HI ME  GO TO

 

 

 「ぁ、そこいい、もっと…」

 詰めていた息を零したつややかなくちびるにねだられるまま、もう少しだけ

力をこめる。

 「…っ…く…」

 「痛かったか?」

 「…ううん…、もっと強くても…いいよ…」

 「こう?」

 「んっ…。すごく気持ちいい…」

 うっとりとした表情で光は吐息混じりに声をもらす。

 いっそこのまま落とせるところまで落としてみたい気持ちを抑えつつ、ランティスは

魔法で執務室の扉を開け放った。

 「うわっ、いきなり何するの!? 子供には刺激が強すぎるからどうしようって

遠慮してたのに、なんで開けるのよ、このスットコドッコイ!」

 扉の前でランティスと光の愛娘・薫(かおる)=メイフェアの目と耳を抑え込んで

泡食っているのは海だ。

 「…ヒカル…。『すっとこどっこい』とはどういう意味だ?」

 近い言葉がセフィーロには無かったのだろう。海の台詞の意味不明な部分をランティスが

光に問い質す。

 「へっ? 『スットコドッコイ』? えーっとぉ…」

 ニュアンスとしては解るのだが、それを言葉にして、しかもこの状況下のランティスに

説明するのは難しい。

 「カタモミというものは子供に刺激の強い行いなのか…?」

 力加減を間違うと時折光が痛がっていたのは確かなのだが、それを子供が見るのは

キョウイクジョウ(教育上なんて言葉も過去のセフィーロには縁が無かった…)芳しくない

ことなのだろうかとランティスが眉間に皺を刻む。

 「みーたぁん、おめめみぃなぁい」

 目を塞がれたままのメイフェアがもぞもぞと暴れ出す。

 「え? ああ、ゴメンね、メイフェア」

 「わ、モコモコ可愛いくしてもらったねぇ! 海ちゃんに任せて正解だ。ね? ランティス」

 「………」

 実家への毎年恒例の年賀状の準備のために、当初は光自身が悪戦苦闘していた。だが得意では

ない針仕事で頭痛になるほど肩凝りを酷くし、白く仕上げるはずのそれに指先を刺した血の跡が

点々と残るのを見兼ねた海が『メイフェアをChoix de la mer≪海のチョイス≫のモデルに貸し

なさい! ギャラ代わりにロハでそれっぽくコーディネートしてあげるから!!』と光の返事も

聞かずに娘を掻っ攫っていったのだ。

 城下の見回りで少し遅くなった昼食を届けにきた光が事の成りゆきを話すと、あまりに固く

強張ったその肩に驚き、『肩揉み』をしてみていたのだった。

 「レヴィンも一緒にやればよかったのに…さっさと逃げちゃうんだもの。反抗期なのかな?」

 「………」

 反抗期と呼ぶには、普段の聞き分けは申し分ない。むしろメイフェアとおそろいでこの格好を

させようという光の言い分にこそ無理があるとランティスは思った。

 「メイフェア、お帰り!」

 地球の牧童のようなラフな格好のレヴィンがひょっこり執務室に顔を出す。

 「にいしゃまー!」

 とたとたと駆け出すと大好きな兄に抱きつき、高い高いをしてもらってきゃーっと

笑っている。

 「メェメェヒツジ、一丁上がりっ!」

 「メェメェちがうー。メイフェアだよー」

 「その白いモコモコ着てるときは『メェメェ』って言うほうが正しいんだよ、メイフェア」

 真面目な顔で妹を諭すレヴィンにランティスが眉間を押さえていた。

 「亨(とおる)=レヴィン…」

 父にお説教モードのフルネームで呼ばれても、今回ばかりはレヴィンも折れない。

 「父上だって、僕にこの格好は無理だと思うでしょう? やっていいのはメイフェア

だけだって…」

 「……」

 「悪くないと思うんだけどなぁ…」

 

 家庭内争議に発展しかねない怪し気な雲行きに海がそそくさと暇を告げてランティスの

執務室をあとにする。

 「光はまだやれると思うのよ、あれ。もうちょい光似だったら悪くないと思うんだけどねぇ、

レヴィンも…」

 レヴィンが聞いていたら稲妻招来を落としかねない海の呟きは執務室には届かなかった。

 

 

 

 緑豊かな草原を背景にした一家の写真を使った年賀状を炬燵にあたる家族で覗き込む。

 「ふーん、今年はシンプルに普通の年賀状で来たんだな…」

 覚が手にしたそれを翔がそう評した。

 年によって動画のDVDを寄越したりするのだが、居間に会する一同の義弟は例年の

如くに愛想が無い。

 「さすがにもう亨にやらせるのは諦めたかな、光」

 「あら、牧童風の格好をしてくれるだけいいと思いますわ。だって、今年のランティスさん

コスプレ拒否の様相ですもの」

 義姉の指摘の通り、正装ではあるが、妻と子供ふたりの出で立ちとはいささかの……いや、

かなりの乖離があると言わざるを得ない。

 モコモコとした羊をイメージした服装の光と薫を挟んで両サイドにランティスと亨が立って

いる写真を見ながら覚はトントンと指先でつついた。

 

 「困っているなら、自分で説得しないとね」

 娘が産まれてからというもの可愛く着飾らせたい熱が暴走し、微妙にコスプレづいている妹を

扱いかねているのだろうなと覚が微笑った。

 

 

 

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                              あけおめ、ことよろ

☆.。.:*・°☆.。.:*・°☆.。.:*・°☆.。.:*・°☆.。.:*・°☆.。.:*・°☆.。.:*・°☆.。.:*・°☆

          このお話の壁紙は  さまよりお借りしました

 

ひさびさに壁紙つきの更新ですが

いろいろとりこんでいるので、当面更新してもEvernote公開になるかと思います

本年もどうぞヨロシク ぺこ <(_ _)>