ウェディング・ベル vol.2

 

 

 

 ――数日後、精霊の森

 これまで修行らしい修行などしたことがなかったプリメーラは、荒行の連続にいい加減よれよれになっていた。

 「あとひと月半、生きてられるかしら…」

 ぼんやりとたそがれているところに仲間たちがやって来た。

 「プリメーラ宛てに、お城から手紙が来てるよ」

 人間サイズの封筒なので運ぶのも一苦労なのだ。(ランティスが急いでいたので、光もそこまで思い至らなかったらしい)

 「この封蝋、ランティスのだわ」

 これまでずっと仕事を手伝って(邪魔して?)きたプリメーラだからすぐに判った。

 「どうしたのかしら、ランティス。あのちっこいのは居ても居なくてもどーってことないけど、やっぱり特別に可愛くて

デキる妖精の私が居なくちゃ、仕事にならない、とかぁ…?」

 

 人間サイズの封筒をようやく開封して、中のカードを引っ張り出す。表面になんだか不思議な模様が描いてあるが、

特に気にもとめずカードを開く。

 「あれ?ランティス、サイン変えたのかしら…? なになに、六月三十日午前…、あ、ちょうど朝には修行明けだわ。

セフィーロ城で結婚式…?結婚式って、王子たちがやったアレよね?!行く行く!何があっても行きますとも!

これで残りの修行にも、気合いが入るってものだわ!」

 何がそんなに楽しいのか、プリメーラはぶっちぎりにハイテンションになっていた。さっきまでのだらけっぷりが

嘘のように、先頭を切って荒行に励みながら、風がお色直しで着ていたような淡いパールピンクのショートレングスの

ドレスを準備したりと、充実した日々を過ごしていた。

 

 

 ――六月三十日 結婚式当日

 半年に及ぶ、血のにじむような修行…。その成果を問われる日だった。

 「フーチュラ~っっ♪」

 高く飛んでくるくる回りながら、プリメーラはいつもの呪文を唱える。妖精の魔法はひとつの言葉で幾通りにも働きが

変わる。(当人の技量の範囲内で、だが) 荒行のおかげで新しい技、それも大技が使えるようになったはずだった。

羽からキラキラとした粒子が飛び散ると、その中から新しい姿のプリメーラが現れた。

 「ふふっ!我ながらバッチリじゃない!」 (誰かさんと同じようなコト言ってるし・笑)

 鏡の前でポーズを取りながら、ああでもないこうでもないと呟いている。

 「どのぐらいでいこう…。やっぱり、アレぐらいがいいのかしら、うーん…」

 「プリメーラぁっ!もうお迎えが来てるわよぉ!」

 遠くで叫ぶ仲間の声に、大慌てで最後のチェックを済ませる。この日のために用意した物を身につけて、プリメーラは

セフィーロ城へと出かけていった。

 

 降りしきる雨の中、プリメーラはセフィーロ城へと急ぐ。

 「あのちっこいのが『柱』になってから、ツユやタイフウや変な天気が増えちゃって、やーね、やーね」

 ランティスの前でそんなふうに言うと決まって睨まれるのだが、あのちっこいのはどう見ても、『柱』だ。それも、かなり

出来損ないの。エメロード姫みたいに完璧に出来ないものだから、『セフィーロを愛するみんなの心で世界を支える』

なんて調子イイことを言ってるのに違いないと、プリメーラはずっと思っていた。その出来損ないの『柱』のせいでランティスは

死ぬほど危ない目にも遭ったのに、『ヒカルには絶対に言うな!』と、プリメーラが決して口外しないように、『妖精の誓約』

まで求めてきたのだ。

 けれどもそんなランティスの苦労の日々も今日でピリオドを打つ。

 「セフィーロ城だわ!ランティスぅ、もうすぐ着くから、待っててね!」

 精獣たちが出入りするテラスが見えてきて、プリメーラをのせた魔獣はゆっくりとそこへ降りて行った。

 

