけ
メールを入れた。
ついでに未読メールをチェックすると、光から家族宛の一斉送信で『駅で迷子拾って
しばらく帰れない(*_*)』というメールと、ランティスからの『ヒカルさんは俺が
預かってる。警察は呼ぶな』という、脅迫文の如きメールが届いていた。天然なのか、
いつぞやの意趣返しなのか判らないが、ランティスが一緒ならまあ安心は出来るだろう。
(別件ですでに警察沙汰になっていると、覚が知る由もなく・笑)
「さて、どれだけ待たされるか判らないな。お茶でもするかい?」
「お夕飯が入らなくなりそうですわ」
そうでなくとも、すでに空は胸がいっぱいなのだから。
「運動してらした覚さんのほうが、お腹が空いてらっしゃるんじゃありません?」
「いや、それほどでもないよ」
出来れば余韻をぶち壊しにしたくないのはこちらも同じなのだろう。
「だったら…」 「でしたら…」
期せずして同時に口を開いた二人が、見つめあう。
「何か思いついた?」
「本屋さんでなら、待たされても気にならないかと思ったのだけれど。覚さんは?」
「空が一緒のほうが買いやすいかなと…。妹が好きそうなノートを、そうだな…
二、三冊」
「風さんは私と同じキャンパスノートを愛用してますけど…。光さんなら可愛い
キャラクター物とかお好きかしら?」
「そりゃあ自ら着ぐるみ着てたぐらいだしね。ペンギンの…」
獅堂家に誘われて期間限定のテーマパークに泊りがけで行った時のことを話して
いるのだと気づいた空がくすっと笑う。
「そういえば、あの時は光さんが迷子になってしまわれて、大変でしたわね」
「そんなこともあったよなぁ。今日は光のほうが迷子を拾ったらしいよ」
「あら…。迷子になるほうじゃなくて、お世話する側になるほど、成長されたって
ことですわね。寂しくていらっしゃるのかしら?」
「妹なんていつか離れていくさ。理屈じゃ解ってた筈なんだけどな。僕には他に
守るべき女性(ひと)がいるんだから、安心出来そうな奴に任せるさ」
肩を竦めた覚に空が微笑んだ。
「厳しいテストですこと」
パステルピンクを基調とした駅ビルのファンシーショップは確かに覚一人では
敷居が高かろう。
「大型犬飼っていらっしゃるぐらいですもの、犬はお好きよね…。これはいかが?」
とぼけた顔のビーグル犬をモチーフにしたシリーズを空が勧めた。 (ス又ーピー?)
「……うーん、もっと甘ったるいほど可愛いやつがいいかもしれない」 (Black覚にぃ降臨…)
「じゃあ猫はいかが?」 (キ〒ィちゃん?)
「あれ…。これってこんな毛足の長い猫だったっけ?」
CMキャラにも時折起用される耳に赤いリボンの猫のことは覚でも知っていたらしい。
「こちらは『ペットとして飼ってるペルシャ猫』って設定ですのよ」 (詳しいね、空姉さま)
猫キャラクターが猫を飼うシュールさに覚はいくぶん複雑そうな顔をしていたが、
深く追究することはやめたようだった。
「三種類あるし、これにするよ。包んで貰ってくる」
「はい」
球技大会でチーム・ランティスが総合優勝を収め、ランティス自身が獅堂三兄弟との
勝負にも文句なしの勝利を収めた翌朝。覚が綺麗にラッピングした薄べったいものを
ランティスに差し出した。
「約束通り、交換日記から始めてもらう。光の好きそうなやつ選んでおいたから…」
何気なく二人のほうを眺めていた空が見覚えのあるラッピングにくすくすと笑う。
そんな空の態度を怪訝そうに見つつ、なかば横見しながら封のシールを剥がして中身を
出そうとしたランティスが、手にした物の意外さに慌てたように取り落とすと、そっぽを
向いた覚が小さく舌を出してから言い渡した。
「ちゃんと全部使えよ」
「・・・・・」
むっとはしたものの、少なくともこの三冊を使い切るまでは光のそばにいても文句は
ないのだろうと勝手に解釈しつつ、密かに返礼策を練るランティスだった。
2013.4.27up
2011.5.27upのweb拍手より一部改稿
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