ふたたび聞こえ始めた遠くから彼を呼ばわる声に、見つからぬよう祈りつつ。。。。。
・・・そんな都合のいい神様は居ません・・・(笑)
(悪魔≪作者≫なら居るけれど・爆)
「ランティスぅ〜、ランティスったらどこにいるのぉ〜?んもう、あーんなにでっかいのにどうして
見つからないのかしら…」
中庭に戻ってきたプリメーラは、『ひっく…、ひっく…』と誰かがしゃくりあげる声に気づいて
そちらを見やった。
セフィーロではあまり見かけない紅くてふわっふわな髪を三つ編みにした後ろ姿は、忘れもしない
恋敵のトレードマークだった。
「あんなすみっこの木の下でなぁにやってんのかし…ら ・ ・ ・。あああああああっっ!!」
その超音波級の絶叫に、一番見つかりたくない者に見つかってしまったことをランティスは悟った。
「ちょっと!!私のランティスに何やってんのよ!!そこ、どきなさいってばぁ!!!」
プリメーラは光の髪の毛を渾身の力で引っ張り、ランティスの頭を胸に抱きしめていた光を起こしに
かかった。
「いったたたっ、ちょっと待って。プリメーラってば、痛いよ!」
「よくも私のランティスをこんなところで押し倒してくれたわね!?」
『私の…』と連呼するプリメーラに、『お前のものになった覚えはない』と異を唱えたいものの、
光を受け止めた折れた肋骨の痛みは増すばかりで、ランティスは息をつくのがやっとだった。
プリメーラのあまりの剣幕に、ようやく光は自分とランティスがどういう体勢になっているかに気づいて
慌てて飛びのいた。
「わぁ、ごめんなさいっっ!大丈夫か?ランティス…」
ランティスは小さく頷いたが、プリメーラのほうが光の耳元で喚いた。
「怪我人押し倒すだなんて、ほんっとに野蛮なんだから魔法騎士って!!」
その怒りごもっともとばかりに、光はしゅんとしつつ、身体を起こそうとしているランティスを支えていた。
「えっと、その、おおっ、押し倒してた訳じゃないんだけど…っ。あのね、プリメーラ!得意の魔法で
ランティスの怪我を治してあげてほしいんだ」
ランティスを支える光の手をぽかすか叩きながらプリメーラが言い募った。
「わ・た・し・のランティスに気安く触んないでってば!アンタに言われたからやるんじゃないわよ!
わ・た・し・のランティスが怪我で苦しんでるから、わ・た・し・の愛の力で癒してあげるの!!解った!?」
当人の意向などお構いなしで、ことさらに『わ・た・し・の』と強調するプリメーラの甲高い声に、ランティスは
頭痛がぶり返してしかめっ面になっていた。
「フ〜チュラ〜〜♪」
固唾を呑んでちんまりと正座してしている光の目の前で、プリメーラはランティスの周りをくるくると舞い踊った。
キラキラとした星屑のようなものがランティスに降り注ぎ、骨の折れている辺りがポウッと暖かい色に輝いて、
やがてその光はランティスの身体に吸い込まれるように消えていった。
「どう?もう平気でしょ?」
「ああ、すまない…」
不本意な発言は多々あれど、感謝の言葉の一つぐらい口にしない訳にもいかない。
「もう痛くないんだね!?妖精さんってすごいな。あっという間に治しちゃうんだ!」
「当然っ!なんてったって特別に出来が良くってキュートな私ですもの。誰かさんみたいな出来損ないの≪柱≫と
違って、こんなのちょいちょいよ!」
そっくり返らんばかりのプリメーラは光の鼻先にビシッと指を突き付けた。
「プリメーラ!」
「…出来損ないの≪柱≫って、私のことか?」
ランティスの叱声に、戸惑いの色を帯びた光の声が重なった。
「他に誰がいるって思ってんの?≪柱≫はね、このセフィーロを支える為に全ての魔法を自在に操るの!アンタ
みたいに炎属性しか使えない≪柱≫なんて、出来損ないもいいとこじゃない!」
「ヒカルはもう≪柱≫じゃない」
「またそんなことばっかり!だいたい…」
さらに言い募ろうとしていたプリメーラが、不意に鼻をひくひくとさせ、綺麗な眦が吊り上がった。
「うそ、やだ、信じられない…。出来損ないのちっこいのだけじゃ飽き足らず、他の…他の妖精の匂いまでつけたり
して……!なんて浮気者なのっ!?ランティスの…、ランティスのばかああああああ!!」
喚くだけ喚くとプリメーラは中庭から飛び出して行った。
