彼が◎になった理由(わけ)
その時ランティスは搾りだすようにしてようやっとつぶやいた。
「…これで…か…」
『子供が生まれたら一度はやってみたかったんだよね、親子でペアルック!
今度やってもいいかな?』
『ぺあるっく…?』
相当するセフィーロ語がなかったのか、ランティスが問い返した。
『んーと、制服とは違うんだけど、お揃いの服を着ることだよ』
お揃いの服……以前見せられた獅堂流剣道場の練習風景でみな同じような服装を
していたなと、ランティスは自分なりにその言葉を解釈していた。
だから愛妻・光がにこにことそう答えた時、深く考えることなくランティスは
頷いていた。
無愛想威圧系のランティスにそっくりだと言われている割りに、息子レヴィンへの
皆の評価は『かわいい』というものだったので、光とお揃いの格好でいるのも悪くは
ないだろうと思っていた。
そう、ランティスの中でのペアルックの対象はあくまで光とレヴィンの二人だけの
はずだった…。
「見てみて! ペアルックのやつ、Choix de la merから届いたんだ!!」
光が箱から取り出したものを並べ始めたとき、ランティスは香茶のカップを
手にしたまま凍りついていた。
「プレセアがデザイン決めたのを、海ちゃんのお店で作ってるんだって!
かわいいよねー」
「………」
どうしてソレなのかと聞くより以前にもっと問題になることがあった。大小
二つのそれを嬉々として光がソファーに並べているのだが、何をどう考えても
サイズがおかしかった。
「…レヴィンには大きすぎるだろう…」
小さいほうを指さし、ようようそうランティスが指摘する。
「そりゃそうだよ。こっちはわたし用なんだもの! こっちがランティスの分!
ランティス、背が高いから特注だったんだよ」
「……ケンドウギではないのか……」
目に映るそれを承服し難いランティスの口からはそんな言葉が零れ出た。
「それも考えてたんだけどね…」
候補には上がっていたとなると、ますます以て口惜しい。
「この間うちの実家に顔出しした海ちゃんにも訊いてみて貰ったんだけど、
ランティス背が高いから別誂えで日数かかるらしくって諦めたんだ。それにこれ
だったらレヴィンの分はロンパースがあるから経済的だし。ね、やりくりもちゃんと
考えてるよ?」
良妻たらんと努力しているのかもしれないが、そんなに汲々とせねばならない
ような俸給ではない。
「どうせ誂えるなら、大人用二着のこれより俺用とレヴィン用のケンドウギを
作ったほうが良かったんじゃないか?」
諦めきれないランティスがそう訊ねると、光が肩を竦めた。
「たっちもまだの赤ちゃん用剣道着なんて無いよ。一からデザインするなんて
器用なこと出来ないし。ランティスって、そんなに剣道に興味あったっけ……?」
剣道への興味の有無というよりコレに対する拒絶反応なのだが、委細を確認
しないまま頷いてしまった非は自分に有ることを認めざるを得ず、重い口が
ますます重くなって言葉として出てこなかった。
「ランティスがお昼にゆっくりしてることって滅多にないし、ちょうどいいから
これに着替えて! レヴィンにロンパース着せたら、私もすぐ着替えるよ。中庭で
写真撮ろう♪」
「…中庭…。これを着て外に出るのか…」
「だって家の中だとなんか生活感出ちゃうし、せっかくのペアルックだもん。
街までは無理でも、ちょっとお出かけしたいな」
この状況下で街か中庭かの二択を迫られたら、誰でも城の中庭を選ぶだろう。
城の中のことならばランティスにはまだ打つ手があった…。
言われるままに着替え、レヴィンを抱いたまま楽しげに歩く光を追う。中庭まで
ならばランティスが城内に仕掛けて置いた秘密の抜け道で人目を気にすることなく
辿り着くことは出来る。問題なのはその後だ。
光が三脚付きのデジカメをセットする間、ランティスはレヴィンを抱いて待って
いた。
「やっぱりすごいよね。ランティスがいつもと違う格好してるのに、レヴィン
泣かないしー」
主に式典用の白い服を着ても泣かれるが、オートザムやファーレンなどに出向いて
しばらく留守をしても泣かれてしまうのだから、ランティスとしては返す言葉もない。
