Cinderella☆Honeymoon vol.2

 

 

 

 

 

 ファーレンに来る時にも利用した貴賓室をふたたびあてがわれたが、今度は妙な気配を感じることは

なかった。

 「来る時のアレも、あの姫のいたずらか・・・?子供のいたずらにしちゃ、ノゾキってのはなぁ…」

 したかったはずのあーんなことこーんなことをしないでいてよかったと、フェリオはしみじみとため息を

ついていた。

 「アスカさんがなさったことだとは思いますけど、いたずらと決めつけるのは尚早ではありませんか…?」

 フェリオが肩を竦めたときその部屋の呼び鈴が鳴らされ、風が出てみると申し訳なさそうなサンユンが

そこに立っていた。

 「『フェリオさまとフウさまにお詫びがしたい』と、アスカさまが・・。アスカさまの部屋までお越し願えますか?」

 風のすぐ後ろに立ったフェリオが答えた。

 「ガラじゃねぇけど、ちょっと説教かましてやる。姫君ったって、やっていいことと悪いことがあるからな」

 「――申し訳ございません!」

 深々と頭を下げるサンユンの肩を抱いて、風がフェリオをたしなめた。

 「アスカさんのところにお伺いしますわ。フェリオも喧嘩腰にならないで…」

 

 

 往路は応接室でのお茶会を何度か催してくれていたが、今日はアスカの私室に招き入れられた。

風とフェリオが小豆色の八角形のテーブルにつくと、側仕えの女官たちが恭しくお茶とお茶菓子を客人に

用意する。ひと通りの準備が整ったところで人払いがされ、並んで座る風とフェリオの正面で、湯浴みをして

身奇麗になったアスカが神妙な面持ちでテーブルを見つめていた。

 説教モードの顔つきのフェリオが口を開きかけると、風はそっと二の腕を掴んで首を横に振り、アスカが

自分から話し出すのを待っていた。

 「・・・わらわは・・・フウになりたかったのじゃ・・・」

 ぽつりと話し出したアスカに、風とフェリオは顔を見合わせた。

 「ファーレン皇家の姫は、今はわらわ一人じゃ。なのに小さい頃から『もっと姫様らしく!』、『もっとお勉強

なされませ!』、『このままでは婿も取れず、ファーレン皇家は姫様でおしまいになりますぞ!!』……。

耳にタコが生えるほど、じいの説教ばかり聞かされてきたのじゃ」

 「アスカさん・・・」

 十をいくつかすぎたぐらいの年齢で、もう婿取りと皇家の行く末の心配をされてしまう少女を、風は少しばかり

気の毒に思った。

 「『姫様らしく』と言われても、このファーレンにわらわ以外の姫はおらぬ。『姫様らしくなんて言われても

解らんのじゃ!もっと具体的に言うのじゃーっ!』……そうじいに怒鳴ったら、『セフィーロのフウさまを

見習われませ』とゆうたのじゃ」

 「私を、ですか…?」

 どうしてそんな展開になるのかさっぱり解らない風が目をしばたかせていた。

 「セフィーロのお茶会のときにしか会えんが、いつでもフウはいろんな話を聞かせてくれた。異世界のことは

もちろん、こちらの世界のこともわらわ以上にたくさん知っていて……、フウの話が面白くて、それで興味を

持って自分で調べたこともたくさんあるのじゃ。『庶民の出ながら一国の王子に嫁ぐ覚悟のある方は、勉学にも

身が入っておられる』と、じいはフウをベタ褒めしておるのじゃ」

 生来、風は知識欲の旺盛なほうだ。その興味の赴くままにこちらの世界でもさまざまなことを学んではいるが、

それがたまたま結果的に≪お妃教育≫の代わりになっているというだけの話だ。

 「おいおい、じいさんまでグルでノゾキかよ…」

 「フェリオ、お言葉が少し過ぎますわ」

 呆れ顔で吐き捨てたフェリオに風がやんわりと釘を刺した。

 「チゼータにも姫はいる…、じゃが、わらわはフウのことが大好きじゃ。どこかの姫のようになれと言われたら、

わらわはフウになりたかったのじゃ……」

 「アスカさん…。――そんなふうに言われるのはとても光栄なことですけれど、アスカさんが私のようになって

しまわれては、きっとチャンアンさんも他の方も悲しく思われますわよ?」

 納得できないように、アスカはふくれっつらになっていた。

 「そんなはずはない。じいは飛び上がって喜ぶじゃろう」

 「チャンアンさんが『私のように』と仰ったのは、ただ何かを学ぼうとするときの努力というか心がけというか、

そういうものを真似ればいいという意味で仰ったんだと思います」

 「そうじゃろうか・・・?」

 ファーレン以外の国の者では一番に慕っている風の言葉にも、アスカはまだ半信半疑だ。

 「アスカさんがいまのアスカさんのままでも大切に思ってらっしゃる方は、きっとすぐそばにいらっしゃいますわ。

国の行く末を思うことも忘れてはいけませんけれど…、それを『アスカさんらしく成し遂げられること』が、

一番重要なのではありませんか?」

 「……すぐそばに……?

 そのとき部屋のドアが開き、ほかほかと湯気の立つ蒸篭を載せた

盆を手にしたサンユンが入ってきてアスカのかたわらに立った。

 「さぁアスカさま、元気をお出しになってください。お出しする予定が

なかったので遅くなりましたけど、アスカさまが大好きな桃饅頭も

ご用意させましたよ」

 桃饅頭のようにぱあっと桃色に染まったアスカの頬に、

そっと視線を絡めた風とフェリオは優しく微笑んでいた。

 

       

 

 

              2010.12.12 風ちゃん、Happy Birthday♪

 

 

 

 

 

                                                                   illustrated by アスカ:3児の母 さま、サンユン:恵 さま

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Cinderella…日本語訳は≪灰かぶり姫≫

作中のとは別のチャイナ服フェ風のイラストを見たときに、岩崎宏美さんのシンデレラ・ハネムーンがふとちらつきました

(フェ風はラブラブハッピーエンドですけども…)

発端になった絵は 風を感じて〜公開版〜 さまにあります

ちなみにタイトルの真ん中の☆は、エトワールÉtoileとet(英語のandに相当するもの)のひっかけです

(まだフランス語引き摺ってるのか・笑)

 

                             このお話の壁紙はさまよりお借りしています