「演奏旅行のお土産を直接渡したいから、部活の帰りにでも寄って貰って」とやいやい煩い母親に根負けして、学院の

図書館で勉強していたランティスが光をともなって家に戻ってきた。

 ランティスが普段着に着替えるのを、お邪魔するのが二度目になる応接室で待っていた光が壁に飾られたフォトフレームに

気がついた。初めてお邪魔したときは、隠し通路からだし、火掻き棒で殴られかけるし、誘拐犯に間違われるし(間違われたのは

ランティスのほうだが・笑)、のんびりそういう物を見る余裕がなかった。

 最初に目に留まった物には今年のお正月の日付が入っていた。どこか海外らしき場所で家族四人が仲良く写っている。

 「先輩のおうちって、美男美女ばっかり・・・おまけにみんな大きいなぁ」

 ミセス・アンフィニもすらりと背が高いが、ランティスの兄や父と思しき人物はランティスと変わらないぐらい背が高いのだ。

 写真の片隅の日付を追って遡っていくと、中学生ぐらいのランティスはなぜか帽子を被った写真ばかりになっていた。

麻のスーツに中折れ帽かと思えば、ジーンズとTシャツにメジャーリーグの野球帽だったり、デニムの上下にカウボーイハット

だったりと、「帽子のモデルにでもなってたのかな…」と光が小首を傾げるほどだった。

 もう少し遡れば、ベイサイドマリーンランドで海洋博が開かれていたころのランティスに逢えるはずと順に見ていった光の目が

ある写真に釘付けになった。

 「これって……!」

 ガチャリとドアの開く音がして振り返ると、ランティスではなくその母親・キャロルのほうが入ってきたところだった。

 「ヒカルちゃんいらっしゃい!待ってたのよ」

 「こんにちは。あのっ、あのっ・・・この写真は…!」

 「・・・家族写真がどうかしたのかしら?」

 キャロルが不思議そうな顔をして光の指差す写真を見に行った。

 「この淡いバイオレットに黄色いラインのTシャツ着てるのは・・・、ランディ王子ですよね!?」

 淡い紫のTシャツに蒼い瞳、透けるようなプラチナブロンドの少年の写真を指して光が尋ねた。

 「…?王子様だと思ってくれるのはいいけど、名前間違えちゃ駄目よ。あれでランティスはへそ曲げると面倒なんだから」

 「だからランティス先輩じゃなくて、この……。あれ・・・?」

 写りこんだぺんたろうルックの子供たちから見て、その辺りの数枚はベイサイドマリーンランドで撮られた写真に違いないのに、

ランティスの姿が一枚も見当たらない。

 「あら・・・・、あの子ったら話してなかったの?生まれてから…そうねぇ、十三歳ぐらいまでは私似でトウヘッドだったのよ」

 「…トウヘッド?」

 「私は少し色を抜いてるからプラチナブロンドって呼ぶけど、生まれつきのこういう髪色はトウヘッド…麻くず色っていうの。

生まれたときは私譲りのトウヘッドだったのよ、ランティスって」

 「知らなかった・・・」

 「いつか変わるかしらとは思ってたけど…。中学生ぐらいの歳で中途半端な髪色は男の子でもいやだったのかしらね。

色変わりしてる途中はずっと帽子を被ってる写真でしょう? 『写真撮るのなんかイヤだ』って言えなかったみたい…」

 離れて暮らすことの多い一家が顔を揃えるごとに撮りためた写真――それは家族の記録でもあり、なかなか会えない

祖父母らへの現況報告を兼ねたものでもあった。

 母親の血が色濃く出たトウヘッドから父親譲りの黒髪への変化に戸惑いつつも、それを受け入れていくしかない少年の

出した答えが帽子姿で写真に納まることだったのかもしれない。

 「――あれが、そうだったんだ…」

 

 五年の歳月を超えて帰ってきたのは、なにもぺんたろうだけではなかったらしい。

 

 静かに開けられた応接室のドアに光とキャロルが振り返る。

 「あれでもヒカルちゃんの王子さまになれるのかしら…」

 ストーンウォッシュのジーンズにTシャツというラフな姿のランティスにキャロルがくすくす笑っている。

 「あはっ、王子さまって意外と身近にいるのかも…」

 二人の会話に怪訝な顔をしているランティスとすれ違いざま、ばしんと二の腕を叩いてキャロルが言った。

 「お茶の用意してくるわね、ランディ王子」

 五年前も遊園地行きのあともその件は一切話さなかったのにと思ったものの、どうやら光の口から語られたらしいことに

ランティスが気づいた。

 「私があの時の迷子だって気づいてた?」

 「堂浦に遠征した日にちらっとは考えたが、確信したのはぺんたろうに連行されてた時だ」

 「ずるいよ、教えてくれたらよかったのに」

 ほんの少し光がふくれっ面になっている。

 「どうして?」

 「どうしてって…!助けてもらったお礼とか、ちゃんと言いたかったし…」

 「それならあの時もう聞いた」

 「だけど…」

 なおも光は割り切れないといった表情だ。

 「…だから王子じゃないと言ったろう?」

 「冒険小説の主人公じゃなかったかもしれないけど……、途方に暮れてたあの時の私にとっては、間違いなく王子様だったよ」

 「…その実体はただの一般庶民なんだが…」

 男の子っぽく思われがちな光にも少女らしい王子様願望があったんだろうかと、ランティスが小さく苦笑する。なまじ身近に

≪王子様≫が存在するだけに、いささか心中穏やかざるものがあった。

 「私だって別にお姫様じゃないもの。助けてくれた生徒会の副会長さんで…、覚兄様のお友達で…。あの朝、駅で出逢ってから

いろんな姿を見てきたけど、先輩が好きだから、私はここにいるんだよ」

 ほんのり上気した頬とまっすぐに見つめてくる凛とした紅玉の瞳。そしてはっきりと自分の意志を紡ぎ出す、ありのままで

艶やかなくちびる……奪いたくならないほうが嘘だろう。それでもやっと十三歳になって間もない彼女には、どこか不向きなことの

ように思えた。だいたいそれだけで収められるような自制心を、自分の中に見つけられそうにもない。

 

 野に咲く花を手折ってしまうことはたやすいが、もう少し吹く風に揺れる姿でとどめておくのも悪くないだろう。

 

 「…『先輩』…?」

 自分の中の熱を冷ますためにも、ランティスはわざと揚げ足取りを装っていた。

 「んにゃあ…っ、あのっ、えっと…ラ、ランティス!」

 相変わらず見事なネコミミ+ネコしっぽのオプションが飛び出した頭をぽむぽむと撫でていると、二人きりの時間の終わりを告げる

扉が開いた。

 「お待たせ〜。さあ、お茶にしましょう」

 

 

 

 とりあえず、今日のところはここまで。

 二人で過ごす時間は、まだたくさんあるのだから・・・

 

 

 

 Hello, Again 〜MY LITTLE LOVER〜

 

 

   

                     illustrated by ほたてのほ さま

 

                      

                       2011.08.08 光ちゃんお誕生日オメデト☆彡(^_^)∠ PAN!

   

 

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                         このお話の壁紙はさまよりお借りしました 

 

   一部の方々からご指摘のあった すくーるでいず あれこれ伏線回収編(爆)・・・・です

    無事に回収しきれていたでしょうか

    ・・・・・本人にもよく判りません(マテ)

 

         タイトルは MY LITTLE LOVER さんの好きな曲からいただきました

    昔のというか初恋を思い出してるような切ない曲ですけど

    メインタイトルとユニット名がなんとなくこの話にぴったりだなぁ・・・と言うことで ('ー ' *)