「ランティスに抱っこされててもレヴィンのご機嫌がいいうちに、私ひとりの分
先に撮るね」
光は胸の宝玉に手を触れると、東京で使い慣れていた竹刀を取り出した。
「この格好にそれか…?」
「えへっ、私らしいでしょ?」
それならやっぱりいっそ剣道着にしておいてくれれば良かったのにと思いつつ、
ランティスはシャッターを切った。
ランティスが撮った写真を確認した光が今度はセルフタイマーをかける。
「ランティスとレヴィンもここに座って! はい、チーズ!」
三人仲良く収まった写真の出来をチェックした光はレヴィンを抱き上げると、
ランティスに危険球を投げつけた。
「次はランティス一人の撮るからね」
「…これで…か…」
親バカと言われようが着ているモチーフに難はあれどレヴィンは可愛いし、
光も違和感なく可愛い。だから親子で撮るのは《家族サービス》とやらに当たるの
だろうが、この格好をしている自分一人を撮らねばならない理由がどう考えても
解らない。
どう言えば光の機嫌を損ねずに諦めて貰えるだろうかと考え巡らすランティスの
右腕に、淡い若草色の一羽の小鳥が舞い降りた。
ランティスを見上げピルルルと囀る小鳥に『お前からも何とか言ってくれ…』と
視線を落とした時、カシャリとシャッターを切る音がした。
「やった! いいの撮れたよ! レヴィンおねむみたいだしそろそろ帰ろっか」
精神的な疲労感を隠し、ともあれ苦行は終わったのだしと眠りに落ちつつある
息子を抱きとったランティスと光は部屋へと戻っていった。
オートザムへ数日出向いていたランティスは、かの地の環境改善動向について
導師クレフに口頭で報告をあげていた。
「ご苦労だったな。またレヴィンに泣かれるだろうが、今日明日はゆっくり
休むといい」
「…そうします」
ちくりと一言多い師に引っかかりつつ、ランティスはそう答えた。
「そう言えば…先月の午後どういう訳か中庭に入れないことがあったのだが…」
「……」
中庭に降りた後、ランティスは人払いの為に結界を張り巡らせていた。間の
悪いことにその時クレフとプレセアが中庭のほうに降りてきていたことにも
気づいていた。
導師クレフであれば、ランティスの結界を破ることは出来る。ただ、周辺被害が
相当なものになることから、城の営繕担当の魔導師たちから『火急の用がない限り、
それはご遠慮願います』と以前に釘を刺されていたのだ。
所用を思い出したとプレセアに告げて引き返すクレフに安堵していたのだが、
何故今頃になってその話を持ち出されるのかとランティスは僅かに眉根を寄せた。
「ヒカルが《缶バッジ》とやらいうものを持ってきた」
机の引き出しから取り出した丸く平べったいものを三個、クレフがランティスの
ほうへむけて並べた。
竹刀を手にニッコリ笑う光と、親子三人で揃いの格好をしているのと……腕に
とまる小鳥に不機嫌すれすれの無愛想な自分……。
人払いをした意味がまるっきり無かった脱力感に打ちひしがれる愛弟子の肩を、
クレフが導師の杖でポンと叩いた。
「まぁこれも《家族サービス》とかいうやつだ。精進するのだな」
ニコリと笑う師にいつか意趣返しできる日は来るのだろうかとあえかな野望を
抱きつつ、ランティスは家路へとつくのだった。。。
2015.5.17 up
☆.。.:*・°☆.。.:*・°☆.。.:*・°☆.。.:*・°☆.。.:*・°☆.。.:*・°☆.。.:*・°☆
レヴィン…ランティスと光の間に生まれた第一子。トヨタレビンより
Choix de la mer≪海のチョイス≫…海がセフィーロで立ち上げたセレクトショップ
最近出てくるグッズが多くて嬉しい悲鳴あげてます
スイングの方はかっこよくて
「やったー! ランティスキタ━━━(≧∀≦)ノ━━━ !!!!! 」って
感じだったんですが・・・
缶バッジを見たときは、可愛いやら、おいたわしい(とまで言う?)やらで・・・
それ言い出したらザガエメまでこれかいっ!という思いもありつつ、
この二人や導師さまは1期のEDのちびキャラみてたせいか、そこまでの違和感が
なかったというか
なぜランティスがこんな着ぐるみを着る羽目になったのか
というお話でした
・・・・・かっこいいランティスのネタ降臨してくれぃ・・・・