0 The Fool (愚者)  

                                  XII 吊るされた男 spin off 

             〜俺の女に手を出すな〜 

     

 

大人の女性二人とのハイティーを終えて城に帰ってきたものの、久しぶりに顔を見たいと

思っていたイーグルたちは所用でNSXに戻っている(いや、単に逃げただけデス・笑)といい、

ランティスたちの帰りももう少し遅くなるという話だった。海や風もそれぞれ恋人と過ごして

いるのだろう、広間にも部屋にも姿が見えなかった。

「ま、お泊りなんだし、今晩中にランティスと話が出来ればいいか…」

海にダビングしてもらっていたミニDVのカセットも用意して、光はランティスと話をつける気

満々だった。光の部屋にはミニDVプロジェクターがないのであちらで待とうと、≪近道≫を

通り抜けて、光はまだ主の帰らないランティスの部屋へと向かった。

今日も彼女を迎え入れる為にひとりでに開く扉から、「お邪魔します」とひと声かけて

入り込む。あの夜と同じように、机の上にはさまざまな古めかしい書物が広げられたままで、

走り書きのメモも多数あった。

「あれ、今日も結界張ってあったのかな…?やっぱり解んないや」

走り書きのメモとは別に、光が贈ったクリスタル細工のペガサスのペーパーウェイトの下に、

綺麗な文字の日本語でしたためられた便箋が一枚あった。

   

 

 

    『光へ

    

    魔物退治で出掛けることになった。

    お前が東京に戻るまでに帰れないかもしれない。

    来てくれたのにすまない。

                   

                        ランティスより』

 

 

 

