風の愛情物語
ただぼんやりと見上げる夜空に瞬く星の中のどこにもその人は居やしない。そうと
知っているのに、強くその人を想う夜は空を仰がずにはいられない。
「……フウ……?」
無造作に束ねた髪をくすぐった風に、そこに居るはずのない人の気配を感じて振り
返る。琥珀色の瞳をどんなに凝らしてみても、柔らかな亜麻色の巻き毛に翡翠色の
少女の姿を見つけることは出来なかった。
「フェリオ……殿下、こんなところでサボってたんですね」
捉えそこねた愛しい気配と、バレてしまった隠れ家に苛立ちが増す。
「だからっ! 殿下呼ばわりすんなって言ってるだろ。堅っ苦しい敬語も無しだ!
タメ口でいいんだって、アスコット」
「…僕が導師に叱られる…」
子供だったとはいえあのザガートにさえタメ口でいたアスコットだ。敬語で話せと
言われて肩がこるのは彼とて同じこと。
「導師は摂政、ランティスとラファーガはまるっきり臣下の立ち位置。俺を独りに
しないでくれ…」
いわば鎖国状態だった昔と違い、対外的に体裁を整えなければならないのも解る。
民の精神的な拠り所であった姉・エメロード亡き今、王族の最後の一人である自分を
中心に据えようという考えも解らなくはない。
頭では理解しているのだが、それらはかつてフェリオが嫌って遠ざけていたものだ。
あの少女たちが命を賭して救ってくれたこの国を投げ出すような真似は出来ない。
だからこの場に踏みとどまっているのだけれど、それは或る意味一人武者修行の旅を
するよりも孤独だった。
「せめて歳の近いお前ぐらい、王子じゃない俺も認めてくれよ」
「しょうがないなぁ……ちゃんと導師を説得してくれたら考えるよ。弟子入りした
ばっかりだからまだ破門されたくないんだ」
「よし、商談成立だ!」
がっちり右手を掴んできたフェリオの右手をアスコットが握り返すと、緑にひかる
捕縛縄のような物がフェリオを獲らまえた。
「じゃ、このまま導師のとこに戻るよ。今日の分の講義が全っ然進んでないって
カンカンだったんだからね」
すたすたと歩き出すアスコットに右手を右手に繋がれた不自然な格好で連行される
フェリオが抗議する。
「ちょ、お前、ダチを売るような奴だったのかよっ!」
「まだ導師の説得前だよね。ご進講が捗らない導師の仕事を押しつけられてる
ランティスの機嫌もかなり最悪なんだ。城内の平和の為にも一旦戻ってもらうよ」
「ちぇっ! なんて奴だ…」
「……もしまた異世界から来てくれるなら、素敵なセフィーロで迎えたいだろ?」
「…おう…」
溢れるほどの光が降り注ぎ、
寄せては返す海辺に、
すがしく吹き抜ける風を感じてほしい。
いつの日にか・・・
2014.10.4
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殉@kanzakijyunさま主催によるツイッター恒例企画、
第4回 深夜の真剣レイアース書描き60分1本勝負に参加させていただきました。
2014.9.21AM8:45-9:45の60分(HPへの編集時間を含まない実質執筆時間)で
例によって例のごとく未完でしたが、なんとかまとめました。
作中フェリオが殿下呼ばわりをいやがってるのは第4回の企画後ぐらいに某母さまが
「王子呼びはなんか違和感あるけど、常春の国の殿下といえば、某つぶれあんまんを
連想していやなのかも…」とお話されてたせいですwww
アニメ版のフェリオは王子と明言された訳じゃないとのご指摘も受けましたが
亡きカリスマ(柱)の身内が担ぎ出されるのはありがちなことということで
王子扱いになってます。エメロード姫ほどの人身御供ではないけれど、
残された民の心の支えになればということで…