かたや痛恨の一撃とも言える出来損ない扱い、かたやゆえなく浮気者呼ばわりされいたく傷ついた二人は、
呆然とその後ろ姿を見送っていた。
「私のランティスに手を出したのはどいつよ!?出て来なさいっ!」
ここでも勝手な所有格を付けながら、他の妖精の匂いとともに、ティターニアの森にしか居ないスターレットの
気配を感じ取ったプリメーラは殴り込みをかけていた。
「この地に住まうのは、みなお前さんなんぞより古い種族ばかりだ。それなりの敬意を払っても、バチは当たらんぞ」
キンキン声に森の静寂を破られたいにしえの種族の一人がたしなめた。
くんっと鼻をひくつかせたプリメーラは、そんな説教どこ吹く風でその妖精を指さした。
「私のランティスにちょっかいかけたの、アンタでしょう!?」
「ランティス?ありゃあ、≪柱≫にぞっこんだから、お前さんのじゃなかろ?それにあの≪柱≫のほうも、どうやら
まんざらでもなさそうな…」
「うるさい、うるさい、うるさ〜いっ!あのちっこいのなんか、この際後回しよ!ランティスは私のものなの!他の妖精に
手垢付けられたくないんだったら!」
「手垢…」
綺麗好きを自認するスパーキーが不本意そうに呟いた。
「とにかく!私のランティスに金輪際近づかないで!いい?!」
両腰に拳を当て、敢然と言い放ったプリメーラにスパーキーが言い返した。
「そうはいかん。まだやっこさんとの取引は終わっとらんからな。あんなに苦労した上に記憶まで食いっぱぐれたんじゃ、
踏んだり蹴ったりだ」
「記憶を食いっぱぐれるって…!アンタ、≪想い出食らいのスパーキー≫!?」
「おや、ワシはそんなに有名だったかね」
プリメーラはふるふると拳を握り締め、スパーキーを睨みつけた。
「ランティスが記憶喪失になったのって、アンタのせいだったの!?」
「だからまだ食っとらんと言うとるだろが。あの場に居て見てたがね、ありゃあやっこさんが魔物退治の最中にとちった
だけじゃねえか。怪我をしたタント≪たぬき≫の親子に気を取られたりするからさ」
「タ、タント?あぁもう、そんなもの放っておけばいいのに、私のランティスってば優し過ぎるんだからぁ!」
むかぁしむかし、タントもどき(注:光のこと)をランティスがいたく可愛がっていたことなど、プリメーラが知る由もなかった。
「ともかく。他人の取引に口を出すのは止めて貰おうじゃないか。え?名乗りもしない無礼な娘っこが」
「私はエレル≪精霊≫の森のプリメーラよ!名乗ったんだから、何の取引だか教えてちょうだい!」
相変わらず高飛車なプリメーラにスパーキーも辟易していた。
「エレルの森の長老はどういう教育をしとるんだ…。お前さんに話すことなんざありゃせん。とっとと帰れ!」
「話は終わってないわ!」
「その無礼極まりない態度への仕置きに、羽根でももいでやろうかね。生えそろうまでに朔の月(新月)を十は数える
だろうよ」
いつの間に姿を現したのか、いにしえの種族の忠実なしもべといわれるビッグ・サムがプリメーラの羽根を大きな手で
器用に掴んでいた。飛べないことも苦痛だが、生え変わりでもないのに羽根を毟られるだなんて、拷問以外の何物でも
なかった。
「わ、わ、わ、解ったわよ。帰ればいいんでしょう!?でも、私のランティスにあんまり酷いことしないでよね!」
反省してるんだかしていないんだか、相変わらず勝手な所有格をくっつけつつ、プリメーラはそそくさとティターニアの森から
逃げ出していった。
「やれやれ…。あのちびの≪柱≫といい、無礼な妖精っこといい、女難の相でも出てるのかねぇ、やっこさん……」
セフィーロ城では珍しく派手なくしゃみをしたランティスに、光が心配そうに寄り添っていた。
…… 一で褒められ、二で貶(けな)され、三で惚れられ、四で風邪引き ……
(くしゃみの回数にまつわる話。地方で差異はあるかと思われます)
で、何回くしゃみしたの?>ランちゃん(笑)
2010.11.5
(2010.9.19UPのweb拍手作品を一部改稿)
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ビッグ・サム…ティターニアの森に住むいにしえの種族のしもべ。地球のシロクマに似ている。日産の大型トラックより。