Å・RÅ・SHÎを呼ぶ男
「なんだか曇ってるけど、もうちょっともつかなぁ。レヴィンはランティスが見て
くれてるし、せっかく一人で城下町に来たんだから少しお買い物していこうっと」
ミゼットでの用事を片付けた光は賑わう市の人波へと紛れていった。
「……どうして昼寝しない……」
すぐにお昼寝どころか、さっきから息子の視線にあるものを感じているランティスが
ほとほと困り果てたように唸った。
踊り疲れて寝入るどころか、「あーしー、あーしー」と腕を振りまわしながらやたらと
こちらを見ている気がするのは、ランティスの深読みではないはずだ。
曲が賑やか過ぎて眠れないのだろうと一度は切ったものの、泣き出しそうな感情の波を
察知して、慌てて光が操作していた手順を思い出してかけ直したのだった。
またかけてはみたものの、電池残量のインジケータはそろそろレッドゾーン。間もなく
動かなくなってしまうだろう。
実はレヴィンが本気で泣き出すとかなり困った事態になる。一度はセフィーロの柱の座に
ついた光の血なのか、魔導師にも匹敵する魔法力をそなえたランティスの血なのか、生まれ
持った魔法力がかなり高く、それこそ城中どころかかなり広範囲に、無差別に『声』で
泣き声が響き渡ってしまうのだった。
これが夜も遅い時間であれば他への影響も考慮しない訳にもいかず結界を張って閉じこもる
ことを選択するのだが、息子一人に父として相対することが出来ないのではどこか情けない
という想いもある。
バッテリーが尽きたのか、ふっと賑やかな音が途切れた。
「あー…。たーた。あーしー…」
光に言わせればどうやらこの「たーた」というのは、チゼータの妹姫ではなくランティスの
ことを指しているらしい。確かに数えるほども顔を合わせていない他国の姫の名を覚える訳も
無いだろうが。レヴィンが言葉を覚える為になるべく話しかけるようにも言われているので、
きちんと声にして話しかける。
「もうバッテリーが切れたんだ」
大きな手で父親譲りのわずかに癖のある黒髪を撫でる。
「たーた、あーしー」
二度目の手刀を食らわないよう、振りまわす腕を避けてランティスが言い聞かせる。
「これはまた今度な、レヴィン」
むずがる気配にランティスは立ち上がって息子を抱きかかえた。
「ほら、高いだろう?」
198センチもあるランティスがさらに腕を伸ばしているのだから、光が抱っこするよりも
三倍近く高い位置になる。これが光の実家のような日本家屋暮らしなら、天井に頭をぶつける
ところだろう。(多分それ以前にランティスが鴨居に『顔』をぶつけること請け合いだが…)
あまりに普段より高すぎて、却ってレヴィンの身体が強張っていた。
そろりと高さを落とし、あまり機嫌が良いとはいえないレヴィンを左腕に座らせるような
格好で抱いて窓の外を見遣る。もう間もなく雨が降り出しそうな鈍色(にびいろ)の空に、
ランティスはふとあることを思いついた。
「A・RA・SHIはともに出来ないが…、これだけ曇っているなら嵐を呼ぶことは出来るかも
しれないな…」
「あーしー、あーしー」
何とはなしにレヴィンのねだる気配を感じ、ランティスは小さく呟いた。
「稲妻招来…!」
声の小ささなど係わりなく窓の外にピシャッっと空を切り裂くほどの稲光が走る。産まれた日が
雷鳴轟く日だったからなのかどうか、怯えることもなくレヴィンはキャッキャと喜んでいる。
城を揺るがすほど響き渡った雷鳴に刺激された厚い雲から雨粒がぽつりぽつり落ちたかと思うと、
たちまちザーッと滝のように降り始めた。
「……。なー…、なー!」
レヴィンが何やら窓の外を指すしぐさをしたかと思うと、ピシッと小さな稲妻が走った。
「……!」
ランティスが目を瞠ったのと同時に、導師クレフの叱責の『声』が響いた。
《ええい、必要のない時に魔法を使うな! お前たち!!》
『お前たち』……そう、一つ目の稲妻は確かにランティスのやったことだが、それに続いて
いたのはそれ以外の者の技だ。
「…レヴィン、お前か…」
「なー、なー」
さっきよりも大きい稲妻が夕空に閃いた。
《まだ意思の疎通も覚束ない赤子に魔法を教える馬鹿が何処におるか。
ああ、そこに居たんだったな。お前の息子のことだ。責任持ってなんとかしろ。
まったく、この大馬鹿もんが…》
教えたつもりなど毛頭ないが、現にマスターしてしまった以上、ひとまずは封じねば
なるまい。ランティスは金色のサークレットを右手で外すと、なにやら現代セフィーロ語とは
違う呪文を唱えそのサークレットをレヴィンの頭に被せた。大人が被っていたものを幼子に
被せてもだぶつきそうなものだが、それはしゅるんと縮まりレヴィンの頭に合う大きさに姿を
変えていた。
「なー、なー」
外を指さしたレヴィンがまた何か唱えたようだが、封印は上手く働いたようだった。
「もう、ずぶ濡れになっちゃったよ」
外から戻ってきた光は頭から足の先までずぶ濡れだ。
「……すまない」
「ほえ? あー! あれ、ランティスがやってたんだ…」
「…と、レヴィンがな…」
「ええっ!? まだ『ママ』も『マンマ』もなんだか区別つかないのに、あんなこと
出来ちゃうの!?」
「…出来たらしい…」
「うわぁ、凄いな! 将来がすっごく楽しみだな! レヴィンってひょっとして天才
なんじゃないか!?」
海が見ていれば「親バカ!」と断じられそうなほどニコニコ笑った光が愛息子を撫でようと
手を伸ばしかけるが、ずぶ濡れの我が身を振り返りその手を引っ込めた。
母に抱っこしてもらえるものと思って手を伸ばしていたレヴィンがううっとむずがる。
「ごめんごめん、レヴィン。抱っこは着替えてからじゃなきゃ無理だ。もうちょっと父様に
遊んでもらっててねー」
……子どもと遊ぶ時に、あだやおろそかに魔法を使ってはならない……
その一文がランティス家の教訓に加わったのは言うまでもない。
2015.08.08
二日遅れで祝レヴィン君一歳
&
光ちゃんハピバ♪
☆.。.:*・°☆.。.:*・°☆.。.:*・°☆.。.:*・°☆.。.:*・°☆.。.:*・°☆.。.:*・°☆.。.:*・°☆
パソコンのご機嫌悪くてヒヤヒヤしましたが無事upできましたε= (*^o^*)
ツイッターの診断メーカーで
ランティスと光に子供が生まれたら、性格は母親似で、喋り方や口癖は母親譲りです。顔つきは二人ともに似て、
瞳や髪の色は母親似です。よく母親の話を聞きたがり、父親とアイドルごっこをします。
こういう診断結果がでまして、「ランティスとアイドルごっこ!?想像つかん」と呟いたところ
『あーらしー、あーらしーとかやってくれるんでしょうか←』とリプして下さったSさまにヒントを貰い
こんなお話になりました。
当初はA・RA・SHIというタイトルでしたが流石に恐れ多いので、ちょっと文字を変えて、
長くしました(本文中そのまんまだけども・汗)
赤ちゃん見ても《いないいないばぁー》とかやってるランティスを想像できないと嘆いた私に
『無表情で高い高い(余裕で2m超え)してるのを想像した』と笑わせてくれたTさま。
お二人に感謝しつつ。。。。
子育て、苦労しそうだねぇ、ランちゃん(;´▽`A``