夏祭り
家族連れでごった返す休日のアミューズメントパークでもなければ、通勤通学ラッシュの
ホームでもないが、ランティスの想像以上にその神社は大勢の人で溢れていた。
取り敢えず携帯で呼んでみるが、15秒程呼び出し音がしたところで留守番サービスに切り
替わってしまったので一旦切って、到着した旨だけメールを入れる。
人垣よりゆうに頭一つ分以上高いランティスは見晴らしがいいが、一番見つけたい少女は
確実に人垣に埋もれてしまう背丈だ。アスコットがそばにいれば見つけやすいかもしれないが、
もし別行動しているとなるとちょっと難しくなるだろう。
連絡が取れるまではとにかく絨毯爆撃とばかりに鳥居を潜った参道沿いの右側にある店から
ランティスは覗き始めていた。
もうそろそろ右側の出店を見尽くすあたりまで来て、これまでと違う人だかりに気づく。
「スゴイ、スゴーイ!!」
「もう入れ物二つ目だよー。お姉ちゃんいくつ獲るのー?」
小さい子供たちの注目を浴びていたのは、癖のある赤毛を結い上げている探し人だった。
「…あと一個…!」
蒼い色のそれに狙いをつけた光の手が釣り針を下ろすのとランティスが後ろから声をかける
のがほぼ同時だった。
「ヒカル…」
「うにゃぁっ!!」
突然降り注いだセラフィムヴォイスに猫耳が飛び出し、これまで死守してきた釣り紙が水に
浸かり蒼いそれを掬いかけたところで敢えなくちぎれ、ぽちゃんと水音が響いた。
「「あーあ……」」
「ダメじゃん、お兄ちゃん! あんなとこで声かけちゃ…」
失敗した光より先に文句をつけてきた子供たちにランティスが詫びた。
「……すまない……」
「いらっしゃい! いきなりランティスの声がしてびっくりしちゃった。えへへ」
てれくさそうに頭上の耳をぽふぽふおさえながら、光が膝に手をついて立ち上がる。
「じゃ、おじさん。この五つ貰っていきまーす」
「あいよ! 兄さんが来てくれて助かったよ。この嬢ちゃんに根こそぎ持ってかれるかと
思ってたんでね」
「あはは。根こそぎはオーバーだよ。その分友達がつぎ込んでたから丁度チャラだもの。
じゃあね」
釣り上げた色鮮やかなヨーヨーを手にランティスと歩き出す。きょろきょろと見渡した光が
ひょろりとしたアスコットの姿を見つけた。
「いたいた! 気がついたらみんなヨーヨー釣りから消えちゃってるんだもん」
「…口の悪いガキどもの『へったくそ!』呼ばわりが痛かったんだよ」
たいていのことをそつなくこなせるタイプのフェリオにしてみれば、たかが夜店の遊びが
上手くいかなかっただけでその評価は面白くないものがある。もう二、三回チャレンジすれば
うまく行きそうにも思うのだが、彼女の前で失敗つづきを曝すのも格好がつかないし、当の風
にも『無駄遣いはいけませんわ』とやんわり止められてしまったのだ。
「あははは。みんなの分とってきたよ。好きな色選んで」
「え? でもせっかく光さんがとっていらしたのに…」
「五つも一人で持ち歩く人いないって…。どうぞ」
「フェリオとアスコットから選ばせて貰えば? ヨーヨーなんて初めてでしょ?」
「んじゃ、遠慮なく! 緑のもらいっと」
「僕、青いのもらうね」
「風ちゃんと海ちゃんもどうぞ」
「ではわたくしは翡翠色のを…」
「瑠璃色もらうわねー」
「じゃあランティスにはこの白いのを…」
「いや、ヒカルが持っているほうがいい。紺地の古風な浴衣によく映える」
「え? そっかな? こういうの、露芝てっせんって言うんだよ。えへへっ」
気恥ずかしげに頬を染めて微笑むその姿は、お子ちゃまから踏み出しつつある徴のようにも
見えて、海と風はそっと視線を交わしていた。
「さてっと、光専属のボディガードも来たことだし、そろそろ別行動してもいいわよね。
ちゃんと家まで送ること!」
海がビシリとランティスを指差す。
「当然だ」
「え、花火一緒に見ないのか??」
おいてけぼりの光が一同を見回す。
「やめてよ、小学生じゃあるまいし…。万一補導されたら『保護者とはぐれた』ってことで
SOS入れるからー。じゃね。行きましょ、アスコット」
「んじゃ俺達も行こうぜ、フウ」
「何をご覧になりたいですか?」
「トウモロコシ焼いてるの美味そうだったよなぁ…。イカ丸ごとのも捨てがたい…」
あれこれ言葉を交わす二人を見送って、光がランティスを見上げた。
「行っちゃったね。ランティスもこういうお祭り初めてなんだっけ。何が見たい?」
「何といわれても…」
さっきは光を探すことばかりに気をとられて、出店そのものは二の次三の次でろくに見ても
いなかった。
「花火までにまだ時間あるから、夜店ひやかしに行こっ!」
からころと小気味良い下駄の音をたててと小走りで駆け出そうとする光の手をランティスが
やんわりと掴む。
「…これだけ人が多いとはぐれるからな…」
「そ、そだね。えへっ」
その大きな手の中指から小指にだけ絡めるようにして手を繋ぐと、二人も祭りの人ごみへと
紛れていった。
2014.9.19
SSindexへ Thx 5th Anniversary
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2014.8.30開催の ツイッター恒例企画
第3回 #深夜の真剣レイアース書描き60分1本勝負 主催 殉(@kanzakijyun)さま に
14:35-15:35で参加させていただきましたが、遅筆のため未完であったものを書き上げました
今回のお題は 獅堂 光(とすてきな仲間達) でした
シチュエーションはパラレル学園モノで、
ランティスを誘って夏祭りに行こうとしているところです
なんとか完成にはこぎつけられたでしょうか
それにしても、9月に夏祭りネタかいっ
・・・・てか、五周年記念が、よそ様のネタに便乗ってどうなの?>私