ANGEL EYES
広間で義理チョコならぬ義理マカロンを配り、光に頼まれたイーグル用のとびっきり
甘いもの(風のチョイスはきんつばと丹波栗の渋皮煮と濡れ甘納豆だ)はプレセアに預けた。
回復途上のイーグルは今日に限って嗜眠傾向にあるらしく、彼が起きるのを待っていられない
からだ。
荷物の大多数が捌けた筈なのに、手提げ袋の荷物の体積はあまり変わっていなかった。
一番大きくて、一番心のこもったプレゼントがひとつ、まだ残っていた。
これほどの物を自分一人の力でやりきるのは実は初めてだった。両親に贈ったのは姉との
共同作業だったし、姉に贈った物は小物系ばかりだった。
デザインを一から全部したいぐらいだったがまだそこまでの知識はないので、彼に似合いそうな
雰囲気のものを少しアレンジしてみた。毛糸の色から風合いから、それはもう吟味に吟味を重ねた
つもりではいるが気に入って貰えるだろうか。
部屋へ近づく前に立ち止まり、ついついはや歩きになっていた自分を落ち着かせる。『息せき
切ってやって来るほど、俺に惚れてるのか?』なんてからかわれるのは、事実であるにしても
少し癪だった。
風は大人しそうに見えて委員長体質(笑)が身に染みついた仕切り屋だ。しっかりしているから
頼られるのか、頼られるうちにしっかりしてしまったのかは本人にも定かではない。そんな風が
フェリオに出逢ってからはペースを乱されっぱなしだった。
旅先の恋は二割増しというが、異世界の恋はさらに水増し…などとは思いたくない。自分も光も
海も割り増しどころかスタートラインはマイナスだった。その分相手を、そして自分の心をしっかり
見据えていた筈だ。主導権とまでは言わないが、もう少しイーブンに持ち込みたかった。
「あの瞳がいけないのだと判っていますのに…」
いたずらっぽくキラリと輝く琥珀は危険だ。何かの折に『フェリオの瞳は琥珀色、イーグルさんの
瞳は黄金色』と表現したら、光と海からは「「同じ色に見えるけど…」」とユニゾンで返されてしまった。
琥珀と黄金ではその組成から違うのに、同じに見えよう筈がない。黄金は高価で硬質な無機物だ。
かつてイーグルがセフィーロ侵攻作戦を指揮していた頃、魔神を通して感じ取った視線には故国を
背負い一歩も引かない精神力の強さがあった。優しげな容姿は瞳と同じ黄金の軟らかさがあるが、
中身はどうして鋼鉄の意志の持ち主だ。
それに対して、琥珀は有機物だ。時に他の生命を閉じ込めたまま長きの時を経てその魅惑の
姿になる。ひとたび囚われてしまったなら、そのままともに流されていくしかないのだ。
琥珀好きな祖父のコレクションのある石を見たとき、風は自分の姿を思い知らされる気がした。
甘い樹液にでも誘われたのだろうか、薄羽根を広げたカゲロウがあめ色の檻の中で時を止めていた。
そこから逃れようともがいたようには見えない楚々とした姿――虫たちにその概念などないのかも
しれないが、家族の許へ帰りたいとは願わなかったのだろうかと、そんな考えが脳裡をよぎる。
その瞳に囚われたなら、いつかはそんな選択を迫られる日がくることを、心のどこかで知って
いるから・・・・。
かの瞳が映える色を選び、喜んでくれる姿を思い浮かべている時点で、すでに同じ時間を
流れ始めているのかもしれないけれど。
コンコン
『フウなら入っていいぞ』
――そうして風は、その扉を開く――
end
2011.3.14up
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バレンタインの光ちゃんとのセットで書き上げようとして
リアルのほうでばたついた為に間に合わなかった物です
(ついでに某さまにリジェクトされちゃったし〜・爆)
タイトルはABBAの曲から
(そこまでの浮気モノではないと思いますけども・汗)