 魔獣から飛び降りると、魔法で温かい風を起こして濡れた身体をきっちりと乾かす。

 「フーチュラ~♪」

 いつもとは違い、地球のバレリーナがピルエットでもするような感じでくるくる回る。

 「ウフッ、綺麗に乾いたわ。きっと王子たちがやったのと同じで、いつもの広間よね。急がなくちゃ」

 そういってプリメーラは城の回廊を駆け出していった。

 

 「はぁ…、走るより、飛ぶほうが断然ラクよね。これはこれで、ふぅ、不便だわ…」

 ぶつくさ、はぁはぁいいながら、プリメーラは広間(式当日は聖堂と呼んでます)にたどり着く。プリメーラの姿を見つけ、

受付係を買って出ていた少女・ミラが立ち上がり、教えられた通りにきちんと挨拶をする。

 「本日はお運びいただきましてありがとうございます。カードを拝見してよろしいでしょうか?」

 「あぁ、ランティスのあれね」

 初めてランティスから貰ったものだから、もちろんバッグの中にしまってある。

 「プリメーラ様ですね。カードお返ししておきます。いまご案内しますから」

 地球の結婚式と違いご祝儀などを預かる訳ではなく、席への案内係の意味合いなので少女にも任せていられるのだ。

 王子たちの結婚式の時、プリメーラはチゼータやファーレンから贈られてきた珍しい花々に目移りしていて、式そのものは

そっちのけだったので、最初の定位置は記憶になかった。

 「こちらへどうぞ。もう間もなく始まりますから」

 プリメーラが最後だったのか聖堂の入口が閉ざされ、案内役の少女は祭壇前の導師のほうに行き、耳打ちしていた。

 「皆さんいらっしゃいました」

 「うむ、ご苦労だったな、ミラ。お前も席に着きなさい」

 「ハイっ!」

 気さくな方とは言え、セフィーロ最高位の導師にねぎらいの言葉をかけられるなど、市井の少女にはめったにない栄誉だった。

 

 プリメーラが来たことは、気配でクレフには判っていたのだが、やはりその姿を目にすると驚かずにはいられなかった。

 「なるほど。あれが修行の成果か…」

 驚いた表情のクレフに釣られてプレセアが、そのプレセアに釣られてカルディナが後ろの席を振り返る。

 「ランティス側の一番後ろにいるの、誰…?」

 「あんなコ、ここで見たことあらへんなぁ。ヒカルが呼んだんは、あのおチビちゃんだけやろ?」

 「そうよね。チキュウからは誰も連れて来られないし、そんなに知り合いはいないハズよ」

 「ま、まさかランティスの元カノ?いや、隠し子なんちゅうことは無いやろなぁ」

 「それは、殴り込み、とか…?あ、でもミラが案内していたんだから、招待状を持ってたってことよね」

 「判らへんで。ホンマに招待されてた誰かから、ふんだくって来たかもしれへんし」

 「イーグルがエスコートするし、大丈夫とは思うんだけど…」

 「あんな細っこいコやったら、ヒカルが負ける訳あらへんし、かめへん、かめへん」

 何やら囁きあっている二人に、「ウォッホン!」と、クレフがわざとらしい咳ばらいをする。波乱含みの幕開けに

不安の色を隠せない(ちょっぴり期待感も有りぃの・笑)二人は肩をすくめつつ目交ぜした。

 

 聖堂内に一瞬静寂が訪れたとき、クレフがオートザムのジェオに目で合図を送る。セフィーロにはパイプオルガンも

聖歌隊もないので、地球の高音質ラジカセみたいなもので音楽を流す。そしてクレフが杖を振ると、プリメーラの

すぐ後ろの聖堂のドアが再び開いた。

 オートザム軍の白い礼装のイーグルと、うつむき加減で、しかもヴェールで見えにくいものの、あのちっこいのが

腕を組んで歩いてくる。プリメーラが修行に出ていた半年の間にどんな大どんでん返しがあったかは判らないが、

そういうサプライズなら大歓迎だった。

 通りすがりにイーグルがちらりと見覚えのない招待客の様子を窺う。光はこれ以上つまずかないようにと足元ばかり

気にしていて、それどころではなかった。

 「あのちっこいのには、オートザムのほえほえ~(注:イーグル)がお似合いだわ♪ランティスはいつ迎えに来てくれるのかしら」

 真新しい白の神官服に身を包み祭壇前に佇むランティスはいつも以上に凛々しく、きりりとした面持ち(ホントは睨んでなかったか?)

