あなただけの。vol.4

 

 

 

  城へ戻ってからも、ランティスの部屋で過ごしながら、光は飽かずに指輪を眺めていた。まもなく東京へ

帰るという頃になって、ふと光の眉が曇った。

 「でも、大丈夫かな」

 「どうした?」

 「ほら、東京から持ち込むのは平気なのに、セフィーロから東京に持ち出すもの、ごくたまになくしちゃう

ことがあるから…」

 そんなことがあったから、光たちはランティスたちを連れて東京に飛ぶことを断念したのだ。物を失うなら

ともかく、大切な人を喪うかもしれないような危険は冒せなかった。

 「ああ、それなら…」

 ランティスは光の左手を大きな右手で包んで、光の知らない言葉で呪文を唱えはじめた。光は青ざめた

顔でランティスを止めようとした。

 「ランティス、それ禁呪じゃ…!」

 『静かに』というように、左手の人さし指を光のくちびるにそっとあてて、そのままランティスは呪文を唱え

終えた。光の薬指の指輪が一瞬だけ淡いオレンジ色のひかりに包まれ、それが収まるとまた元の蒼い

ひかりをたたえていた。

 「よく禁呪だと解ったな」

 「だって、知らない言葉だったから!危ないことはしないって、あのとき約束したじゃないか!」

 泣きそうになりながら抗議する光の頬に、ランティスがそっと触れた。

 「危ないものなら城では使わない。解き明かされた禁呪のうち、導師に報告して承認を受けたものしか、

街中では使えないんだ。――あのときは、辺境にいたから少し無茶をしたが、これは今朝、導師の承認を

受けたから問題ない」

 「朝、クレフのところに行ってた…」

 「そう。トウキョウへ飛ぶときに時々物を失ってしまうと言っていたから、それで対応できるかと

思いついたんだ。ヒカルが強く念じれば、その指輪はヒカルの内に取り込まれる。それなら失くさない

だろう?」

 光はじっと指輪を見つめて、『私の中へ!』と強く念じた。

 「あ、消えた…!」

 目を丸くした光は、もう一度強く、今度は、『私の指へ!』と願った。

 「戻ってきた…。これって、ランティスの父様がかけたペンダントの魔法と同じ?」

 「いや、また別のものだ。あちらのほうはまだ手がかりがないんだ。すまない」

 「謝らないで。いまのところ検査も引っかからずにすんでるんだし。ランティスさえよければ、ペンダントは

私がこのまま預かってるよ」

 「俺はずっとヒカルに持っていて欲しい。いつか、ヒカルがそれを託したいと思う者が現れるまで」

 ランティスのまっすぐな視線を受け止めながら、光がふわりと微笑み返す。

 「うん。いつかくるその日まで、護ってもらいながら、大事に護っとくね」

 「指輪のほうは、それでなんとかなるだろう。だが、仮に失くしたとしても、気に病むことはない。異世界

まで俺の魔法が及ぶかどうか、定かではないからな」

 「でも失くしたくない…」

 「コンヤクユビワは『いずれケッコンする約束の証』、だったか?」

 「そうだよ」

 「だが本当の約束の証は――」

 言葉を切って、ランティスは光をふわりと抱きこんだ。

 「互いの心の中にあるから」

 「うん…」

  

 

           

 

 

 

 東京に帰った光の左手には蒼い石が煌めく指輪があった。風が『東京に戻ると魔法を使えない』と

言っていたのでどうかなとは思ったものの、ランティスの使った禁呪はやはり強力なのか、その効力を

示していた。口うるさい優や翔に見つかると厄介なので、光は自分の部屋にいるときだけその指輪を

左手の薬指に戻した。その指輪を見つめながら、遠い世界の想い人に光は語りかける。

 「婚約の証としてもらったけど、それだけじゃないんだ。これは、その日の想い出にもつながっていくから。

やっと・・・、やっと・・・貴方だけのものに・・・・・なれた、その日の。ずっと、忘れないよ」

 

 

 

 

 

                                                2010.8.9

                                (Lantis&HikaruFESTA投稿作品から一部改稿)

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あとがき

 

 SanaSEEDのSanaさまが主催された参加作品を一部改稿。

 

 『レイアースの中からシチュエーションお題5

  5.やっと・・・貴方だけのものに・・・・・ 原作1-3エメ』

 光ちゃんにこれを言わせるのは絶対無理だと思ってたんですが、

 なんとなく思いついてしまったのでFESTA参加3本目という暴挙に出ました

 主催者のSanaさま、荒しなヤツですみませんでした (^_^; 

 うちのサイトで公開してる IF YOU で書いた

 光ちゃん二十歳の誕生日の翌日の話になります

 

 蒼い石の指輪と壁紙はさまよりお借りしています