つつみこむ  〜includingセフィーロ狂想曲〜 vol.7

 

 ★魔法剣士の眠れない夜★

 

 導師クレフに言いつけられた厄介な件をようやく片付け、真夜中近くに自分の部屋に戻ってきた

ランティスは、鎧を外そうとしてふと思い出した。

 「そういえば、マントはヒカルが持ってるんだったな…」

 使い慣れない系統の魔法に手間取っていたので、導師の部屋へ顔を出したときには、とっくに光は

自分の部屋に戻ったあとだった。鎧と剣を棚に置くと、ランティスはベッドに疲れた身体を投げ出した。

冴え冴えとした冬の星空を見るともなしに眺めていると、遠慮がちにドアがノックされた。

 「ランティス、戻ってる?」

 身体を起こしたものの立ち上がるのが億劫で、ベッドに腰掛けた格好のまま魔法でドアを開けて、

ランティスは声の主を迎え入れた。

 「まだ休んでなかったのか?ヒカル」

 「これ、借りたままだったから」

 ランティスのマントを綺麗にたたんだまま、光は胸に抱きかかえていた。

 「いつでも構わなかったんだが…」

 「そう言うかなとは思ったんだけど。クレフに言われたこと、今までかかっちゃってたんだ」

 「…何度も来たのか、ここに」

 「うん。気になって…。クレフが『あまりランティスが得意じゃないことやってる』って話してくれたんだ。

だから、もしかしたら私が受験勉強してるときみたいに疲れてるんじゃないかなって思って。ランティス、

私のメディテーションが上達してるって言ってくれたでしょ?それなら、今日は私がしてあげられるかなって…」

 「それでこんな時間に?」

 「ごめんなさいっ!もう寝る時間だよねっ。私がお休みの前の日は結構夜更かししちゃう性質だから、

つい…っ」

 「夜更かしには慣れてるから、それは構わない」

 構うのはむしろ、「心配だから」と言って真夜中に男の部屋にやって来てしまうこの少女の無防備さなのだ

けれど。光の頬にそっと触れながら、こんなことをあの二人に知られたら、今度は水だけではなく風の魔法も

襲いかかってくるだろうなと、ランティスは思わず苦笑いをしてしまう。

 「ランティス、笑ってるし…。子供が生意気言ってるとか思った?」

 「いや。じゃあ今日はヒカルに任せてみよう」

 いつものように座らせようとすると、光は「そうじゃなくて」とかぶりを振った。

 「あのね、初めてやったときみたいに、向かい合わせがいいんだ。ランティスにもたれちゃうと、私、すぐに

眠っちゃうから」

 それはそれで構わないんだが、とは言葉に出さず、光が望むままに脚を組み、膝の上に座らせる。額と額を

合わせようとランティスが顔を近づけると、光はすっとかわして左肩に彼の頭を受け止め、ふわりとつつみこんだ。

 「ヒカル?!ちょっと待て、これは、まずい…」

 「だっておでこコツンじゃ、ランティス寝られないでしょう?このほうが枕になると思うし。やっぱり疲れてるから

かな?心拍数上がってるね」

 ランティスの心拍数が跳ね上がるのも当たり前だった。光の服装は昼間見たときのままで――浮き上がった

鎖骨のラインと、豊満とはいえなくても柔らかなふくらみに続く素肌に直接触れていたのだから。これで心拍数が

変わらなければ、それは心か心臓のほうがどうかしてるというものだ。

 「えーっと、落ち着かないときは、一緒に数をかぞえてくんだっけ?1…、2…、3…、ランティス、ちゃんと

一緒にかぞえて!」

 「だから、ちょっと待てと…」

 なけなしの自制心が働いているうちに顔を光の肩から離そうとしているランティスをしっかり抱え込んで、

光の指導が入る。

 「もう、ランティスってば、真面目にやらなきゃ絶交だからね!」

 その一言に、ランティスの抵抗がぴたりと止まる。これまでの魔法騎士たちとの日々で彼にも「絶交」の意味は

判っていた。

 「もう一回、1からかぞえるよ?いーい?」

 「「1…、2…、3…、4…、5…、6……」」

 光に言われるままかぞえはじめたものの、たとえ数をいくつかぞえようとランティスが落ち着けるはずも

なかった。メディテーションを重ねるうちに、光が自分に対してどういう感情を抱いているかも、ランティスには

手に取るように伝わってきていた。

 『好意』と『信頼』――けれどもその『好意』はいまだ『友人の一人に対する好意』の域を踏み超えるかどうか

という微妙な代物で、そうである以上は彼女の『信頼』を裏切るような行為に及べるはずもなかった。彼女の

心がこれだけ伝わってくるのに自分の心が少しも彼女に届かないのは、やはり自分のメディテーションは

上手くいってないのだろうかなどと考えているうちに、光の声は途絶え、規則正しい寝息が聞こえてきた。

 「結局先に寝てるんじゃないか、ヒカル。…それに、こういうのはメディテーションじゃなくて、拷問っていうんだ」

 そんなランティスのつぶやきも夢の国の住人には届かない。熟睡しきって横倒しになった身体をランティスが

抱きとめても、目を覚ます気配もなかった。すっかりランティスに預けきっている光の身体を抱え上げて、きちんと

ベッドに寝かせなおす。ほんの少し開かれた光の口許が、ランティスの理性を試すように誘っていた。光の身体の

両脇に腕をついて、吐息がかかるほどに顔を近づける。微かな風を顔に感じて、小さく身じろぎしたものの、

光は安心しきった顔で眠っていた。

 「…これぐらいは、許せ」

 くちびるを重ねる寸前で、ランティスの動きが止まる。しばらく迷ったあと、ランティスは光の頬に小さなキスを

落とした。

 「おやすみ、ヒカル」

 そう言って彼女の右手を大きな両手でつつみこみながら、ランティスは光の寝顔を夜が明けるまで眺めていた。

 

 

                                                                                                                         2009.11.1 up

 

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メディテーションのやり方ですが、ザガートがランティスにしたのは「おでこコツン」、ランティスがイーグルにしたのは額に手をかざすやり方でした(別のやり方を期待してましたか?・笑)、

ランティスと光ちゃんがやってるやり方は、なんだかんだ言ってますが、多分、ただ光ちゃんを抱っこしたいだけだと思います(爆)(海ちゃんの「むっつり…」発言もあながち

ハズレとは言えない。。。)

「ぎゅーっ。」はお昼寝のときの抱っこの理由、こちらはお昼寝してないときの抱っこの理由でしょうか(どっちにしろ、光ちゃんすやすや寝ちゃいますが・笑)

 

「ぎゅーっ。」を書き上げる頃に、相互リンクしていただいている「うまれたてたまご」さまで新作を拝見しまして、

ついついスイッチが入ったというか、タガが外れたというか、暴走モードに入ったというか…(笑)で

〜セフィーロ狂想曲〜の部分を書きたくなりました (「うまれたてたまご」の cian さま、天啓的なネタをありがとうございます)

タイトルが「つつみこむ」なのは、SanaSEEDさまのイベント参加用に書いたからなのですが

突っ走りすぎの「狂想曲」部分が、Lantis & Hikaru FESTA の主旨に外れてる…かも(滝汗)ということで、別ページにupしました。

(「狂想曲」部分を抜いて1本に出来るかなとも思ったんですが、筆力がとても及びませんでした orz )                           

 

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