親友と花嫁を見つめていた。

 自分から駆けていってもいいけれど、ほえほえたちみたいに、腕を組んで歩くのも捨て難い。そうして迷ううちに二人は

祭壇前までたどり着き、イーグルは花嫁の右手をランティスの左手に預けてジェオの隣の席に着いた。

 「ほえ…?」

 「それでは、ただいまより、ランティスと獅堂光の結婚式を執り行います。皆さま、ご起立願います」

 導師の朗々と響く声でそう宣告され、プリメーラは意識を異世界まで吹っ飛ばして現実逃避したい気持ちだった。

 けれども異世界まで意識を飛ばすような大技は知らないので、いやでも結婚式を見ているよりなかった。プリメーラは

気づいてないが、彼女の心の暴風雨を察知したクレフが、こっそり魔法をかけていたせいもあった。

 

 

 すべての式次第を終えて、ランティスと光が腕を組んで幸せそうにこちらへ歩いてくる。光は一瞬キョトンとした表情を

したが、すぐに気づいて満面の笑みをたたえた。

 「来てくれたんだね、プリメーラ!ほら、ちゃんと招待状出してよかったでしょ?ランティス」

 光はニコニコとランティスを見上げるが、ランティスのほうは人間の姿のプリメーラにさすがに少し驚いていた。

 「妖精さんってスゴイね!こんなにおっきなものに化けられるんだ!」

 ……どこが大きいもんですか…。

      ランティスがちっこいのが好みなのかと思って、アンタと同じちんちくりんにしたのに……

 つつきたい悪態は山のようにあるのに、言葉になって出てこない。

 「光ーっ!おしゃべりはあとよ!ちゃんとこっちまで歩いて来て!」

 「ごめーん、海ちゃん。ランティス行こう!」

 ドアの外では二人がお祝いのフラワーシャワーを浴びていた。

 「なんで…?なんでこうなるの……? 

 

 

 

 

           ランティスのばかああああああ!!

 

 

 

 

 大事にしまっておくはずだったランティスからのカードを放り投げると、ポンっ!っと妖精の姿に戻ったプリメーラは

雨上がりの虹のかかる空に飛びだしていった。……ひらひらと、カードが舞い落ちてくる……

 

 

   Wedding Invitation

  

  六月三十日午前、セフィーロ城で結婚式を挙行する

  イヤなら無理にとは言わないが、出来れば来て欲しい

         

                ランティス・獅堂光(の花押)

                          

                       これが読めなかったらしい…

 

 

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フーチュラ…原作版だと「魔法増幅」ですが、アニメ版では治癒魔法として使っていたので、ワンフレーズでいけるのかな、という解釈でいきます

妖精の誓約…もともとは妖精同士の絶対に破ってはいけない約束ごと(破るときは命を賭ける覚悟も必要)。

         何故、人間のランティスがそういうものを知ってたかは不明(をい)

 

推奨BGMは シュガー の ウエディング・ベル です(古すぎ?)  歌詞はこちら  動画はこちら

 

レイアースSSは 14days から書き始めましたが、現在手こずってる7月2日からの過去編に至るまで、プリメーラは全くといっていいほど登場してませんでした。

あれだけランティスにまとわりついてたのにねぇ(汗) こうして書くきっかけをくださった Sanaさまに 感謝です♪        2009.10.22

 

    このお話の壁紙はさまよりお借りしています (2010.2.6壁紙変更)