サンタ と  天使  アクマ が 笑う夜

 

 

 「雪降るセフィーロも綺麗だったね。連れてってくれてありがと、ランティス」

 「いや、大したことじゃない・・・」

 光を抱く腕に僅かに力を籠めたランティスが前方をじっと凝視している。その

ランティスに釣られて、光も城のほうを見遣った。

 「あれ…?バルコニーのとこ、誰かいる…?」

 ざわざわと神経を乱すものを追い払おうとして払いきれなかった理由を、ようやく

ランティスは悟った。

 「あれって、イーグルだよね?帰ったんじゃなかったんだー。イーグルぅぅぅぅ!

ただいまぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 ランティスの荒(すさ)む心中など知りもせず、光は無邪気に手を振っている。

にこやかに手を振り返す異国の友を蹴飛ばしかねないすれすれで、エクウスが城の

バルコニーに降り立った。

 「危ないなぁ。チゼータの近衛だったら危険騎乗は懲罰対象と聞きましたよ?」

 「あいにくここはセフィーロだ」

 二人の間の微妙に尖った空気に気づかず、光はにこにことイーグルに言った。

 「帰ったと思ってたのに、逢えてよかった!」

 「ランティスを送るだけで帰るはずだったんですけどね。誰かが急かしたせいで

NSXにはかなり無理をかけましたから、ちょっとエンジンがトラブってしまって…。

緊急補修が済むまで暇だったんで、ヒカルのご機嫌伺いに来たんです。さっそく

着てくれてたんですね。やっぱり可愛いなぁ、そのマント似合ってますよ」

 「ありがとね、イーグル!今日逢えると思ってなかったから、私、何にも用意して

いなくて…」

 「気にしなくていいんですよ」

 だいたいどこの世界に補修中の自艦を放り出してうろつく司令官がいるのだと

ランティスが無言のうちに睨んでいるが、イーグルは素知らぬ顔だ。

 「でも…あ、そうだ!東京で買ってきた美味しいクッキーがあるんだ。お茶して

いかないか?」

 「いいですね!それじゃヒカルの部屋に・・・」

 『お邪魔して』とまでは言わせず、ランティスが肩を組むふりをしてイーグルに

ヘッドロックをかけた。

 「お前に少し話がある。ヒカル、菓子を持って俺の部屋まで来られるな?」

 「うん!すぐに追いかけるよ。またあとでね、イーグル!」

 物語に出てくるお転婆な姫君のように、マントの裾が上がるように少し摘まんで

光が駆けていった。

 「ドレスを着てても走り出しちゃいそうですよね、ヒカルって・・・。ところで、

話って何です?」

 「言わなければ解らないのか?」

 「首をへし折りかねない凄み方をされる覚えはないんですけどね」

 「あんなことをしでかして、その上この仕打ちでか?」

 「あれ?サンタクロース、喜んでくれませんでしたか?ヒカル」

 「・・・・」

 喜んでいたなんてことは口が裂けても言いたくない。

 「それにお茶に誘ってくれたのはヒカルのほうですよ」

 「『贈り物を貰っていながら返せるものがないからせめてお茶でも』という社交

辞令だとは思わないのか…?」

 「ヒカルはそういう社交辞令は口にしない娘でしょう。ああ言ってくれるときは

本心だと思いますが」

 解っているからなお性質(たち)が悪い。それとてあの場にイーグルが居なければ、

ないはずの展開なのだ。

 「せっかくのクリスマスですからね。サンタだけじゃ少しもの足りないでしょう?」

 イーグルをじっと見据える跳ね馬にちらりと視線を送りつつランティスが言った。

 「あれをトナカイにするのはヒカルも気がすすまないようだったが…」

 「橇(そり)を引くにはちょっと大きいですしね。そうじゃなくて、これですよ」

 ばさりとマントを取り払ったイーグルの背中にあるものを、ランティスが眉間に

皺を寄せつつ凝視していた。

 「・・・何をつけてるんだ、お前は・・・」

 「資料で見たことありませんか?天使ですよ。天使の羽根です。クリスマスには

天使もつきもののハズですからね。さぁ、ヒカルが来るまでにお湯ぐらい準備して

おかないと…」

 部屋の主であるランティスを置き去りに、イーグルが軽い足取りで歩き出す。

 「天使・・・だと?絶対違うだろう、お前・・・」

 

 誰かが見れば絵になるほど似合うと絶賛するだろうが、そんなものには騙されは

しない。その輝くような白ささえ、ランティスには禍々しく忌々しく見える。その

純白は間違いだ。むしろ漆黒の翼のほうが、今のイーグルには相応しい。

 その翼、持つ者の名は・・・・・。

 「・・・悪魔・・・」

 「何か言いましたか?」

 くるりと振り返った天使的に優しげな容姿のその男は、あくまでも人懐っこく

まばゆい笑顔を浮かべていたのだった。。。。

 

 

 

                        

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