枕の下に置き去りにした婚約指輪の意味を取り違えていたランティスに、『書き置きぐらい

すればよかったかな』と苦笑した光の言葉を覚えていたのだろうか。急いでいたはずなのに、

逢えないかもしれない光の為に置き手紙を残してくれたのが、なんだか嬉しかった。

「ランティスってば…。こんな風にされたら、怒るに怒れないじゃないか……」

「何を怒る気だったんだ?ヒカル」

「わぁっ!ランティス!?いつの間に…。あ、お帰りなさい」

「『こんな風にされたら、…』の辺りから聞こえたが。だいたいどうして扉を開けたままなんだ?」

「だって暗かったから…」

「灯りの点け方は教えただろう?」

そう言いながら、ランティスはパチンと指を鳴らして室内灯を点し、軽く右手を振って扉を

閉めた。光もランティスの真似をしてはみるのだが、指はまったく音を立てなかった。

「ごめんなさい。私、指、鳴らせないんだ」

「それを先に言え。ヒカルにはまた別の方法を考えよう」

胸元の蒼い宝玉に触れると、瞬く間に鎧やマントがひかりの粒子になって消えた。多少

疲れてもいるのだろう。光をお姫様抱っこで抱え上げると、その勢いのまま執務机の

大きな背もたれ付きの椅子にどさりと座り込み、抱きしめた光のくちびるを奪った。

「…逢いたかった…、ヒカル」

くちづけの合間に囁かれる低く優しい声に耳をくすぐられると、そのまま流されてしまいそう

だった。

「ラン、ティス…」

深くて蕩けるように甘いくちづけを交わしながら、ランティスはともしたばかりの灯りを

落として光のブラウスをたくし上げる。ランティスの大きな手が胸に触れたところで、光が

その手首を掴んで、思考力を放棄してしまいたくなるようなくちづけから逃れた。

「待って。私、怒ってるって言ったでしょ?」

しっかりと腕の中に抱き込んだまま、ランティスは光の耳元で聞き返した。

「だから、何を?」

「この間の夜、私の身体に魔法を埋め込んだんでしょう?」

「ああ」

「や…ん。…認めるん、だね…」

ランティスがずっと耳にくちびるを触れたままで話しているので、光は話すのもやっとだった。

「ヒカルに、嘘をつきたくない。気づくのが早かったな」

「いろいろと…、証拠があるから…。ぁん、もう少し、離れて。ちゃんと…話せないじゃないか」

「くちびるを塞いでる訳じゃない。このままでも、話せるだろう?」

少し離れてと自分で言っておきながら、光の右手は無意識のうちにランティスの服の

二の腕あたりをぎゅっと掴んでいた。

「もう、…子供たちに雷を落としたりして…、あんなことしちゃダメだよ」

「普通に接している子供には落としてない。ヒカルも手を焼いていただろう?」

「う…ん」

「悪いことをするヤツには、相応の仕置きが必要だ」

「そりゃそうだけど…。あん」

ランティスが首筋に軽く触れるように話すので、光には「話をつける」気力を維持することが

難しかった。

「まだ懲りずにくるヤツがいるか?」

「ううん、収まってきてる…」

「お前に手を出すのなら、子供といえど容赦はしない。教育的指導だ」

「ランティスってば…」

「ヒカルは、俺のものだ」

さっきよりも情熱的なくちづけに抗うことも出来なくなり、縋りつくようにランティスの背中に

回した左手が、ざらつくような、ごわつくような感触と大きなかぎ裂きに触れた。そのざらりと

したものの匂いをくんと嗅いで、ぎょっとした光がふたたびランティスのくちびるをかわした。

「ランティス、怪我してるんじゃないの!?」

一瞬、「しまった」という表情を浮かべたランティスが、光の耳たぶを甘噛みしながら答えた。

「傷は治ってる。怪我人が多かったから、プリメーラも服まで面倒見きれなかったんだろう。

もう、なんともない」

「…あ…ん、それでも、大人しく寝ようって気に、ならない…の?」

「ならな…い…。いますぐ、ヒカルが欲しい…」

心はそれを望んでいるのに、二日連続の夜回り明けに三日三晩のお荷物連れでの魔物

退治の強行軍だったので、さすがのランティスも押し寄せる疲れと睡魔に抗いきれなく

なっていた。あたたかくて柔らかい、これ以上はない心安らぐ抱き心地に、ランティスは

眠りの園に足を踏み入れていく。

「ランティス…?もう、こんなところで寝ちゃダメだよ。ちゃんとベッドに入って!」

「ああ……判ってる……」

「判ってるなら実行してってば!私、ランティスを抱っこなんか出来ないからねっ!!」

言葉とは裏腹に寝入って力の抜けていくランティスの身体の下で、何とかして起こそうと

光がポカポカと腕や背中を叩く。肩に当たった右手にもまたさっきのように、ごわつくかぎ

裂きが触れて、光はびくりとしてランティスを叩くのをやめた。

「こんなにあちこち怪我してたのか……。……無事でよかった……」

このまま朝まで眠ったら、二人とも身動き取れないほど身体が強張ってしまいそうだなと

思いつつ、愛しい人を抱きしめたまま熟睡してしまったランティスを光はふわりと包み込んだ。

 

 

 

 

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ハイティー…ファイブオクロックティー。午後のかなり遅い時間のお茶。

 

あとがき

最初に考えたエンディングではいくとこまでいってたんですが(その言い方ヤメロ?)

魔物退治から帰ってきて、シャワーも浴びないのは酷いんじゃない?と思い、寝ていただきました。

またオアズケでごめんね>ランちゃん(笑)

(でもまぁ、冒頭ではかなり、ねぇ……?)

 

オリジナルキャラのシュウくんこと光景鷲ですが…

誰かさんの名前をso-netホームページの検索窓の「英和」で検索してみてください

ええもう、そのまんまですから(笑)

・・・・だから、暴走しちゃったんでしょうかね、L氏・・・・(爆)

(そのうえ顔が似てるなんて知ったら………。NSXに退避したのは正解でしょう(ry )

 

                                                                                             このお話の壁紙はさまよりお借りしています